青い海! 白い砂浜! 光輝く太陽! 目の前には浜辺を駆ける人々! と、リア充を連想させる光景が広がっている中、ポツンと佇む俺。妬んでるわけじゃねーけど、リア充って何で暑い夏でも外で遊べるくらい元気なんですかねぇ……
『きょう~、リア充の生態について考察するのもいいけど~、お母さん、きょう達が見つけた建物の事で重要なお話があるんだけど~?』
男嫌いと化した真央の一言で俺は部屋を出た。お袋の言うように俺達が散策中に見つけた建物について零達の前じゃ話せない内容らしいから追い出されたのは好都合。アレが何なのかじっくり聞けるというわけだ
「分かってんよ。零達には絶対に聞かせられないって事で真央の出ていけ発言に便乗して抜け出したんだからな」
客観的に見ると男嫌いになった真央を利用した形にはなる。事実そうなんだから咎められたとしても文句は言えない。それよりも俺達が見つけた建物についてだ
『ならいいけど~』
頬を膨らませながら唇を尖らせるお袋。その姿は幼馴染の男子に無視された女子。あるいは彼氏に話を無視された彼女だ。
「剥れないでくれませんかねぇ……。というか、拗ねてる暇あんのかよ?」
真央があの建物を見つけた時に怖い、一度入ったら二度と出てこれない感じがすると言っていた。俺は怖いとか、二度と出てこれないといった感じはせず、単なる廃墟にしか見えなかった。真央は真央の感性があるから否定はしない。分からないのは何で真央が恐怖心を抱いたかだ
『あると言えばあるし、ないと言えばない。真央ちゃんの現状を考えるとこんな感じかなぁ~』
「何だそれ?」
真央の現状に対し、お袋は曖昧な返事を返してきた。一刻を争うようなそうでもないような……と言われるとモヤモヤする
『真央ちゃんの現状は置いといて、あの建物が何なのかについて説明するね~』
「あ、ああ、頼む」
俺は真央が危険な状態なのかそうじゃないのかってのは分からないから何とも言えんけど、お袋に焦りがないところを見ると慌てるような時期じゃないのは解かった。真央が何であんな感じになってしまったのかは建物の正体を明確になってからでも遅くはないだろう
『おっけ~。じゃあ、まずあの建物が危険かどうかから話すけど、結論から言うと危険半分、無害半分ってとこ』
うん、分からん。結局どっちなんだ?
「どっちだよ……」
お袋の事だからそう言ったのにはちゃんとした理由があるとは思う。説明なしに危険半分、無害半分と言われても全く分からない
『どっちって言われると困るんだけど、あの建物はお母さんみたいな存在からすると娯楽施設なんだよ~』
「娯楽施設?」
生きている人間ならともかく、幽霊にも娯楽って必要なのか?その辺の事は知識がないから全く分からない
『そうだよ。って言ってもピンと来ないだろうからちゃんと説明するけど、例えば、九十で亡くなったおじいちゃんがいたとするでしょ~?』
「ああ」
何で年齢が九十で爺さんなんだ?って突っ込みはせず、とりあえず同意しておく。突っ込むと話が逸れるからな
『で、そのおじいちゃんがもう少し人生を楽しみたかったって思いながら死んだとする。するとどうなると思う?』
お袋の問いかけは意味が分からない
「分からねぇよ。紗李さん達みたいに特定の人物を憎んだまま死んだならどっかで恨みを晴らす機会を窺ってるかもしれねぇけど」
紗李さん達の場合は千才さんを憎んで死んだ。彼女達には留まる理由があったのは解かる。だが、お袋の例えに出てきた爺さんには一見何の未練もないように思える
『答えは簡単。生きた人間が来ないだろう場所で静かに暮らすだよ。特に廃墟と化した大きな建物はお母さんみたいな存在にとっては天国とも呼べる場所なんだよ』
今の言い方じゃ家にもお袋以外に幽霊がいると言われているような気がする。それよりも結論だ。危険半分、無害半分と曖昧な答えじゃ納得できるわけがない。それに、結局あの建物がどんなものなのかも分からないままだ
「そうかい。で?結局何が言いたいんだよ?分かったのは具体的な未練はないけど、この世に留まりたいって人は人気のない場所に行くって事くらいだぞ?」
『結論を言うとね~、あの場所は幽霊ライフを謳歌したいって人の溜まり場。だからこっち側から何もしなければ害はないんだけど、稀に特定の人間に危害を加えようとする人がいる。だから……』
「危険半分、無害半分か」
『うん』
お袋の事は理解した。誰だって自分に害成すものが出てきたら排除しようとするし、何もしていない相手に危害を加えようとは思わない。人懐っこいのだと友達になろうと思う人もいるだろう。しかし、世の中そんな友好的な人ばかりじゃなく、人に害を与えたい願望を持つ人間もいる。どんな状態になってもそういう奴は少なからずいるんだな
「あの建物が害と無害の中間なのは分かったけどよ、真央が感じた恐怖心の説明にはなってないぞ?」
害と無害がどれくらいの割合かは分からない。もしかしたら害の方が大きいのかもしれないし無害の方が大きいのかもしれない。お袋が何であの建物について知っているのかも気になるところではあり、聞きたい事は多い。全てを聞いていたらキリがなく、俺は真央が感じた恐怖心の正体だけ聞く事に
『真央ちゃんが感じた恐怖心って多分、危害を加えようとしている過激派幽霊の仕業だと思う。あの建物にはどちらかというと穏健派の幽霊が多いんだけどね……』
タハハ……と笑いながらお袋は小声で『きょうの周囲にいる人間に手を出したら大変な事になるよ~って言ったのになぁ』とぼやく。俺がヤバい奴みたいな言い方はしないでほしいんですけどねぇ……
「穏健派が多いってまるで知ってるような口ぶりだけどよ、このホテルに乗り込んで来た事あるのか?」
今までこのホテルで過ごして来て妙な感じは全くしなかった。俺が鈍いだけなのかもしれないけど
『零ちゃん達がきょうの写真をコッソリ見てた日の夜にね。とは言ってもあっちからすると大きな霊圧が島に上陸したからその正体を探りに来る予定ではあったらしいんだけど、その元から大きな霊圧が更に大きくなったのが……』
「俺の写真を零達がコッソリ見ていた日ってわけか」
『うん。さすがにこればかりは看過出来ないって事で見に来たんだよ』
俺は自然災害か何かか?と聞きたくなるも災害に対して警戒するのは当たり前だから何も言わなかった
「全く気が付かなかった……。それはそうと、その穏健派幽霊達は具体的に何をされたら仕返ししてくるんだ?あの建物で肝試しか?」
よくあるパターンだと肝試しをしたらってのが多い。生きている人間で例えると見ず知らずの人が自分の家にズカズカ上がり込んで勝手に家探しをするようなものだから仕方ないと言えば仕方ないんだがな
『肝試しに関してはゴミさえ捨てなければ大歓迎だって~。仕返しじゃないけど、あの建物を取り壊そうとすると住処を今のホテルに移さなきゃならないから抵抗するらしいよ』
何ともリアクションに困る。穏健派の人達はそれでいいのか?
「り、リアクションに困るんだが……まぁ、本人達がそれでいいのならいいか」
建物────というか、家か。家に関しては俺にも覚えがある。だから余計なアドバイスをするだなんてしない。問題は穏健派よりも過激派だ
『穏健派の人達はそれでいいんだけど……過激派の人達はこのホテルにいる特定の人に復讐しようとしてて……』
「はい?」
穏健派はともかく、過激派の連中は物騒だな。それよりも特定の人に復讐しようとしているというところが気になる。自分がその条件に当てはまっているかとかじゃなく、純粋に特定の人に当たる条件がな。
『だーかーら! 過激派の人達は特定の人に復讐しようとしてるの!』
「それは聞いた。そうじゃなくて、その特定の人ってどんな人なんだよ?」
ただ特定の人と言われても困る。具体的に言ってくれ
『輝いてる人だよ! あ、この輝いてる人って言うのは多くの人から支持され、注目を集めているって人っていう意味ね』
多くの人から支持され、注目を集めている人……ねぇ……その条件に当てはまる人なんて……いたよ
「真央や茜……。つまり、株式会社CREATEに所属している声優の人達か」
声優=多くの人から支持され、注目を集めているというわけじゃねーんだけどなぁ……。駆け出しの頃は売れないからアルバイトをしながら声優やってる人もいる。あるアニメが爆発的な人気を博し、そこから売れ出したとしてもブームが過ぎて仕事が減り、不祥事なんて起こした日には支持は減るし、注目もされなくなる。世の中全てが都合よく行くほど甘くはない
『そういう事。で、今の真央ちゃんは過激派の一人に身体を乗っ取られてるってわけ』
さらっととんでもない事を平気な顔で言ってのけるお袋。普通に聞いたらちょっとした一大事だ
「さらっととんでもない事言わないでくれよ……」
真央の現状は理解した。焦りがないところを見ると早期解決できそうだけど……
『きょうが霊圧ぶつけながら出ていけって言えば済む話だからね~。お母さんとしては大した危機とは思ってないんだよ』
「お袋からするとそうだけど、俺からすると一大事だ! ったく……んで?追い出すのはいいけど、真央の身体を乗っ取ってる奴はさっき言った条件の奴に復讐しようとしてんのか?」
お袋の話じゃ過激派の連中は輝いてる人を対象に復讐しようとしている。でも、真央の身体を乗っ取ってる奴はなんか違う気がしてならない
『真央ちゃんの身体にいる人の復讐しようとしている対象は輝いているとか関係なしに男だったら誰でも』
男嫌いって部分を考慮するとそうだろうな。はぁ、旅行中は騒動に巻き込まれたくなかったんだけどなぁ……
「はぁ……何でこうなるかねぇ……」
普段騒動に巻き込まれているだけあって旅行中は穏やかに過ごしたかった。それでなくても旅行から帰ると茜の騒動が待っていて疲れる予感しかせず、この旅行かずっと続けばいいとすら思っているってのに……
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