普通のメイドだったけど王女を失って暗殺者になりました

〜世界最強の暗殺者になって、私から全てを奪った者達に復讐しようと思います〜
水篠ナズナ
水篠ナズナ

決行日前夜

公開日時: 2021年1月24日(日) 21:15
文字数:1,637

 いよいよ明日は暗殺の決行日だ。


(早く寝なきゃ……)


 今夜は早めに寝ようと思ったがどうにも眠りにつけず、何度も寝返りをうつ。

 すると丁度先輩も寝返りをうって私と向かい合わせになった。


「アルマも寝れないの?」


 私の問いかけに、先輩はこくんと頷いた。


「エトも緊張してるんだね。良かったー僕だけじゃなくて」


「当たり前だよ」


 二人で笑い合う。


 そして先輩が手を伸ばし、私の手と絡める。


「いいかな?」


「もうしてるじゃん」


「えへへ」


 可愛いなーと思う。それに意外と遠慮してくれている。急に胸とか触りだしたらどうしようかと思ってた。


 先輩の頬に空いている方の手を伸ばす。ピトっと先輩の頬に吸いつくよくにして手を当てる。


「わっ、エト冷たいよ」


 先輩はあったかかった。この人を抱いていれば冬は越せるんじゃないかって思うくらいに。


「アルマはあったかいね。ねえ、アルマはもう覚悟を決めたんだよね。復讐をする覚悟を……」


 言ってから後悔する。こんなにしつこく聞く必要はないのにって。でも先輩は嫌な顔一つせず何度だって答えてくれる。


「うん……もう諦めてたけどチャンスが回ってきたから。エトも死んじゃ嫌だからね」


「私は死なないよ。私だって復讐を……あいつに復讐をするまでは」


 最近は悪夢を見るのも減ったが完全に無くなったわけではない。今でも時々見る。


 そして、落ちてゆく私を見るティナ様の顔が何度もフラッシュバックする。


 家族の死に顔だって思い出す。みんなみんな死んでしまったのだ。


 ある時は、カノン様やシズル達が断頭台で処刑される夢を見たりもする。

 そして必ずそれに私は間に合わない。


 あと少しで手が届くという場所で死刑は執行され、私は目を覚ますのだ。


「僕ね、前のパートナー……カルアっていう子が帝国の人間に殺されちゃったんだ。みんなを守る為に戦って命を落とした。だから僕はね、帝国の人間が許せないんだ。ジークが仇をとってくれるって言ったけどあの身体じゃもう無理だし、僕もこの任務が終わったらエトの手助けをしたい。帝国の奴らをぎゃふんと言わせたい」


「アルマ……」


「たぶんメンバー全員が思っている事だと思う。カルアがいなかったから全滅していた筈だから。それに僕だってカルアがいなかったらエトに会う事もなかった」


「……そっかー。私の今はそのカルアって子がいたからあるんだね。感謝しないと」


 ここ数日間、何度も何度も先輩に死んじゃだめだからねと言い続けられた。そんなに私は死に急いでいる様にみえるのかな? 自分では分からないや。


 でも先輩が私に死んで欲しくないって思ってる事は確からしい。たぶんカルアの事があって私も命を落とすんじゃないかと心配になっているんだろう。


 でも私は死ねない。父と母を殺したディカイオンと私から全てを奪ったユアンを殺し、カノン様からの最後の命令であるティナ様を助けるまでは……。


「エト。怖い顔してるよ」


 先輩が心配そうに覗き込んでくる。その純粋無垢な瞳は私のどこを見ているのだろうか……私には分からない。


「大丈夫だよ。心配しないで」


「うん。エトも本当に無理しちゃだめだよ。危なくなったらすぐに逃げて」


「分かったって。アルマもトルメダに負けたらだめなんだから」


「僕が負けるわけないよ! なんてったってエトの先輩なんだから!!」


 この人は本当に……私の誇れる先輩だな。


「そろそろ寝よう。アルマと話してたら眠たくなってきた」


「なにそれ!? 僕と話すのはつまらないって!!」


「そんな事言ってないじゃん。おやすみ」


 私はそっと先輩の額に口付けた。すると先輩は嬉しそうに私に抱きつき、そっと右足を私の股の中に入れ、絡めてきた。


「愛してるよエト。おやすみー」


「最近、アルマの愛がどんどん重くなってきてる気がする」


 先輩の愛が深くなってきている事に一抹の不安を覚えつつ、私は瞼を閉じる。


(あ、先輩の心音がする。やっぱり先輩ってあったかい)


 アルマの鼓動がよく聞こえた。それにアルマの体温を感じているとなんだか落ち着いた。


 今夜はぐっすり眠れそうだった。


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