高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

自己満足のお節介って必要なんだろうか?

公開日時: 2021年4月2日(金) 23:20
文字数:3,931

「父さん……」

『凛空……』


 二階の突き当りにある部屋。それが凛空君の部屋。壁にポスター一枚なく、机とベッド、本棚と置かれているものはごく平凡な中学生のそれ。違うのは仏間で見た男性の写真とは別に快活そうな女性の写真が机に並べて置かれている事くらいだ。霊圧を探知し、ここまで来て目的の人物を見つけたのはいい。だが……


『こんなドシリアスな感じだとは思ってなかったぞ……』


 寝てる凛空君は寝言で父を呼び、写真の男性は切なげな表情で彼を呼ぶ。二日くらいでチャチャッと解決……は無理なんだろうなぁ……なるべくだったらスクーリングの振り替え休日期間中に解決したいのだが……二人の様子を見るとあの方法以外で早期解決は見込めない


『もうちょっと単調な問題かと思っていたんだがなぁ……』


 単に同じ経験をした先輩として辛い時は遠慮なく周囲を頼れってタイミングを見計らって諭せばいい。だからこの問題自体解決は簡単だと思っていた。早織達から話を聞いた時も双方を諭せばいいのではないかと思ってたんだが……


『問題の根底は思った以上に深かったか……』


 男性から話は聞いてないが、毎晩こうして枕元に立っているのではって考えると話を聞かずとも問題の根底が深いところにあるのでは? と思ってしまう。話を聞かない事には何も始まらないけどな


『凛空……お前はまだ……』


 寝ている凛空君を見つめながらどこか苦しそうな顔をする男性。俺はこれをいつまで見せられればよいのやら……シリアス要らん……とは言えねぇが、これを永遠に見せられ続けてたら話をする事すらできねぇ


『あの~、凛久也りくやさん? お話いいですか?』

『ああ、早織さんに想花さん。それに……そっちは息子の恭君で合ってますか?』

『そうですよ~。それより、きょうにお話聞かせてあげてください。そうじゃなきゃこれから安心して凛空君を見守れないでしょ?』

『そうですな! いやぁ~これは失礼!』


 早織に話しかけられても驚きすらしないとは……幽霊っつーのはよく分からん。シリアスな雰囲気から打って変わり、凛空君みたいに元気よく笑う凛空父。もとい凛久也さん。さっきの感じどこ行ったんだ? オイ


『何がどうなってんだよ……』

『無理してるのよ』

『無理ねぇ……』


 神矢想花がコッソリ教えてくれはしたが、俺にはとても無理しているようには見え……なくもないか。アレを見た後じゃな。それよりもだな……


『いやぁ~、本当に凛空はハーレムで羨ましいのなんのって! 男として嫉妬してしまいますよ!』

『私もきょうが自分以外の女の子に囲まれてるのを見るだけで嫉妬で全員殺してしまいそうになりますよ~』

『ですよね! 自分の息子が複数の異性に囲まれてるとか嫉妬を通り越して殺意湧きますよね!』

『ええ!』


 そこの親幽霊二人。物騒な話で意気投合するな。片方はネタかもしれねぇが、片方はマジっぽいから怖いんだよ


『夜中に物騒な話しないでもらえませんかねぇ……』

『それだけ愛されてるって事なんだから大人しく受け入れなさい』

『物騒な愛はいらないんだよなぁ……』


 親に愛されてるのは子供として純粋に嬉しい。だが、重すぎる愛は……いらないんだよなぁ


『そうなの?』

『そうだよ。愛されんのは嬉しいが、重すぎる愛は勘弁だ』


 この後、この親幽霊の物騒な会話を強引に中断させ、凛空パパを仏間に叩き込んだ



 で、現在────


『アンタが凛空君に対して抱いてる不安要素を全部吐き出せ』


 凛空パパを正座させていた


『えと……は、吐き出せと言われても……僕はただ、凛空が幸せな姿を見れればそれでいいんですが……』


 物騒な子供愛を早織と語り合ってた奴が何を今更。凛空君が幸せな姿を見れればそれでいいだなんて通用するわけねぇだろ


『そうか。俺には凛空君の幸せな姿を見る以外に別の未練があるように見えたんだが……気のせいだったか』


 俺はその場を後にしようとした。しかし……


『きょう、本当は分かってるよね? 凛久也さんがお母さんと同じだってさ』


 早織に止められた。彼女の言うように分かってはいる。ただ、何となくの範囲だから確証はない。俺と凛空君じゃ環境が違いすぎる。凛空君には心配してくれる蒼って友達がいる。だが、俺にはいなかった。心配してくれた友達も、家族も……いないといないで大変なんだろうけど、いるといるで大変なのかもしれない。世の中って本当にめんどくさい


『知るか。凛空君の事もだが、この人の事も本来俺には関係のない事だ。本人達がそれでいいと思うなら空元気でも何でも振り撒いてろよ。別に俺関係ねぇし』


 自分が苦しんでる姿を見て周りの人間がどう思おうとどうでもいい。自分の苦しみは自分にしか分からないしな。苦しみを吐き出したら楽にはなると思う。だが、吐き出したくないというのならそれもまた一興。凛空君も凛空パパも好きにすればいい


『きょうは凛久也さんを見捨てるの?』

『見捨てはしねぇけど、突き放しはするな。さっきも言ったろ? 凛空君の事も凛空パパの事も俺には関係のない事だ。本人達が今のままでいいならそうしてればいい。もしも現状を変えたいのなら誰かに頼ればいい。どうするかは本人達の自由だ。俺がどうこう言う事じゃない』


 悩み相談なんて相談に乗ってほしいと思うからする。必要ないと思うならしない。ただそれだけだ。凛空君も凛空パパも悩みはあれど相談する必要がないから黙っているんだ、そこへ見ず知らずの俺が押し付けがましく悩みを聞いたところで意味はない


『それは……そうだけど……きょうは目の前に悩んでいる人がいたら助けたいと思わないの?』

『思わねぇよ。悩んで悩んでどうしても苦しいと思ったら誰かに相談するだろうしな。やらないって事は自分で解決できるって事だろ? 俺────というか、第三者の助け必要か?』


 カウンセリングだって自分じゃどうしよもないから行く。だが、カウンセラーの方から何か悩みはありませんか? と寄ってくる事はない。俺がしているのはそういう事だ。いつも受け身ってわけにはいかないけど、見ず知らずの奴に限れば……相手から悩みを言ってくれるのを待つしかない


『恭様、いくら何でも冷たすぎないかしら? 困っている人がいるならお節介だとしても手を差し伸べるべきだと思うのだけれど?』


 これまで黙っていた神矢想花が口を開く。何を言いだすかと思えば……俺に好意の押し付けをしろってか?


『本人が望んでなかったとしてもか?』

『え?』

『今の凛空君と凛空パパを見てると第三者が介入する事を望んでるようにはとても見えねぇんだわ。それでも俺は凛空君達親子の悩みを聞かなきゃいけないか?』

『いけないわ。世の中には自分から悩みを打ち明けられない人もいるのよ』

『だが、悩みを言わない奴だっているだろ。俺はめんどくさい事が嫌いなんだ。悩んでる奴に自分から声掛けてやるほど優しくはねぇんだよ』


 ついでに言うと困ってる人は是が非でも助けるって熱い心を持ち合わせてもいない


『でも……』

『でももストもない。悩みや頼み事がないなら俺は帰る』

『待ちなさい!』

『待たねぇよ』


 神矢想花の制止を振り切り俺は一条家を後にした




 早織達と幽体で一条家に乗り込んだ次の日……というか、今日。俺はスクーリングの振り替え休日二目。グータラライフを全力で謳歌していた


「何もないって素晴らしい……」


 学校がない日というのは素晴らしい。通信制高校だから登校日は決められているのだが、俺は登校日とは別に週3日の登校がある。実質毎日学校に通っているようなものなのだ。面倒な事がない日はいつ振りだろうか? 春休み────は面倒事しかなかったから半年振りくらいか?


「恭クン、何もないからって怠けてちゃダメでしょ?」

「お義兄ちゃん! やる事ないならアタシとデートしてよね!」

「義兄さん! 私ともデートしてください!」

「お義姉ちゃんとデートしてくれていいんだよ?」


 この四人がいるのを忘れてた……はぁ……


「うるせぇよ。デートならお家デートで十分だろ。好きな時に好きなだけ人目を気にせずイチャつけるんだからな」

「「「「お、お家デート……」」」」

「そうだ。これはお家デートなんだよ。で、俺はこれから寝るから静かにしてくれ」


 零達へ雑に返すと俺は目を閉じた。悩みがあるのに言わない奴は面倒だ。同時にデートの催促をしてくる女も面倒だと感じる今日この頃。俺はつくづく面倒な連中に囲まれたなぁ




『よぉ、俺』


 目を休めるために目を閉じたつもりだったんだが……どうやらガチで寝てしまったらしい。厭らしい笑みを浮かべたもう一人の俺が現れた


「はぁ……」


 もう驚かない。むしろ溜息しか出ねぇよ


『人の顔見るなり溜息とは失礼な奴だな』

「同じ顔だろうが。それより、何の用だよ?」

『別に大した用はねぇよ。ただ、お前が困ってるみたいだったから相談に乗ってやろうと思ってな』

「頼んでねぇよ」

『ああ、頼まれてねぇよ。俺がやってんのは単なるお節介だ。俺の自己満足だ』


 厭らしい笑みから真顔に変わり、何を言いだすかと思えば単なるお節介かよ……


「自己満だったら止めてもらえませんかねぇ……好意を押し付けられた方からするとスッゲー迷惑だからよ」


 自己満足────してる方は満足するだろうが、されてる方からすると迷惑でしかない。相手が自分と向き合おうとしてなかったら尚更な


『だろうな。自己満足なんだから当たり前だろ。俺がお前の悩みを聞いて力になりたいと思ったからそうしてるだけだしな』

「マジで自己満じゃねーかよ……ったく、マジで大きなお世話だ。すぐ止めろ」

『俺だってできるならそうしてる。だがな、時として自己満のお節介も必要だと思うぞ?』


 自己満のお節介って必要なのか?


「自己満のお節介が必要ねぇ……」


 お節介が必要な時がいつか分からず、俺は困惑するだけだった

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