「さて、飯も済んだし由香と茜には詳しい話を聞かせてもらおうか」
朝食を済ませ、一息つき、各々が自由に過ごす中、俺は雑誌を読む由香と台本を読む茜に今後の予定を問いかけていた
「あたしは海行った時に言ったでしょ?旅行が終わったら同居するって」
由香は雑誌から目を離す事なく答えた
「ああ。それは聞いた。でも、由香の私物を運ばなきゃいけないだろ?」
同居するのは構わないけど由香だって女だ。化粧品の類とか学校で使う教科書とか必要なものはたくさんあり、面倒だが実家からそれを運び出さなきゃならない。俺が聞いてたのは同居する事だけで荷物を運び入れる日時までは聞いてない
「え?そんなの旅行から帰って来た日にお爺ちゃんがやってくれたよ?」
「はい?」
「周りをよく見て」
由香に言われた通り周囲を見回すと……
「物増えてるんですけど……」
物が増えていた。言うまでもなく由香の私物だ。
「旅行から帰って来た日にお爺ちゃんが運んでくれたって言ったじゃん」
「らしいな。という事は由香の同居問題は解決か……」
旅行から帰って来たその日に由香の私物を運び入れるとは……あの狸の行動力を侮っていた。とはいえ、由香の同居問題は解決し、残すは茜のストーカー問題を残すのみ。
「あたしの同居に関しては解決したけど茜さんの問題はまだ解決してないからね?」
「だろうな。それは真央で経験している」
真央で経験しているの一言で今まで自由に過ごしていた零達は深い溜息を吐き、茜は苦笑いを浮かべた。俺も茜の立場なら自分が現在進行形で被害に遭っていたとしても彼女と同じ事をしただろう。高校生でストーカー事件に二回も遭遇してるとかリアクションに困るしな
「経験してるって……恭、義姉じゃなくて一人の女子高生として言わせてもらうけど、高校生で警察沙汰の事件に二回も遭遇してるってなかなかだよ?」
二回じゃないんだよなぁ……面倒だから数えてないけど、多分、四回くらいは遭遇してるぞ
「俺だって平和に暮らしてぇよ……はぁ~」
中学までこんな事なかったんだけどなぁ……どうしてこうなったかなぁ……
「ぐ、グレー、ごめんね?変な事に巻き込んじゃって……」
「謝んな、もう慣れた」
本当は慣れちゃいけない事なんだろうけど、何回も騒動に巻き込まれるとさすがに慣れる。ただ面倒なだけで
「で、でも、関係ないグレー巻き込んじゃって申し訳ないよ……」
「変なのが沸くくらい茜に人気がある証拠だろ。まぁ、粘着してる奴は正直キモイとは思う。でも、それとこれとは話が別だけどな」
騒動に巻き込まれると面倒だ。自分の時間は減るし無駄な労力を使うしでいい事は何もない。マジで俺は何をしてるんだか
「だ、だけど……」
「だけども何もあるかよ。訳アリ女の相手は慣れてる。つか、家にいる連中全員訳アリで今更茜一人増えたところでどうという事はない」
俺が訳アリだから自然と訳アリの連中が集まるとしたらとんだ皮肉だ。中学時代の事を考えると俺は訳アリだけどよ
「でも、今更だけど悪いよ……」
本当に今更だ
「そう思うなら後で俺のリクエストした台詞を言ってくれ。それでチャラだ」
「そ、それだけでいいの?」
「ああ。別に見返りを求めてしてるわけじゃねぇからな」
俺は相手に見返りを求めない。求めても無意味だっていうのが一番だけど、それ以上に最初から見返りを求めて人に接すると絶対に後で後悔する羽目になるのは目に見えている
「そ、そんな事でいいなら……」
「それがいいんだよ。世の茜ファンからすると喉から手が出るほど欲しいものなんだから」
高多茜という声優を知らない人から見ると俺の求めた謝礼はちっぽけで何の価値もないものだ。内容によっては女性に何を言わせてんだ?ってなり、場合によっては警察へ通報される。しかし、高多茜を知る者からすると喉から手が出るほど欲しく、百万払ってでも欲しいものへと変化する。何が言いたいかというとだ、俺の求めたものなんてちっぽけでしょうもないって事だ。人を助けるのに理由なんて必要ねぇしな
「分かった。これが解決したらグレーのリクエスト何でも答えるよ。結婚でも何でもね」
あれれ~?俺はリクエストした台詞を言ってくれって言ったはずだぞ~?結婚してくれとは一言も言ってないぞ~?おかしいなぁ~?
「見返りの内容ガラっと変わってんじゃねーかよ……」
「グレーが私のために動いてくれるんだから当たり前だよ!」
茜さんや、俺が動くのがそんなにも珍しいのかい?やっぱ今から一人で警察へ行けって突き放すべきか?
「「「「「むぅ~……」」」」」
『きょうのバカ……』
『恭様、さすがに擁護出来ないわ』
何で零達は剥れるんですかねぇ……俺はただ、茜との終わりなき言い合いに終止符を打っただけなのに
「はぁ……めんどくせぇ……。とりあえず茜の家へ行くぞ。つか、朝から双子はどうした?」
朝飯を食ってる時すでに双子の姿はなかった。あの二人がイチャイチャしてるのは日常茶飯事だから置いとくとして、姿が見えないのは気になる
「蒼君と碧ちゃんなら隣のお部屋にいますよ?旅行から帰って来た日に僕は姉ちゃんと新婚ごっこがしたいから余った部屋使いますって言ってましたから」
初耳なんだけど……
「はぁ……あの二人のブラシスコンにも困ったもんだ」
双子のブラシスコンっぷりには溜息しかでない。
「仲がいいのは良い事じゃないですか。私達も恭君と新婚ごっこしたいくらいですし」
闇華、私もなら分かるけど、私達ってのは無理があるんだぞ?俺の身が持たない的な意味でな
「はいはい、気と俺の欲望が向いたら考えてやるよ」
俺は零達より先に部屋を出るとその足で加賀達の部屋へ向かい、暇そうにしてる加賀をとっ捕まえ、ワゴン車を一階東側玄関へ持ってくるよう一方的に言いつけた。加賀は何がどうなってるか説明しろ!って文句を垂れてたけど、華麗に無視してやった
一方的に指令を出し、加賀達の部屋を後にした俺はエレベーターに乗り、一階東側玄関前まで行き、炎天下の中加賀を待つ
「お、遅い……遅すぎる……」
車を持ってくるだけでどんだけ時間掛かるんだよ……。待つ事になるなら加賀と一緒に車まで付いて行くんだった……
『文句言わないの~。きょうがいきなり頼んだのが悪いんでしょ~?』
「そりゃそうだけどよ、玄関前へ車持ってくるだけなら大して時間掛かんねぇだろ?」
『女の子に準備が必要なように車にも準備が必要なんだよ~』
女の準備は分かるが車の準備って何だよ?女みてぇに化粧でもしようってか?アホくさ
「アホくせぇ……」
俺が車に乗り込んだのはこの発言から五分後。零達が乗り込んできたのその更に五分後だった
車に乗った俺達は順調に茜の家を────
「で?クソガキ」
「何だよ?」
「人の部屋にやって来たと思ったらいきなり車出せって言った理由を聞こうじゃねぇの」
目指していなかった。茜の家を目指してはいるけど、車内の空気は険悪って言うほどじゃないが、穏やかでもない。主に俺と加賀のせいで
「そうだな……ザックリ言うと後ろにいる高多茜っていう女が妙な奴に粘着されてるから彼女の家まで言って状況を確かめに行くから加賀を召喚した。OK?」
俺が雑に引っ張り出した理由を説明すると加賀はバックミラーを一瞥し、苦笑を浮かべる茜を確認するとものすごく深い溜息を吐いた
「OK。出来ればそれを最初に言ってほしかったぞクソガキ」
「うっせぇ。これも仕事なんだから文句言うな」
「やだ、この雇い主超理不尽」
悪かったな、超理不尽で
車を走らせる事三十分────。確認すると現時刻は午前十時で俺と加賀はしょうもない会話をしている真っ只中。というのも車は現在オフィス街に差し掛かり、出勤ラッシュでもないのに渋滞に巻き込まれていからだ。じゃなきゃむさ苦しいオッサンと話なんてするか!
「おいクソガキ」
「何だ?」
「後ろ静かだと思わねぇか?」
「あ?静かなのはいい事だろ。家族でドライブする時は賑やかだって言いてぇのか?」
「ったりめぇだ! 俺の天使達なんだからなぁ!」
「うわ、キモ……」
「引くなよぉ!」
「大丈夫大丈夫、全然引いてないから。つか、零達は本当に寝てんじゃねぇだろうな?」
零達が静かすぎると思い、後部座席を確認すると────
「「「「「「「「すぴ~」」」」」」」」
全員揃って幸せそうな顔で寝息を立てていた
「マジで寝てたよ……」
茜が寝てるのは解かる。零達が一緒に寝てるのは意味不明だけどな
「マジか……茜ちゃんだっけか?その娘ならともかく、零ちゃん達は何でだ?」
「知るか。俺が聞きたいくらいだ」
「茜ちゃん家へのナビはあるから別にいいんだけどよ」
「ならいいじゃねぇかよ。っつーかよ……」
「何だよ、クソガキ」
「この渋滞はいつになったら緩和されんだ?」
「俺が知るか!」
旅行中の神矢想花騒動、今回の茜騒動、加えて渋滞に巻き込まれるとか……もしかしなくても俺は何かしらのトラブルに巻き込まれる星の元へ生まれたらしい
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました
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