梅雨の晴れ間。いつものスーパーに行くべく自転車で走っていると、背後に気配がない。
キッと止まって振り返ると、アメリが立ち止まって、ご近所の柵内に植えられたアジサイを、じっと見ていた。
「どうしたの?」
自転車を引き、娘のところまで引き返す。
「んー? 不思議なの」
「何が?」
「カタツムリいるでしょー」
彼女の指差す先を見ると、たしかにカタツムリがのそのそと、葉っぱの上を這っていた。
「あら、ほんと。でも、触っちゃダメよ」
「うん。でね、カタツムリって貝なんだけど、なんで水の外に出てきちゃったのかな?」
たしかに。地上をうろついてる貝といえば、カタツムリと、あとナメクジか。
「ほんとに不思議だねー。なんでだろうね?」
彼らは水気のあるところじゃないと辛いはずなのに、なんでわざわざ地上に出てきてしまったのか。
んー? と、首を傾げる愛娘。
「疑問を持つのは大事だけど、多分見てるだけじゃ答えは出ないよ。また降り出さないうちに、スーパー行っちゃいましょ」
「はーい」
二人で、再度漕ぎ出すのでした。
◆ ◆ ◆
店内にて。カートを押しつつ鮮魚売り場を歩いていると、アメリがアジの前で足を止め、じーっと見つめる。
「今日は、アジ食べたいの?」
「んー。お魚って、左右に目が付いてるでしょー? 世界が、どういうふうに見えてるのかなーって」
言われてみれば。
まるで反対側を、それぞれの目で見てるわけだけど、頭の中では、どういう映像になっているのだろうか。
「たしかに、不思議だねー」
「ねー」
「それはそれとして、美味しそうだから、今日はアジフライでも作ろうか」
「さんせー!」
というわけで、今日のおかずのひとつは、アジに決定しました!
◆ ◆ ◆
今度は、お菓子売り場の前で足を止め、見回すアメリちゃん。
「お菓子買いたい?」
「んー、それもあるけど……なんで値段って、なんとか八円が多いのかな?」
あー、それ昔から、私も不思議!
なんで、キリ良く何十円とかにしないのかしら。雑学女王の優輝さんなら知ってそうだけど。
「ほんとにねー。なんでこんな、中途半端なんだろうね?」
「ね!」
「それは一旦置いといて、明日、クロちゃんち行くのよね? 栗羊羹と、芋羊羹買っていこうか」
「おおー!」
明日のお土産が、けってーい!
◆ ◆ ◆
ほむ? アメリちゃん、今度は牛乳売り場で立ち止まって、牛乳パックをじーっと見てますよ。
「また何か、不思議見つけた?」
「うん。なんで牛乳って白いのかな?」
はー。これまた、たしかに。
どこをどうして、おっぱいからこんな白い液体が出てくるのかしらね?
これも、優輝さんならご存じかなあ?
「たしかに、謎だね」
「うん」
「とりあえず、いつもの神器ってことで、買っていきましょ」
一本取り、かごにイン!
◆ ◆ ◆
今日は、アメリのいろんな「不思議」を聞きながら、お買い物終了!
帰宅し、「ただいまー!」と合唱!
そういえば、学生の頃に金子みすゞさんの、「ふしぎ」という詩を読んだことがある。
主人公……多分小さい子が、黒い雲から銀に光る雨が降ること、青いクワの葉を食べるカイコが白いこと、夕顔がひとりでに開くことといった、素朴な疑問を不思議がる。
でも、主人公が一番不思議だったのは、それらを誰に訊いても、「当たり前だ」と笑うこと。
「当たり前は、実は当たり前ではない。もっと、常識に疑問を持ってみよう」というような教えが、込められた作品だったな。
思えば、今日のアメリのように、不思議を探究する精神に、最近欠けていたかもしれない。
あとで、ちょっと調べてみようかな。
買い物を冷蔵庫に詰めながら、そんなことを思うのでした。
でも、私にとって一番身近な不思議は、アメリが生き返ったことだよね。
ほんと、不思議!
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