高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

目的とはいつの間にか変わっているものだと思う

公開日時: 2021年2月9日(火) 23:28
文字数:4,556

 ショッピングモールや大きな店に行くとつい目的の商品を買わずに関係ない商品に目が移り、必要な買えずに終わる。なんて経験をした事がある人はいると思う。俺には買い逃し経験はなく、目的を忘れて他のものに目移りする奴の気持ちは分からない。分かるのは買い物に付き合わされた挙句、目的を忘れた奴に振り回されて時間を無駄にしてしまった奴の気持ちだけだ。


「お祖母ちゃん! きょうと一つになる方法を早く! ハリー!ハリー!」


 このムスコンを拗らせたお袋は当初、俺の今後に関わる話という事で単独行動を取ってまで曾婆さんに会いにやって来た。で、その重要な話というのが嫌な事は素直に嫌と言え。なぜそんな事を言ったのかと問い詰める事だったらしいのだが、オカルトチックな方向へ話が飛び、結果として、我が母のムスコンを余計に拗らせる結果に終わり、現在に至る


『さ、早織ちゃん?本当は別の話があって来たんだよね?』

「そんなのどうでもいいよ! それよりもきょうが暴走しても一緒にいられる方法!! そっちの方が重要だよ!」


 お袋の優先順位が分からない……というか、息子が暴走するかもって言われてそれをどうにか止めようとするのが母親であり、暴走を助長させるような真似はしないのが通常の母親だろ?


『私も恭の事は曾祖母として大好きだし甘やかしたい気持ちはあるけどさぁ……』


 曾婆さんが何を言いたいのかは解かる。いくら大好きでもお袋のは異常だって言いたいんだろ?俺、分かってる


「お祖母ちゃんと私は違うの! 私はきょうを一人の異性として大好きなの!!」

『うわぁ……』


 奇遇だな。俺もうわぁ……って思ったぞ。ラノベに出てくる息子を異常なくらい愛する母親は萌え要素があるんだけど、こうして目の当たりにするとドン引きだ


「引いてる暇あったらさっさと教える!!」


 目を血走らせたお袋は教わる側だというのに態度がデカい。アンタ仮にも教わる側だろ?もう少し教える側には敬意をだな……まぁ、俺も無能教師、バカ教師にはボロクソ言う方だから人の事は言えねぇか


『はぁ……ダメだこりゃ』


 全くその通り。ムスコンを拗らせたお袋に何を言っても無駄。ダメだこりゃが出てくるだけまだマシな方だ


「早う!早う!」


 オモチャを強請る子供。今のお袋を一言で例えるにはピッタリの言葉だ


『はいはい。とは言っても早織ちゃんはすでに第一関門から第三関門を突破してるから残るは第四関門だけなんだよね~』


 第一関門から第三関門の内容を詳しく! 詳しく言ってくれ!


「そうなの?」

『う、うん……ね、念のため第一関門から第三関門の詳細な内容を説明しようか?』


 キョトンとするお袋と顔を引きつらせ、どうにか笑顔を作る曾婆さん。両者の表情は対局と言ってもいいくらいだ。解からないのはお袋の発言は確かにドン引きするものばかりで俺も時々引く。常日頃から一緒にいる俺でさえ時々引く程度なのに曾婆さんの表情はドン引きなんてもんじゃない。もしかして俺の知らないお袋ドン引きエピソードがあると言うのか?


「お願いします! 師匠!」


 勢い良く曾婆さんに頭を下げるお袋はアニメやラノベで言うところのアポなしで主人公や主人公の周囲にいるキャラに弟子入り志願するキャラそのもの。本来の目的は曾婆さんに余計な事を言うなって釘指す事なんじゃなかったのか?おい


『し、師匠……』


 孫娘から師匠と呼ばれたのが嬉しかったらしい。引きつってた顔が一気に緩んだ


「師匠! 第一関門から第三関門の内容のご説明をお願いします!」


 お袋もお袋で味を占めたのか曾婆さんを師匠呼び。ここへ来た目的変わってんじゃねーかよ……曾婆さんへの文句はどこ行ったんだ?


『そこまでされたたら仕方ない! 良かろう! ワシが第一関門から第三関門の内容を詳しく説明して進ぜよう!!』


 曾婆さん! 乗せられやすい子! 頭下げて説明してください!ってお願いしただけなのに! 俺の曾婆さんマジ単純!


「お願いします!」


 お願いしますじゃねぇんだよなぁ……まぁいいや……


『うむ! ではまず第一関門! 取り憑いた相手を最も愛す!』

「はい! 私はきょうを誰よりも愛してます! やれと言われたらあんな事やこんな事、さらにはこんな事もやる所存です!」

『うむ! 良い心がけじゃ! 次! 第二関門! 取り憑いた相手に全力で尽くそうとする精神!』

「はい! 私はきょうに全力で尽くします! 欲望のはけ口になっても構いません!」

『うむ! お主、筋が良い!』

「ありがとうございます! 師匠!」

『では! 第三関門! 取り憑いた相手に依存する精神!』

「私はすでにきょうに依存してます! しまくってます!」

『知っとるわ!』


 なるほど、解かりたくないけど曾婆さんの言ってた事の意味は解った。まずお袋が第一関門から第三関門までは出来ているという意味についてだ。今のしょうもないやり取りで分かったのは第一関門は言い方を変えれば取り憑いた相手に深い愛情を持てという事。第二関門に取り憑いた相手に尽くそうとする精神あるけど、これもどうかと思う。要するに取り憑いた相手に利用されていると解かってながらもソイツの望みを叶えろと俺にはそう聞こえる。最後、第三関門は……言うまでもない。問答無用でヤンデレになれって言ってるようなモンだしな


「お祖母ちゃん! 私は第一から第三まではクリア済みなんだよね?」

『そうだよ。残るは第四関門だけ』


 ムスコンを拗らせてるお袋でも第四関門だけはまだクリア出来ていない。この事実を俺はどう受け止めたらいい?笑えばいいのか?


「なら早く第四関門を教えてよ!」


 曾婆さんを急かす今のお袋はクリスマスプレゼントの中身を早く知りたい子供だ。父親にプレゼントの中身をクリスマス前に教えろとせがむ子供……


『はいはい、急かさないの。ちゃんと教えるから』


 急かす子供を宥めるような口調でお袋を制す曾婆さん。見た目ロリでも立場上は祖母と孫。お袋が子供っぽく見えるのは多分、曾婆さんがいるからなんだろうな


「早く早く!」

『はいはい。じゃあ、教えるけど、その前に』

「その前に?」

『早織ちゃん、恭の身体から出よっか。これは恭────取り憑いている相手の意識があって初めて成立するものだからさ』

「そうなの?」

『そうなの。さっき魂と魂がくっついて離れなくなっちゃうって言ったけどさ、簡単に言うと取り憑いてる相手に依存するって事なんだよね。それもただの依存じゃなくて一方的な強依存』


 第三関門の内容が依存だった。曾婆さんが取り憑いた相手に依存する精神!と言い放った後、お袋は自分はすでに俺に依存している、しまくっていると答えた。息子の俺からすると母親が依存してくるというのはかなりヤバいのでは?と危機感を覚え、生きていたら俺は迷わずお袋を精神病院へ放り込んでいただろう。第三でこれなんだ、第四関門は相当ヤバいものに違いない


「きょういぞん?共に依存するあれ?」

『違うよ。深い意味合いはこれから説明するけど、漢字にすると強く依存すると書いて強依存。まぁ、この言葉は四十九院の一族がヤンデレって単語がない時代に作った造語で辞書には載ってないから早織ちゃん達が知らないのも無理はないけど』

「そうなんだ……で、私はきょうの身体から出ればいいの?」

『うん。さっきも言ったけど、第四関門は早織ちゃんだけじゃ出来ないから』

「そういう事なら分かったよ!」


 お袋が身体から出て幽霊に戻る。彼女が出て行ったからといって意識が朦朧とするとか、目眩めまいがするなんて事はなく、強いて言うなら寝起きと同じような感覚がするだけで問題視するほどの事でもない


『出たよ! さあ! 早く第四関門に入ろうよ!』


 女の姿だからなのか、曾婆さんを急かすお袋が若干可愛く見え、こういう時だけは男に生まれて損をした気分だ


『急かさない急かさない。第四関門に移る前に恭への説明が先でしょ?』


 この口振りから曾婆さんはお袋が俺の身体を使っていたのは知ってても俺が今までの話を全部聞いてたのは知らなかったらしい。


「全部聞いてて知ってるぞ」

『知ってるって事は……恭、もしかして……』

「ああ、お袋に身体を貸してる間の事は全てお袋の中からっつったらいいのか?そこから全部聞いてた」

『う、嘘……』


 信じられないようなものを見る目で俺を見つめる曾婆さんは驚愕のあまり口を開けたまま動かなくなる。


「嘘じゃねぇ。お袋がムスコンを拗らせた事やお袋が自分の黒歴史を俺に知られたくないがために俺単体じゃアンタに会わせないって言った事も全て知ってるぞ。これで信用出来ねぇっつーならここに来てからのやり取り全て話そうか?」

『いや、いいよ。嘘を吐いてるって感じはなさそうだしね。それに、今までのやり取りを聞いてたなら私達がこれから何をしようとしているか知ってるでしょ?』

「ああ。俺とお袋が絶対に離れないようにするんだろ?」

『正解。それでね、恭。一つ確認いいかな?恭と早織ちゃんが離れないようにする前の大事な確認』


 大事な確認が何なのか大体の見当はつく。こういう展開でされる確認なんて相場が決まってるからな


「何だよ?」

『話を聞いてたなら解かってると思うけど、今からするのは恭が万が一暴走しても早織ちゃんの魂と恭の魂が絶対に離れなくなる言わばおまじない。成功すれば形的には今までと全く変わらないし、幽体になっても一人で出歩いたりは出来るよ。でもね、早織ちゃんが病んじゃう可能性があるんだ。恭は早織ちゃんが病んでも今と変わらずに接してあげられる自信ある?』


 病む可能性なんて誰しもが持っている。好きな人を対象に病むのか、人間関係や仕事に疲れて病むのかと違いはあれど絶対に病まないという奴なんていないだろう。それにだ、零達はヤンデレに片足を突っ込んでるわけで俺にとってヤンデレが一人増えるだけ。ただそれだけの事だ


「自信があるかないかで聞かれると正直分かんねぇけど、どんな風になったってお袋はお袋だ。病もうが何しようが接し方を変えるつもりは微塵もねぇよ」


 ヤンデレ、メンヘラを見て面倒だとは思う。だってそうだろ?呼び方と内容が違うだけで突き詰めればただのかまってちゃんだ。自分の事は自分が一番理解しているとはよく言ったもので、多分俺に合うタイプの女はヤンデレだ。だからなんだろうな……ほんの少しだけお袋がそうなってくれたら嬉しいと思ってしまうのは


『その言葉に嘘はない?』

「ねぇよ。曾婆さん、俺の記憶見て解ってんだろ?俺に合うタイプの女はヤンデレだって」


 真剣な表情でこちらを見る曾婆さんに同じく真剣に返す俺。創作上のヤンデレには萌え要素があり、現実では単なるめんどくさい奴。そのくらいの方が俺には合ってる


『恭がそう言うなら私はもう何も言わないよ。早織ちゃんから何か言う事ある?』


 曾婆さんは柔和な笑みを浮かべ俺を一瞥すると視線をお袋へと移す


『きょう……お母さんをずっと愛してくれる?』


 瞳に涙をたくさん溜め、こちらを見るお袋。どう答えてもマザコン認定は避けられないこの質問に俺は……


「当たり前だ。幽霊になってまで自分を愛してくれた母親を愛さないわけがないだろ」


 自分の思いを真っ直ぐに伝えた。当然、俺がお袋へ向ける愛は息子としてのもので異性としてのではない。


『約束だよ?』


 そう言ってお袋は立てた小指をこちらへ向ける


「ああ、約束だ」


 俺も同じように小指を立て、お袋へ向けた。

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