そんな言葉、どこで覚えたの??

公開日時:2023年10月9日(月) 10:09更新日時:2023年10月9日(月) 10:09
話数:1文字数:925
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「この、ぶたやろう!」


 三才になるうちの娘が、スーパーのど真ん中で叫んだのである。

 良識家の妻は、青ざめた顔でふらつく。

 僕は、笑いだしたい衝動をこらえ、娘の口をふさいだ。


 妻が僕の顔をにらみつけるが、決して僕が教えたことではないと首をふる。

 きっと幼稚園である。

 言ってはいけないことを言いたくなる年頃だ。

 おバカな男子が、テレビか何かでおぼえてきたのを披露したのであろう。

 それを娘がマネしたのだ。

 よりによって近所のスーパーで。

 

 幼稚園の男子と同じメンタリティを妻に疑われ、少し傷ついたがなんとか立ち直る。


「こんなところで、そんなこと言ったらだめだよ」


「じゃあ、どこならいいの?」


 娘は三才とは思えないスピードで、聞き返してきた。

 僕がまごまごしていると、意地悪い顔でのぞいてくる。

 妻にそっくりだな……と思いながら、妻に助けを求めようと振り向いた。


 だが妻はいない。

 逃げたのだ。

 おそろしい女。


 まわりの常識ぶった大人が、針のような視線で僕を突き刺す。

 もし妻子だけだったら、女子供には強いおっさんが説教を始めていたかもしれない。

 だがここにいるのは、無力な僕と、ニヤつく娘だけだ。


「豚野郎って言葉は良くない言葉だよ。意味わかってる?」


 娘がすかさず近くにいた小太りのおばさんを指さそうとしたので、必死に止めた。


 我が娘ながら、恐ろしい。

 攻撃力が高すぎる。


「よし。とりあえずガチャガチャをしに行こう」


 娘が勝ち誇った顔で、いつものカプセルトイコーナーへと向かう。

 その後を追いながら、これは悪手だったとすでに後悔していた。

 きっと娘は、叫んだらガチャガチャしてくれると学んだに違いない。


「この、ぶたやろう!」


 男の子の声が、先ほどまで僕たちがいた場所で響き渡った。

 ふりかえると、男の子と、僕と同年代のうろたえる男が見えた。


「あ、ゆうじくん」


 娘が言う。

 ああ、きっとあの子が元凶だな。

 手を振ろうとする娘を引き連れて、足早にその場から離れた。


 あれを二重奏で叫ばれては目も当てられない。

 

 そのあと素知らぬ顔の妻と合流し、少しは嫌味でも言おうかとした時……。


「この、ぶたやろう!」


 また、遠くで叫んでいる女の子の声が聞こえた。

 

 少しの間、流行りそうだな。

 

 ニヤつく娘と手をつないで、足早にスーパーを後にした。

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