今日も今日とて、ゴッドレンジャーごっこに興じる三人。白部さんもすっかり、悪役の演技が板についてしまって。
ただ、ノーラちゃんの元気が、ちょっとない気がするな。
「ねえねえ、ノーラちゃん。ちょっと元気ないね? 私の思い過ごしだったら、いいんだけど」
「実はさ、エレメントレンジャー終わったダメージが、ぶり返してきたんだ……」
あらま。
しょげているノーラちゃんの頭を、優しく撫でる白部さん。
「そっかー、辛いね……」
「うん。でも、レンジャーたち、今でもアタシの中で輝いてる! ファイアレンジャーも、ゴッドレンジャーも強かったぜ! でさ……」
あ、スイッチ入っちゃったくさい。話を振った以上、遮るものなー。しばらく、好きに語らせておきましょ。私も、あのバスケ漫画の最終回はすごく悲しかったものねえ。
「とにかくさ、エレメントレンジャーはサイコーだったよ、うん……」
締めに入ったっぽい? 私は、エレメントレンジャーのことはさっぱりだけど、相槌を打っておこう。
「ノーラ、悲しいね。アメリも、『スポンジ・トム』が終わったら悲しい……」
「わかる!? ほんとにさ、ファイアレンジャーの人生ってさ……」
ああ、またスイッチ入っちゃった。やれやれだね。
◆ ◆ ◆
しばらくお茶を飲みながら、ノーラちゃんの限界トークに耳を傾けていると、いい加減喋り疲れたのか、ノーラちゃんも黙ってお茶を飲み始める。
「新番組は面白くないの?」
ふと気になったので、訊いてみる。
「うーん、イマイチ。今度のコンチュウジャーは、エレメントレンジャーほどハマれねー……」
しょんぼりノーラちゃん。へー、名前から察するに昆虫モチーフなのか。好みが男の子っぽいノーラちゃんでも、昆虫属性はないのかな?
「ノーラー、ゴッドレンジャーごっこ続けないの?」
要救助者役の、えびぞうとほえほえさんを手に、促すアメリ。
「んー……なんか、気が乗らなくなった」
あらら。
「じゃあ、恐竜の話でもする?」
おっと、アメリ選手ナイスフォロー。
「おー! しよーぜ! ヴェロキラプトルってさ……」
こうして、恐竜ヲタク幼女同士のディープな会話が始まってしまいました。
話の輪に入れない私は、自然と白部さんと会話を交わす。
「そういえば、ミケちゃんの体幹を撮影するというお話、どうなりました?」
「はい。ミケちゃんがダンスゲームでノーラちゃんと遊ぶシーンとか、あとはバランス感覚とか、そういったものを撮影させてもらいました。あとは、斎藤さんのご協力でノーラちゃんの運動能力を撮影したりもしましたね。二人とも、運動神経はいいのに方向性が違うんですよ。ダンス向きとスポーツ向きで」
「ああー。たしかに、なんとなくわかります」
うんうんと頷く。
「クロちゃんの得意なものも撮影させてもらいたいのですけど、彼女の特技が何なのかいまいちわからなくて」
「あの子の場合、総合力が高い感じですね。物を教えるのも上手ですし、お手玉なんかも苦もなくこなしちゃいますし」
「総合力ですか……なるほど」
考え込んでしまう白部さん。
「ヒントをありがとうございます。その線で、宇多野さんとクロちゃんにお願いしてみますね」
得心がいったようで、お茶を飲む彼女。
「ああ、もうそれぬるいでしょう。新しいの持ってきますね」
「ありがとうございます」
空になったティーカップを下げる。もうすぐ三時だし、白部さんにいただいた飲み物とお菓子持っていこうかな。
飲み物とお菓子を手に戻ると、「おねーちゃん、紙ちょーだい」と、アメリにお願いされてしまった。
「何かお絵かきするの?」
配膳しながら問うと、「ノーラにお勉強教えるのー」とのこと。私と白部さんが話し込んでいる間に、そんな方向に話が変わってたのね。
「ノーラちゃんは、今どこまでお勉強できるの?」
「んーと、九九の最初のほうと、小一向けの漢字の途中!」
「恐竜で問題出す!」
おっと、アメリ式恐竜算数術ですね。
「はいはーい。……よっと。これでいいかな?」
コピー用紙と筆記用具二対を用意する。
「ありがとー! じゃあ、問題出すね」
授業を始めるアメリとノーラちゃん。
「あ!」
ぽんと手を打つ。
「そうだ、白部さん。アメリ、分数の計算ができるんですよ」
「え! 分数ですか!?」
予想外のアメリの学習進捗に驚く彼女。
「さすがに、掛け算・割り算や分母違いはまだ無理ですけどね。同じ分母の加算・減算なら、理解できたようです。あとで、仮分数と帯分数について教えてあげようと思いました」
「はー」と、感心のため息をつく白部さん。
「やっぱり、アメリの学習ペースって早いですか?」
「はい、とても早いです」
そう仰り、リンゴジュースを口にする。私も、マスペをいただく。
「転生後六ヶ月でこのレベルは、正直驚きです」
研究者の太鼓判をいただき、自分で切り出しておいて何だけど、ちょっとびっくり。
隣で、熱心に恐竜の絵を描きながら勉強を教えている彼女を見て、その成長ぶりへの期待と同時に、公の場で勉強させてあげられないことの悲しみの両方が去来する。
私は、この子に何がしてあげられるのだろう。何か、独学以上のことをさせてあげられないものかと思わずにはいられないのでした。
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