神奈さんとアメリちゃん

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第四十二話 成り行きバーベキュー ―前編―

公開日時: 2021年4月18日(日) 07:01
文字数:2,224

今日も今日とて筆を走らせていると、夕刻にインタホンがピンポンと。


 応対に出ると、声の主は角照さん。門までお出迎えに行くと、「かくてる」のみなさんプラスミケちゃんが勢揃い。


「これは皆さんお揃いで。突然どうしたんですか?」


「いやね。このアホさつきが、とんでもないことやらかして」


「あた!」


 松平さんの横腹に肘鉄を入れる斎藤さん。


「うーん。なんだかよくわからないですけど、立ち話もなんですから中へどうぞ」


 というわけで、皆さんを中に招き入れました。



 ◆ ◆ ◆



「それで、何があったんですか?」


 麦茶をお出ししてリビングに着席。あいにく七人座れるぶんのソファがなかったので、ダイニングから椅子を三脚持ってきました。


「いえね。自分、今日晩ごはんの当番だったんで、くさや焼いたんすよ。特に、酒の肴としてもバツグンだから姉さん絶対喜ぶって思って、わざわわざ取り寄せたんす」


「お前ね、相手にまず好き嫌い訊けよ! あと一度に五枚も焼くな!」


「あて! 申し訳ないっす」


 斎藤さんが松平さんの頭へチョップ。またお目にかかれるとは。座ればできるのね。


「とまあ、そんなわけで家中くさやの臭いが充満してしまいまして。とりあえず全部の窓を開けて換気扇も回して、こうして臨時避難させていただいたわけです」


 木下さんが締める。なるほど、たしかに皆さんほのかに臭う気がするな。


 「くさや美味しいんすけどねえ……」とぶつぶつ言う松平さんに、再度斎藤さんのチョップが飛ぶ。


「さつきは大人なんだから、もっとしっかりしなさいよね!」


「メンボクないっす……」


 幼女ミケちゃんにすらツッコまれ、身を縮こまらせる。いやはや、立つ瀬がないとはこのことだね。


「えーと。まあ、松平さんへのお説教はそのぐらいにして、皆さん晩ごはんはまだということですよね?」


「そうですね」


 角照さんが肩をすくめる。


「では、うちで食べていきませんか? ……と言いたいところですけど、さすがにうちのダイニングに七人がけは無理なんで……。どうしましょうね」


「じゃあ、うちの庭使いますか? 不幸中の幸いというか、折りたたみ机とグリル、あと紙皿と割り箸とプラのコップはあれバーベキューからバンに積んだままでして。……あ、グリル以外の調理器具とか食材をあの中に取りに行くのは、かなり厳しいな……」


「それなら、うちからお貸しできますので。じゃあ、お庭でみんなで食卓を囲みましょうよ!」


 困り果てる角照さんに、ぽんと手を打って提案する。


「いいんですか? 悪いですね」


 恐縮する角照さんたち。


「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ。ええと……皆さん、全員分の自転車ってあります?」


「あ、ウチ持ってない。呑んでると自転車もアウトだから。てか、なんなら訓練込みで自分の足で走るタイプだし」


 斎藤さんが挙手する。なるほど。


「じゃあ、ちょっと時間かかりますけど、近くのスーパーまで歩いて行きませんか? 車二台で乗り付けるのも大仰すぎる気がしますし」


 「さんせーい」という声を受け、みんなでスーパーにGOと相成りました。



 ◆ ◆ ◆



「ちょっと先に入っててください。せっかくだから、まりあさんにも声をかけてみますね」


 かくてるの皆さんとミケちゃんに先に入店しててもらい、入口の横でスマホを取り出す。


「もしもし?」


 まりあさんがさっそく出てくれた。


「こんばんは。ちょっとある事情で、これから角照さんご一行とあちらのお庭で食事しようという話になりまして。それならぜひ、まりあさんとクロちゃんもご一緒に……というお誘いなのですが、いかがでしょう?」


「あー、すみません。嬉しいお申し出ですけど、もう晩ごはんのお買い物済ませちゃったんです」


「あら……ちなみに、不躾ですがものは何でしょう?」


「カレイの煮付けときんぴらごぼうですね」


 カレイときんぴらかー。それじゃ、持ってきてグリルで焼いてもらうなんてのも無理だね。


「わかりました。では、またの機会にご一緒しましょう。失礼します」


 というわけで、通話終了。まあ、アクシデントから始まった唐突な計画だからしょうがないよね。そんなわけで、アメリを連れ立って入店~。



 ◆ ◆ ◆



 おなじみの店内BGMと冷房に迎えられて、角照さんたちを探す。ええと……? あー、いたいた。精肉コーナー前にいましたよ。四人だから、目立つ目立つ。……って、四人?


「お待たせしました。斎藤さんはどちらに?」


「姉さんなら、リカーコーナーに真っ先に向かったっすよ」


 あはは。わかりやすい。


「宇多野さんもいらっしゃるんですか?」


「いえ、すでに別の夕食を用意してしまっているそうです」


「それは残念ですね。まあ、急な話だったから仕方ないですけど」


 角照さんの問いに答えると、彼女が肩をすくめる。


「今回もバーベキューに落ち着く感じですか?」


「そうですね。コッヘルもバンに積んだままなんで、それでなにか作ってもいいんですけど、あれで七人分も作るのはちょっと無理ですね」


「コッヘル?」


「アウトドア用の小さな鍋とかフライパンですね。収納しやすく作ってあるんですよ。ただ、小さいから大人数用の調理には向かないんです」


 へー。


「そんなわけで、猫崎さんにはトング……あと、ボウルと包丁とまな板を貸していただけるとありがたいです。調味料はこっちで買っちゃいますね。どうせまたすぐ使う物なんで」


 まー、五人暮らしだと調味料の減り早そうよね。うちは二人暮らしになっても、なかなか減ってくれないけど。


 こうして、突発的バーベキュー大会・セカンドの、お買い物の幕が開けられたのでした。

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