「|炎剣《フレアソード》」
確かに彼女はそう呟いた。
「私と同じ……いや少し違う」
私も魔法剣を創造するとビリビリしている私の|雷剣《ライトニングソード》を観察した。
「原型はあなたのを真似してみたの。あなたが出来ることは私にもできるのよ」
「それで戦うつもり? お得意の殲滅系魔法は使わないの?」
「必要ない。私とあなたでは元々の魔力量に差があるもの。例えば貴女が雷を広範囲に落とそうとしたら、すぐに魔力切れを起こすでしょう? でも私にはそれが可能なの」
「つまり何が言いたいの」
「あなたの|雷剣《ライトニングソード》より、私の|炎剣《フレアソード》の方が威力が高く、長時間維持できるということよ」
「だったら、注ぎ込む魔力を上げるだけだ」
私は|雷剣《ライトニングソード》に注ぐ魔力を増やした。体から少し力が抜けたのが分かる、長くは持たない。
「もって数分ってところね」
「その前に倒す!!」
「やってみなさい。歴代最強と謳われているジェロシー家現当主のこの私を!!」
私の知らない内に現当主になってたのか。そういやカノン様が言っていたような気がするけどカノン様に見惚れてて全然聞いてなかったなぁ。
私は|雷剣《ライトニングソード》が伸びている右手を引き、左手を前に出して構えをとる。
フリーダはどっからでもかかってこいと言わんばかりに腕を脱力させている。
「なめるなぁ!!」
私はフリーダめがけて飛び出し、私とフリーダの剣が重なり合う。
ビリビリビリ、ジュー、ジューー。 今の力は互角だ、これは私たちの周囲を囲んでいる炎を維持するために魔力を使用しているからだろう。もしも|炎剣《フレアソード》の方に多く魔力を注がれたら私がもたない。
ジューー。 それに腕や手の部分が熱い、これが|炎剣《フレアソード》の特性か。だけど私の付与効果も負けてはいない。
「くっっ」
彼女の手もプルプル震えている、しっかりと痺れているようだ。
しかしこのままじゃ、いずれ私の魔力が先に尽きる。私は魔法剣を持っていない左手をフリーダに向けた。
「《|雷撃《ライトニングボルト》》!」
フリーダも左手を私に向けた、私たちの手は重なり合うほど近い。
「《|炎撃《フレアブラスト》》!!」
至近距離から放たれた私たちの魔法は目の前で爆発を起こし、お互い後ろに吹き飛ばされた。
「ううっ、いてて」
「くっ、中々の威力ね」
今のはお互いにダメージを受けたようだ。私の体はあちこち軽い火傷をしてしまったがフリーダの体も|雷撃《ライトニングボルト》によって肌が焼けている。
私たちは立ち上がった。今度はフリーダが先に動いた。
「《|炎弾《フレアショット》》!!」
フリーダの左手から無数の火の玉が現れ、私に向かって飛んできた。
「うひゃあーー!」
私は必死に炎の牢獄を円をかくように回った。フリーダはその中心で魔法を撃ち続けている。どんだけ魔力量多いんだよ!
やがてフリーダに流れる魔力の流れが変わった。私はすぐに足を止めた。
「《|炎断《フレアブレイク》》」
私の目の前の地面が割れ、炎の柱がのぼった。危ない、もう少し踏み込んでいたら死んでいた。
恐らく剣を一瞬伸ばし鞭のように使ったのだろう。魔法剣ならではな使い方だ。
ダメだ、近づいて接近戦に持ち込まないと。私はフリーダに駆け寄った。
「ふっ!」
彼女は私にいくつもの火の玉を放ってきた、私は今度は避けず|雷剣《ライトニングソード》で斬り裂いていく。斬った瞬間爆発したが、威力は弱くなっていたので我慢する。またフリーダの魔力の流れが変わった、来る!
「《|炎断《フレアブレイク》》」
私は右にかわす。今だ、すぐには次を撃てない。
彼女も間に合わないと悟って剣で対応してきた。私は残存魔力の半分を注いだ。
「|雷斬《サンダースラッシュ》!」
「|炎斬《フレアスラッシュ》!」
彼女も負けてはいない。私たち二人の剣が再び重なり合い、衝撃波が起こった。 シズルの時と同じだ。
私の方が押されている。私はぐいぐい押され私の剣が弱まり、私の持ち手が焼け始める。
「ぐうぅ」
「これで終わり」
フリーダは周囲の炎を弱め、剣に多くの魔力を注ぎ込み始めた。 今しかない、私は手が熱によって灰になるのを覚悟でフリーダの腕を掴んだ。
「ぐぁぁぁぁー」
「な、何を! 気でも狂いましたか」
「うう、それはどうだろうね」
私はギュッと強く腕を掴んだ。これで動かせまい。フリーダは何をするわけでもなく、私を見つめている。
「手、灰になりますわよ」
「どうせ私が死んだら灰にするつもりでしょ」
「そこまではしませんよ」
「どうだろうね。それにまだ私の手は灰になってない」
「強がりを!!」
彼女はさらに魔力を注ぎ込んだ、私の腕がさらに悲鳴をあげている。
「ぐぁぁぁぁぁぁー!」
だがその瞬間フリーダの炎剣が砕けた。
「な!」
私はこれを待っていた、フリーダは驚いているからやはり知らなかったんだろう。 魔法剣にも限界があるのさ。
「魔力の入れすぎだよ、おバカさん! これで暫くは剣を出せない」
私は雷剣を調べ尽くした。どれくらい注ぎ込めばどこまで威力が出せるのか、どのくらいの時間持つのか、その過程で魔法剣は一定数以上の魔力を注ぎ込むと形が維持出来なくなり、自然崩壊する事が分かった。
所詮は私の真似だ。この魔法剣の奥深さは知らなかったのだろう。
「そんな……だけどここで負けるわけには」
彼女は私に魔法を放とうとする。だが急に剣が砕けた事により魔力が上手くコントロール出来ていないようだ。
「終わりだー!」
「くっ、『障壁よ我を守れ』!」
彼女の前に透明な壁が現れた。なんのこれしき。
「うぉりゃぁぁぁー」
ガッチャーンと音を立てて壁が壊れたが、剣はフリーダまで届かない。
「終わりです」
その奥で彼女が魔力を溜め待ち構えていた。コントロールが戻ったようだ。私の魔法剣は酷く消耗している。だけど私は勝利を確信していた。
私は左手を突き出した。私の左手から魔法剣が生み出された。 これが私の隠し玉、左手の|雷剣《ライトニングソード》だ!
「な、左手も!」
「これで最後だぁー! 《|両雷《ダブルサンダー》|斬《スラッシュ》》ーーーー!!」
「あぁぁぁぁぁーー」
私の剣技がフリーダを捉えた。フリーダはゆっくりと地面に倒れ伏した。
「急所は外しといた。でも油断は出来ないから早く治療することをお勧めする」
「な……ぜ私を……殺さ……ないの?」
「いや、それは別に私はあなたの事を恨んでないから」
フリーダは苦しげに声を出す。出さなきゃいいのに。
「でも……私はあなたを殺そうとしたのよ、それにあなたの……評判も」
「殺そうとした事は怒ってるけど、今こうやってフリーダをぶっ飛ばせてスッキリしたからいいよ」
「そう……あなたはそういう人よね。私がバカみたい」
彼女は足をプルプルさせながら立ち上がる。辛そう。
「私は自分で歩けるわ。あなたは早くカノン様の元へ行ってあげなさい」
「そうさせてもらうよ、フリーダも気をつけてね」
『ええ』
彼女は笑った。
私はフリーダが死のうがどうでもいいと思っていたが、最後の言葉と共に向けられた笑顔をみてフリーダも笑えば可愛いなーと思ったのと同時に死んで欲しくはないと思ってしまった。
左手の雷剣を出しちゃたから魔力が殆ど残ってない。出来るだけ戦闘は回避しないと……。
エトの後ろ姿をフリーダはただ見つめている。
「私はどこで間違ってしまったのでしょう」
一言呟くと彼女もまた歩き出す、今度は闇ではなく光が射す道へと。もう道を見失う事はないだろう。
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