神奈さんとアメリちゃん

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おまけ編・その十 ふしぎ

公開日時: 2022年5月14日(土) 21:01
更新日時: 2022年5月15日(日) 18:34
文字数:1,499

 梅雨の晴れ間。いつものスーパーに行くべく自転車で走っていると、背後に気配がない。


 キッと止まって振り返ると、アメリが立ち止まって、ご近所の柵内に植えられたアジサイを、じっと見ていた。


「どうしたの?」


 自転車を引き、娘のところまで引き返す。


「んー? 不思議なの」


「何が?」


「カタツムリいるでしょー」


 彼女の指差す先を見ると、たしかにカタツムリがのそのそと、葉っぱの上を這っていた。


「あら、ほんと。でも、触っちゃダメよ」


「うん。でね、カタツムリって貝なんだけど、なんで水の外に出てきちゃったのかな?」


 たしかに。地上をうろついてる貝といえば、カタツムリと、あとナメクジか。


「ほんとに不思議だねー。なんでだろうね?」


 彼らは水気のあるところじゃないと辛いはずなのに、なんでわざわざ地上に出てきてしまったのか。


 んー? と、首を傾げる愛娘。


「疑問を持つのは大事だけど、多分見てるだけじゃ答えは出ないよ。また降り出さないうちに、スーパー行っちゃいましょ」


「はーい」


 二人で、再度漕ぎ出すのでした。



 ◆ ◆ ◆



 店内にて。カートを押しつつ鮮魚売り場を歩いていると、アメリがアジの前で足を止め、じーっと見つめる。


「今日は、アジ食べたいの?」


「んー。お魚って、左右に目が付いてるでしょー? 世界が、どういうふうに見えてるのかなーって」


 言われてみれば。


 まるで反対側を、それぞれの目で見てるわけだけど、頭の中では、どういう映像になっているのだろうか。


「たしかに、不思議だねー」


「ねー」


「それはそれとして、美味しそうだから、今日はアジフライでも作ろうか」


「さんせー!」


 というわけで、今日のおかずのひとつは、アジに決定しました!



 ◆ ◆ ◆



 今度は、お菓子売り場の前で足を止め、見回すアメリちゃん。


「お菓子買いたい?」


「んー、それもあるけど……なんで値段って、なんとか八円が多いのかな?」


 あー、それ昔から、私も不思議!


 なんで、キリ良く何十円とかにしないのかしら。雑学女王の優輝さんなら知ってそうだけど。


「ほんとにねー。なんでこんな、中途半端なんだろうね?」


「ね!」


「それは一旦置いといて、明日、クロちゃんち行くのよね? 栗羊羹と、芋羊羹買っていこうか」


「おおー!」


 明日のお土産が、けってーい!



 ◆ ◆ ◆



 ほむ? アメリちゃん、今度は牛乳売り場で立ち止まって、牛乳パックをじーっと見てますよ。


「また何か、不思議見つけた?」


「うん。なんで牛乳って白いのかな?」


 はー。これまた、たしかに。


 どこをどうして、おっぱいからこんな白い液体が出てくるのかしらね?


 これも、優輝さんならご存じかなあ?


「たしかに、謎だね」


「うん」


「とりあえず、いつもの神器ってことで、買っていきましょ」


 一本取り、かごにイン!



 ◆ ◆ ◆



 今日は、アメリのいろんな「不思議」を聞きながら、お買い物終了!


 帰宅し、「ただいまー!」と合唱!


 そういえば、学生の頃に金子みすゞさんの、「ふしぎ」という詩を読んだことがある。


 主人公……多分小さい子が、黒い雲から銀に光る雨が降ること、青いクワの葉を食べるカイコが白いこと、夕顔がひとりでに開くことといった、素朴な疑問を不思議がる。


 でも、主人公が一番不思議だったのは、それらを誰に訊いても、「当たり前だ」と笑うこと。


 「当たり前は、実は当たり前ではない。もっと、常識に疑問を持ってみよう」というような教えが、込められた作品だったな。


 思えば、今日のアメリのように、不思議を探究する精神に、最近欠けていたかもしれない。


 あとで、ちょっと調べてみようかな。


 買い物を冷蔵庫に詰めながら、そんなことを思うのでした。


 でも、私にとって一番身近な不思議は、アメリが生き返ったことだよね。


 ほんと、不思議!

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