高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

ゲームで初心者を相手にすると力加減が難しい

公開日時: 2021年2月12日(金) 23:12
文字数:4,344

 俺のターンが終わり、次は茜のターン────。


「わ、私のた、ターン……、ど、ドローステップ……」


 初めてで緊張してるのか茜の手は震え、動きもたどたどしい。割れ物を扱うんじゃないんだから堂々としてりゃいいのに……。


「…………」

「こ、コストチャージステップ……」


 おぼつかない手つきでテーブルの端にあるダイスを一つ取り出し、一の目が見えるように置く茜。カードゲームごときで何をそんなに緊張しているのやら……。


「わ、私はコスト1を支払い『リトル・エンジェル』を場に出すよ!」


 リトル・エンジェル

 コスト1 色・白

 パワー2

 効果・場に出た時、デッキからカードを一枚ドローする事ができる


 茜が出したカードは小さな天使が描かれている『リトル・エンジェル』。パワーは俺の『スネーク・スライム』より上。戦闘になれば俺のモンスターが負けてしまう


「了解」

「場に出た『リトル・エンジェル』の効果を使うよ!」

「え?使うのか?」

「うん。何か問題でもある?」

「いや、問題はねぇよ。ただ、今後の為に一つ教えとく事があるってだけで」

「教えておく事?」

「ああ。今出した『リトル・エンジェル』に限った話じゃないんだが、カード効果に『~する事ができる』って書かれている場合、絶対に効果を使わなきゃならないってわけじゃない。使うか使わないかはプレイヤーが自由に選択可能なんだ。つまり、茜は今『リトル・エンジェル』の効果を使うって選択をしたけど、別に使わなくてもいいんだよ。要するに効果を使うかどうかはケースバイケースっつー事だ」


 客観的に見ると俺が茜にカード効果を使わせないように誘導しているように見える。カード効果というのは大変難しい。『~する事ができる』と『~する』とじゃ大きな違いがあり、前者はしてもしなくてもどちらを選ぶかはプレイヤー次第。後者は絶対にしなきゃならない決定事項。製作者が何を思ってカードに効果を付けたかは知らんけど、『~する事ができる』と『~する』じゃ大きく違う


「そうなんだ……。なら、私は『リトル・エンジェル』の効果を使うよ! 手札は一枚でも多い方がいいしね!」

「好きにしな。このターンからバトルステップに入る事が可能になったぞ」

「分かった! ならバトルステップに入るよ!」

「OK。バトルステップに入ると自分のモンスターで相手モンスターか相手プレイヤーに直接攻撃が可能になる。今俺の場には『スネーク・スライム』がいるから直接攻撃はできない。攻撃できるとしたら『スネーク・スライム』だけだ」


 茜の場にいる『リトル・エンジェル』のパワーは2。俺の『スネーク・スライム』はパワー1。パワー的には茜が上だ


「それならグレーの『スネーク・スライム』に攻撃!」


 茜は高らかに攻撃宣言をし、俺を指さしてくる。しかし、アニメとは違ってモンスターが勝手に戦闘するわけじゃないからその辺もちゃんと教えなきゃな


「OK。なら攻撃宣言時にモンスター増強カードが手札にあるなら使えるが、どうする?」


 モンスター増強カードはバトルステップに入り、モンスターの攻撃宣言時のみに使えるカードだ。順番はターンプレイヤーが先で次が相手プレイヤー。ないならそのままバトル続行


「使う! 私はモンスター増強カード『天空の加護』を使うよ!」


 茜は手札にあった『天空の加護』を場に出す。狩場カードは攻撃宣言時に使うカードでノーコストで使える。その効果は様々でパワーをプラスしたり、パワーを上げ、追加で効果を与えたりといろいろだ


 天空の加護

 モンスター増強カード

 色・白

 効果・このカードは攻撃宣言時に発動。モンスターのパワーをプラス1上げる


「了解。俺の手札にモンスター増強カードはない。このままバトル続行といきたいが、モンスターで攻撃を行う場合はカードを縦向きから横向きにするんだ」


 モンスターファイターというゲームはややこしい。攻撃の流れはこうだ。まず攻撃宣言をし、次にモンスター増強カードがあるなら使うかどうかを選択。使用するならこのタイミングで使い、ないならそのままバトル続行。攻撃するモンスターのカードを縦向きから横向きへ変える。一連の流れとしてはこんな感じで本当にめんどくさい。俺がバーンデッキを使ってる理由の一つでもある


「なるほど……」


 そう言って茜はカードの向きを縦から横へ変える。これで攻撃完了。俺の『スネーク・スライム』のパワーを彼女の『リトル・エンジェル』が上回る。


「で、茜のモンスターが俺のモンスターの攻撃力を上回ったわけでダメージステップに入るわけだが……ここでいいか?」

「えっ?」


 驚嘆した茜の顔には『手札にモンスター増強カードはないんじゃないの?』とハッキリ書かれている。彼女の顔に書いてある通り俺の手札にモンスター増強カードはない。あるのはダメージが発生した時に効果を発動するカードだけだ


「俺の手札にモンスター増強カードはない。だが、ダメージが発生した時に効果を発動するカードがある」

「そ、そうなの?」

「ああ。最初に言っただろ?『相手の攻撃を凌ぐカードとダメージを軽減させるカードも入ってる』って。つまり、この状況で使えるカードが俺の手札にはあるんだよ」


 こすいと言われても仕方ない。初心者には後出しジャンケンみたいなモンだからな


「それは聞いてたけど、この状況で使えるカードなんてあるの?」

「あるよ。とにかく、ゲームを続けよう。今俺の『スネーク・スライム』が茜の『リトル・エンジェル』から攻撃を受けた。で、『リトル・エンジェル』本来のパワーは2で俺の『スネーク・スライム』のパワーは1。しかし、『天空の加護』で『リトル・エンジェル』のパワーは2から3へ上がり、このままだと俺は2点ダメージを受けてしまう。これが今の状況だ」

「そうだね。このまま行けば私はグレーの持ち点に2点のダメージを入れられるね」


 彼女の言うようにこのままだと俺は2点ダメージを与えられ、持ち点が並ぶ。まだ80点あるから2点程度どうって事なく、使っても使わなくてもどっちでもいい。使って見せるのはこういうカードもあるぞっていうデモンストレーションみたいなものだ


「だからダメージを受けた時に俺は手札から『ガード・スライム』を墓場に送ってダメージをゼロにする」



 ガード・スライム

 コスト1 色・黒

 パワー1

 効果・自分が相手モンスターの攻撃で2点以上のダメージを受ける時、このカードを墓場に送る事で受けたダメージを0にする


「そ、それじゃあ……私の攻撃は……」

「俺の『スネーク・スライム』を倒して終わりだな」

「せ、せっかくダメージを与えられると思ったのに……」


 茜はガックリと項垂れた。ゲームは始まったばかりだというのに何を落ち込んでいるのやらと思う反面、初対戦で初ダメージを与えられなかっただろう悔しさを思うと言葉が出ない


「ま、まぁ、今のはこういう効果を持つカードもあるぞっていうデモンストレーションみたいなモンだ。ほ、ほら、ゲームは始まったばっかなんだしよ、そんな落ち込むなって」

「うん……」


 初めてやった対戦ゲームで相手にダメージを与えられなかったショックが大きかったらしく、落ち込む茜に一言勝負の世界ってのは甘くないとだけ言っておこう。で、この後茜がバンバンモンスターを場に出して攻撃を仕掛けてくるのに対して俺は彼女の攻撃を受けつつダメージを与えるって感じでゲームが進んだ。茜からすると勝負が拮抗しているかに見えるだろうけど、俺から見るとこれでも手加減はしたって感じだ。



 で、現在────。


『きょう! バーンデッキは卑怯者が使うデッキだよ!』

「早織さんの言う通り! 戦わずして勝つなんてズルいよ!」


 俺は茜とお袋から猛抗議を受けていた


「ゲーム戦術に卑怯もクソもねぇだろ……」


 バーンデッキが卑怯と言うなら手札を破壊するハンデスやデッキ破壊はどうなるんだ?と嘆息を洩らしつつ俺は茜とお袋の抗議を聞き流す。カードゲームは何もモンスターの攻撃が全てではない。ルールに則っている以上、効果ダメージによる勝利も立派な戦略の一つと言える


「グレー! 対戦なんだからちゃんと戦わないと!」

「いや、戦っただろ?」

「戦ってない! ただ私に効果ダメージを与えただけじゃん!」

「そういうデッキだからな」

「『卑怯だよ!』」


 どうやらバーンデッキは茜とお袋のお気に召さなかったようだ。お袋がバーンデッキを毛嫌いするようになった理由は機会があれば話そう。それよりも今は茜のデッキをどうするかだ


「卑怯で結構。それよりも茜はデッキどうするんだよ?」


 先の対戦で茜が使ったデッキは俺のもの。操原さんの要望を取り入れてデッキを組むならバーンデッキにせざる得ない


「どうするって?」

「茜演じたヒロインのカードを取り入れてデッキを組むならバーンデッキにするかそっちに寄せなきゃならない。それを踏まえてだ、これからカードショップに行って必要なものを買い揃えなきゃならない。その前にデッキの方向性だけでも決めとかなきゃならない。で、どうする?」


 キャラに寄せるなら完全とはいかないまでもデッキの形的にバーンデッキ。茜がキャラに拘るか勝ちに拘るかで完成するデッキも大きく違ってくる


「どうするって私は美和ちゃんを倒せるデッキを作りたい!」


 この女、話を聞いてなかったのか?俺はデッキの方向性を聞いたのであってどんなデッキを作りたいかは聞いてない


「だから、天野美和を倒すデッキをどんな感じにするかを聞いてるんだよ。茜の演じたヒロインが作中で使ったカードを使用するなら形的に完成したデッキはバーンデッキかそれに近いものになる」

「そうなんだ……でも、バーンデッキはちょっと……」


 やり過ぎたか……バーンデッキを完全に嫌ってやがる……。イベントまで時間はある事だ、今度は逆にしてみるか


「なら、今度は俺が茜の使ってたデッキを使うから茜は俺の使っていたデッキを使って再戦してみるか?今度は茜の側にお袋をつけても構わねぇぞ」


 構図的には俺対茜・お袋ペア。数で言えばあちらが上。この提案をどう取る?


「え?いいの?グレー不利にならない?」

「ならねぇよ。それで?この勝負受けるのか?受けないのか?そっちは二人、こっちは俺一人。使うデッキを交換しての対戦と茜にとっては好条件だと思うが」


 俺がもしこの条件を突き付けられたら迷わず勝負を受ける。自分にとって圧倒的に有利だからな


「ちょっと早織さんと話し合ってきてもいいかな?」


 茜の口から出たのは受けるでも受けないでもなく、話し合いの許可を求める言葉。話し合う余地がどこにあるんだ?お袋も俺と同じく疑問符を頭に浮かべる


「あ、ああ、それは構わないが……何か話し合う事でもあるのか?」

「うん、ちょっとね」


 そう言って茜は頭に疑問符を浮かべ、目を白黒させているお袋を連れて部屋を出た。

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