さあさあ! お買い物も昼食も無事済ませ、あとは近井さんを待つだけです! リビング、ヨシ! 寝室、ヨシ! 衣服・メイク、ヨシ! 住所も以前、お伝えしてある。
そわそわしながら、筆を走らせつつ待っていると、インタホンがピンポン!
「はーい、どちら様でしょう?」
一応確認。
「こんにちは。近井です」
「こんにちはー。今、お迎えに出ますー」
よっし! いらっしゃいましたよ~。
「アメリちゃん、近井さんたちいらしたよ~。お迎えに行きましょー」
「おお! ともちゃんと、おかーさん! 行く~!」
というわけで、門までお出迎え~。
「こんにちはー!」
さっそく、元気にご挨拶するアメリちゃん。私も、改めてご挨拶。
「こんにちはー!」
ともちゃんも、元気にお返事。
「こんにちは。猫崎さん、今日はお世話になります」
近井さんもともちゃんも、よそ行きということで、ちょっとおしゃれでフェミニンな服でおめかしされてます。
「はい。さほど広くない家ですが、おくつろぎいただければ幸いです」
我ながら、言葉が固いなあと内心苦笑。ともかく、中にお通ししましょう。
近井さんから飲み物とお菓子の入った紙袋をいただいたので、用意するために別行動。アメリには、とりあえずリビングにお通しするように言ってある。
おお、クッキーとミルクティーですね。そういえば、アメリの好物ってまだ伝えてなかったか。まあ、いただき物にあれこれ言うのは贅沢よね。
「お待たせしました」
アメリとともちゃんが楽しそうに談笑する中、配膳する。
「おねーちゃん、お菓子ありがとー」
「ありがとうございます。ともちゃんも」
「ありがとーございます!」
勢いよくお辞儀するともちゃん。ほほえま。
「きちんとお礼が言えて偉いねー」
頭をなでなですると、「褒められたー」と嬉しそうにお陽様笑顔。ふふ、ミニアメリ見てるみたい。
そんなことを思いながらアメリを見ると、なんだか不服そう。
「アメリもきちんとお礼言えて偉いよー」
こちらも頭をなでなで。「えへへ」ととろけるアメリちゃん。二人とも可愛いなあ。
「何話してたの?」
アメリの横に腰掛け、盛り上がっていた内容を尋ねてみる。
「あのね、ピュアランドの話してた! ともちゃんも、ケイティちゃん好きなんだって。あ、そうだほら。見て、ケイティちゃんのコップ!」
ミルクティーが入った、ピュアランド土産のマグカップをじゃーんと見せると、ともちゃんが「すごーい! ともも欲しい~」とキラキラ瞳。
「じゃあ、今度買いましょうね」
と、近井さん。
「猫崎さんは、ピュアランドよく行かれるんですか?」
「いえ、それが実は、こないだが初ピュアランドでして。あそこはすごいですねえ。まさに夢の国で、童心に帰ってしまいました」
「いいですよね、ピュアランド。うちも家族でときどき行くんですけど、本当に友美喜んでくれまして」
お、ピュアランドが共通の話題としていけそうですねえ。
というわけで、しばしピュアランドトーク。
しかし、ふと時計を見ると、三十分以上話し込んでしまっていた。
「あ、もうこんな時間……。すみません、今朝申し上げましたように仕事をしなければなりませんので、仕事場に戻りますね」
「おねーちゃん、だったら向こうにともちゃんたち連れて行こうよ!」
ええ~? 初めてお招きした方を、寝室に?
「あら。私、漫画さんの仕事場とかちょっと拝見してみたいです」
近井さんまで……。うーん。
「わかりました。近井さんがそう仰るのでしたら……」
というわけで、寝室にお連れすることになってしまいました。
「猫崎さん、ここでお仕事されてるんですねえ」
「はは……。お見苦しくて恐縮です」
お茶菓子を配膳し直しながら、照れくささで変なはにかみをしてしまう。
「いえいえ。とてもご清潔にされていると思いますよ」
「ありがとうございます。では、私は仕事しながらで失礼します」
PCのスリープを解除し、仕事モードに。
「ともちゃん、絵本読んであげるー!」
「ありがとー、アメリちゃん!」
少しすると、「くろねこクロのたび」一巻の冒頭が聞こえてきました。
近井さんの声がしないから、一緒に聞き入ってるのかな? それとも、私の仕事ぶりを見てたり?
しばしすると、第一巻を読み終えた模様。
「面白ーい!」
「いい絵本ねえ。うたのさんってきっと、優しい方なんでしょうね」
「はい。とてもお優しい方ですよ」
と言うと、「えっ!?」と素っ頓狂な声を上げる近井さん。
「お知り合いなんですか!?」
「友人として、お付き合いさせていただいてます。あの、いつぞや公園に、黒い長髪の猫耳人間の子いたじゃないですか」
「ええ。たしかにいましたね」
「彼女の隣りにいた保護者の方が、作者の宇多野まりあさんです」
近井さん、「ええー! 私、ご一緒したことあるんですか!」と仰天。
「今度お会いしたら、きちんとご挨拶しなきゃですねえ」
「とても親しみやすい方ですよ」
トーンを貼り付けながら、まりあさんのお人柄をアピール。
「あ、本といえば。『あめりにっき』、拝読させていただきました。大変面白いですね。猫だった頃のアメリちゃんのやることが、いちいち面白くて」
くすくす笑うものの、「あ、本人の前で笑ったら良くないわよね」と取り消す。
「だいじょーぶだよー! アメリ、自分でも読んだけど、自分で自分が面白かった!」
「自分」がゲシュタルト崩壊。
「あら、そう? アメリちゃん、本当に猫だったんだなあって、改めて感心しちゃった」
「お読みいただき。ありがとうございます。よろしければ、今書いてる原稿ちょっとだけご覧になりますか?」
「いいんですか? では、失礼します」
背後に立つ彼女。
「あら、今の猫耳人間の姿ですね」
「はい。読み切りはそちらでいこうという話になりまして」
「漫画って、こうやって描かれるんですねえ~」
しきりに感心されてしまう。しばし、仕事について雑談。
「八年……セミプロ時代も入れたら、もう十年選手になりますか。ほんと、時間って経つの早いですよね」
年の割に長い職歴に、感心の声を上げる近井さん。
「私は、若い頃趣味でホームページ作っていて、そのとき培ったノウハウでWebデザインの在宅ワークを始めた感じですね」
今度は、私が感心の声を上げる。
「お仕事としては長いんですか?」
「仕事しては、五年ぐらいです。友美の妊娠がわかって、これからお金もかかるだろうし、あまり体に負担をかけずに家計の助けになるようなことを、何かできないかと考えまして」
「なるほど」
会話も一旦途切れたので、彼女は「それでは、失礼しました」と娘さんのところへ戻っていく。
アメリは「くろねこクロのたび」二巻を朗読中。
ああ、平和だなあ。近井さん親子とお知り合いになれて、本当に良かった。しみじみそう思うのでした。
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