クイズ番組─────。出演者が答えられなかった問題、あるいは間違えた問題の正答を答えられた時、視聴者の側としてはあの女優、俳優、グラビアアイドル、その他よりも自分は頭がいい! と自信が付く。逆に間違えた時は落胆し、あの問題の答えはああだったのかと新たな知識を得られる非常にためになる番組。一度は回答席に座ってみたいと思う人も少なくない番組とも言える。俺はそんな風に思った事など一度もない。しかし、人生何が起こるか分からない
「何だってこんな事に……」
長々とクイズ番組について持論を展開した俺だけど、本当に何でこんな事になったのか未だ理解出来ない。それもそのはずで俺が現在置かれている状況は……
「さあ! 灰賀君! 早くお答えください! 津野田さんが最近ハマッている事ですよ?同居人の貴方なら分かるはずです!」
なぜかクイズに挑戦させられていた。背後には『クイズ! 灰賀恭の同居人&周囲の人間!』という横断幕が吊るされ、その出題は横断幕にある通り、同居人と俺の周りにいる人達に関するものばかり。
「分かるはずって……趣味すら聞いた事ないんですけど……」
このクイズには決定的な穴があり、言うまでもなく、同居している=全てを知っているという方程式。家族ですら知らない事だってあるというのに家族ですらない零達の事を把握しているかと言われるとそうではない。知らない事だってある
「聞いた事がない!? それは変ですねぇ~、企画の段階で津野田さんは灰賀君に趣味や出生について全て話したと伺っておりますが?」
この司会者を一発でいいから思い切りぶん殴りたいという衝動を押さえ、俺は言う
「趣味どころか出生について何も聞いてないんですけど……」
零を始め、現在同居しているメンバーの趣味や出生など聞いた事がない。互いに深い話はせず、入居の段階でどうして家がなくなったのかという話はした。デパートを外観だけそのままの状態で保ち、中はデパートだった時のままのところもあるが、最上階のエリアに関しては一応、人が住める状態になっている。何が言いたいのかと言うと、外観だけはデパートのままだから中に誰もいないだろうと思い込み、家の前で生活しようとしたり、駐車場に簡易的な家を建てたりと家なき子を拾わざる得ない状況になっている事が多い
「おや!? 灰賀君は津野田さん達から何も聞いていらっしゃらない、そう仰りたいと?」
「ええ、諸々の事情は聞いてますけど、それ以外は何も」
零達が家に来た……というか、家を失った理由は出会った当初に聞いている。親父に借金を押し付けられたり、親戚や当時付き合っていた彼氏に酷い目に遭わされたりと同情を誘うものから家を出て違う生活を送ってほしいという親心まで。それ以外は一切聞いてない。つか、何で俺はこんな事してんだっけ?
朝食を終えた後─────。
「さてっと、今日一日何して過ごすかなぁ……」
部屋に戻って来た俺は今日一日の過ごし方について考えていた。昨日は茜との初オフ会から始まり、ドッキリ、神隠し擬きとイベント(?)が目白押しで考える暇もなく、あっという間に一日が過ぎた。しかし、今日は違う。今朝は零達から昨日の珍事について説明させ、朝食を摂った後、今後のスケジュールについて考えなきゃならない。部屋に引きこもり一日中ゲーム三昧でもいいんだが、それだと旅行に来た意味がなく、家にいる時と変わらない
「どう過ごすってアンタの場合一日中ゲーム三昧でしょ?」
「俺だってたまには外に出て遊ぼうかって考えるぞ?」
この瞬間、零の顔から表情が消え、各々自分の作業をしていた盃屋さんと茜以外の動きが止まった
「恭、熱でもあるのかしら?それとも、何か悪いものでも食べた?」
表情を失ったままの零は手を右手を俺の額へ、左手を自身の額へ当てた。
「熱はないし悪いモンも食ってない」
今の俺は健康そのもの。悪いモンを食ったと言うのなら零達だってそうだ。俺と同じ飯を食ってるんだからな
「恭ちゃん、疲れてるなら寝よ?私達も一緒に寝るから」
東城先生、俺は疲れてないぞ。というか、零もだけど、その優しい目止めない?俺が可哀想な奴みたいだろ
「藍ちゃん、俺は全く疲れてないんだけど?」
「無理しなくていいんだよ?恭ちゃんと初めての旅行で舞い上がっちゃった私が言うのもなんだけど、さすがにホテル全体を巻き込んでのドッキリやアルバム鑑賞会と私達のせいでストレスが原因でおかしくなっちゃったとしても無理はないから今日は部屋で一日大人しくしてよ?ね?」
東城先生の言い方は確実に俺がストレスでおかしくなったと断言している。アレか?俺が外で遊ぶって言うのは信じられないってか?
「いや、俺は疲れてないしおかしくもなってねーからな?」
自分の日常生活が原因だとはいえ、ここまで言われると悲しくなる
「恭クン、私、付きっ切りで看病するよ! 大丈夫! 家事は慣れてるから!」
飛鳥、俺は病気じゃない
「さっきも言ったと思うけど、俺は健康そのものだ」
「嘘だッ!」
こんな事で嘘吐いてどーすんだよ……
「恭くん……、帰ったら病院に行こう?私が付き添うから、ね?何か重い病気かもしれないし……」
琴音ー?何で病気前提で話を進めるんだー?んー?
「恭君……、死んじゃいやです……」
闇華……、俺はいつの間に不治の病に罹ったんだ?
「お前ら酷くない?」
自分の言動に問題があるとはいえ、外で遊ぼうと言っただけでここまで言われる謂れはない
「そうでござる! 皆の衆、言い過ぎでござるよ! 拙者は灰賀殿と出会って間もないが、外で遊ぼうと言っただけなのに病気呼ばわりはさすがに酷すぎるでござる!」
「真央の言う通りだよ! 酷すぎるよ! 零ちゃん達はグレーを何だと思ってるの!?」
俺の味方をしてくれたのは人気声優ペア。ファンからするとチケットを買ってでも得たい立場になるのか?
「真央、茜、ちょっと来なさい」
零が盃屋さん達を連れ、部屋の隅へ。それに伴い、闇華達も部屋の隅へと行ってしまい、ヒソヒソと何やら話し合いを始めた
「零達から外に行こうと言われるのを待ってた方がよかったか?」
残された俺は自分の考えを言った事を少しだけ後悔した
零達が話し合いをしている間、暇を持て余した俺は何をするでもなく、椅子に腰かけ、ぼんやりと天井を眺めていた。
「長期休みがこのまま続けばいいのに……」
通信制で自由に登校スタイルを選べるとはいえ、学校に行くとどうしても集団行動を強いられる。それはこの旅行でも同じなんだけど、学校に比べると決まりというものがなく、自由だ
「はぁ、夏休みが終わってすぐに冬休みが来ればいいのに……」
夏休みが終わると二学期が始まり、面倒な文化祭が始まる。学校自体が面倒なのにその上文化祭……授業がなくなって学生にとっては大いに喜ばしい事ではあるものの、出しものや出店を決め、練習や準備が凄まじくめんどくさい。特に普段は邪険に扱ってくる奴に限ってここぞとばかりに仲間だの友達だのを主張してくる。それがものすっごくウザい
「何ダメ人間発言してんのよ」
ボーっと天井を眺めていると話し合いを終えたであろう零が声を掛けてきた。その傍らには苦笑いを浮かべている盃屋さんと茜が。何を話し合ったらそんな顔になるんだ?
「零か……、話し合いはもういいのか?」
「ええ。日頃のアンタの様子について教えてあげただけだからすぐに終わったわ」
俺は野鳥か何かか?
「日頃の俺の様子って何を言ったんだよ?」
「何って全部よ?日頃アンタがめんどくせぇって言って怠けているとか、外が暑いからってすぐに引きこもろうとするとか」
うん、間違いなく日頃の俺だ
「事実だしな。実際何かをするっつーのは面倒だし、暑い中わざわざ外に出ようとは思わねぇ」
行動するというのは面倒だ。目標に到達すると達成感を得られるけど、そこに行きつくまでが大変だからな。んで、この季節に外へ出る。日中の気温は三十度を超え、アスファルトに落ちた汗がすぐに干上がってしまうのではないかと思うくらい暑い。気温に加えて照り付ける太陽の日差し。太陽が出てないのなら外へ出てもいいと思うが、太陽が出ているのに外へ出るというのは俺からすると信じられない
「そういうダメ人間発言してるからアタシ達はアンタが病気になったんじゃないかって心配したのよ!ま、まぁ、アタシ達が困っている時には助けてくれるからダメ人間発言をしてもいいんだけど」
信用されてるのかされてないのかよく分からない言い草だな
「確かに俺はダメ人間だけどよ、そんな俺だってたまには外で遊ぼうって思うぞ?」
一年に一回あるかないかの確立だけどな
「恭ちゃん、普段から積極的に外へ出ようよ……、私とのデートとか」
「そうだよ、恭クン。私とのデートで積極的に外へ出よ?ね?」
聖母のような目で俺を見る東城先生と飛鳥。何で外へ出る理由がデートなのかはこの際聞くまい
「デートはともかく、前向きに検討する」
と、ちょっとした騒動の後、海へ行くのか山へ行くのかで飛鳥と由香が議論になり、最終的にジャンケンで飛鳥が勝って海に決定。各自水着の準備を済ませ海へ向かう事になった。ここまではよかった。問題は玄関ロビーへ着いた時だった
「おや、ちょうどいいところに来たね、恭」
玄関ロビーに着いた俺達はばったり婆さんに出くわした
「何の用だよ、婆さん」
「何、これからやるイベントに参加してもらえないかと恭を探していたんだよ」
イベント。この旅行において嫌な予感しかしない単語だ。
「悪いけど、これから海へ行くからパス」
二日連続でイベントに参加だなんて冗談じゃない。そう思った俺は婆さんの横を足早に通り過ぎようとした。その時……
「恭に拒否権なんてないよ、お前達」
婆さんが指を鳴らすとどこからともなく黒服の男性二人が現れ、俺は両腕を取られて捕まってしまった
「何の真似だ?」
「何の真似って、アンタをイベント会場に連れて行くんだよ。もちろん、零ちゃん達もね!」
こうして俺は状況を理解出来ないまま、黒服二人の手により、連行された
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