さて、サファイアとのラブラブデートに街へ繰り出した私達だったけど、どうしてこうなるかね〜
今アタシは、いかにも街のチンピラで御座います、って連中に取り囲まれて居る。
チンピラ達はキナガシガウンを纏い、手にはシラキドスを抜身でチラつかせている。
そしてアタシの背後にはサファイアともう一人、煌びやかなキモノドレスに身を包んだ、美しいオイランガールが。
チンピラの数は五人。
うん、弾は足りるね。
「痛い目に会いたくなきゃ、その女をこっちに渡しな!」
チンピラの一人がアタシに向かって吠えるが、その程度の脅しは通用しない。
「ハッ! か弱い女性一人に大の大人が寄ってたかって、これだから男って奴は!」
「んだとコラ! テメーには関係ねーだろーが! すっこんでろ!」
やれやれ、面倒な事に首を突っ込んじまったね……
でも、目の前で無理矢理連れて行かれそうになって居るのを、見ないフリは出来ない。
それが、見目麗しい女性なら尚更ね。
「アタシに勝ったら好きにしな。
そうじゃ無きゃ彼女に指一本触れさせないよ!」
アタシは腰のシックススターを見せ付ける様にコートをめくる。
こっちは銃を持ってるんだ、余程の馬鹿で無い限り、そんな刃物だけで襲い掛かって……
「面倒だ! やっちまえ!」
うわ! コイツら本気?
本気の馬鹿?
仕方ない、あんまり騒ぎは起こしたく無かったけど、やるってなら容赦はしないよ!
アタシが男共を迎え撃つ為、シックススターを抜こうとした時、チンピラの一人が突然倒れる。
あん? アタシはまだ撃っていないよ?
「誰だ! この女の仲間か!」
まさかパール? そんな訳ないか。
チンピラ共が一斉に後ろを振り向くと、そこに立っていたのは、サムライソードを抜身で構えた黒髪の女性。
キナガシガウンにハカマスカートを履き、ハオリジャケットを身に付け、腰には黒い鞘のサムライソード大小を携えている。
街明かりに照らし出されたその顔は、切れ長の目に冷たい炎を宿し、端正な顔には侮蔑の表情を浮かべ、男共を睨み付けていた。
「クソ! どっちもやっちまえ!」
コイツら本気で、状況判断出来ない奴らだね。
人数が多いとは言え、前後を挟まれた状態でも、まだ勝ち目が有ると思ってる。
それとも何か、引くに引けない理由が?
シラキドスを腰だめに構え、突っ込んでくるチンピラ二人。
アタシは一瞬で二度発砲し、瞬く間に二本のシラキドスを弾き飛ばす。
チンピラ二人組は何が起きたかも解らず、痺れた腕を庇い、その場に蹲った。
例のケンカクガールの方も、瞬時にチンピラ二人を昏倒させたらしく、既に勝負は終わっていた。
やれやれ、威勢は良いが、口程にも無い。
「まだやるかい?」
アタシは目の前で蹲っているチンピラの頭に、シックススターの銃口を向け一応聞いてみる。
意思確認は大事だからね。
「クソ! 覚えてやがれ!」
二人のチンピラは、気を失っている仲間を引きずるようにしながら、お決まりのセリフを吐いて逃げて行く。
チンッと言う音に気が付き、そちらを見ると、サムライソードを鞘に戻したケンカクガールが立ち去ろうとする所だった。
「アンタ、助かったよ。
アタシはルビー、アンタは?」
ケンカクガールは顔半分だけ振り返り、その拍子に首の後ろで束ねた長い黒髪が揺れる。
そして、
「ツバキ」
と、一言だけ発すると、雑踏の中に消えていった。
やだ、何アレカッコいい。
危なく惚れちゃう所だったわ。
っと、いけない。
「サファイア、怪我は無い? えーと、そちらのお嬢さんも」
「私は平気」
「はい、危ない所を助けて頂き有難う御座いました」
そう言って、深々と頭を下げるオイランガール。
「良かった、アタシはルビー。
アナタは?」
「私は、カエデと申します」
と、顔を上げながら答えるカエデ。
う〜ん? この子、商売女……よね?
何だろう、何と無く違和感を感じる。
何が、とは上手く言えないけど……
今まで多くの子猫ちゃんを相手にして来た、アタシの第六感がそう告げている。
それに、オシロイファンデーションのせいで解り辛いけど、歳も若く見える。
綺麗と言うより、可愛らしい顔つき。
何より、この子からは男の臭いがしない。
こんな子がオイランガール?
「兎に角落ち着ける所に移動しましょう」
✳︎
「で? 宿に連れ込んだと」
何だかご機嫌斜めのパールは、タタミカーペットにドッカとあぐらをかき、アタシの話を聞いてそんな事を言って来た。
「やーね、パール。
連れ込んだなんて人聞き悪い」
「全く君と言う人は。厄介ごとを持ち込まないと気が済まないのかね!」
そんなやり取りを聞いていたカエデが、スッと前に出たかと思うと。
その場で正座し、背筋を伸ばした綺麗な姿勢のまま、両手を前に付き、額がタタミカーペットに付く程頭を下げる。
「パール様、この度は大変ご迷惑をお掛け致しました。
ルビー様とサファイア様には危ない所を助けて頂き、大変感謝致しております。
このような事になったのも全ては私の責任。
平にご容赦を」
「ぐっ……」
おお、パールを黙らせた。やるわね〜
ガリガリと頭を掻き伐の悪そうな顔のパール。
カエデの殊勝な態度に、すっかり毒気を抜かれてしまった様子。
「まあ良い。起きてしまった事を、とやかく言っても始まらない。
詳しい話を聞こうじゃないか。
カエデ君を襲った連中は何者で、君は何故襲われていたんだい?」
「私を襲って来た方々は、このデジマシティーを牛耳るヤクザファミリー、トウドウコーポレーションの人達でしょう」
成る程、地元のギャングか。
ただのチンピラって訳じゃ無かったのね。
それにしては大した事無かったけど。
「ふむ。で、君が襲われた理由は?」
パールの言葉にカエデは言い淀む。
「命を助けて頂いた方々に、この様な事を言うのは心苦しいのですが、故あって明かす事が出来ません。
申し訳ありません」
そう言って再び頭を下げるカエデ。
「ふむ。つまり、襲われた理由に見当は付いている。と、言う事だね?
率直に聞こう。君はオイランガールでは無いね?」
「それについても、お答え出来ないとしか……」
やっぱりね。
そして、それはもう、言ってるも同じね。
「ふむ。理由も身元も明かせない……か。
それではこちらも、力になりようが無い」
「はい……何にせよ、これ以上皆様にご迷惑をお掛けする訳には行きません。
私はお店に帰ります」
そう言って立ち上がったカエデは、部屋の出口へ向かう。
「待って! アタシは力になるよ。
乗り掛かった船だしね!」
それを聞いたパールがアタシに食ってかかって来た。
「君は今の話を聞いていなかったのかね?
理由も身分も明かせない相手に、どうやって力になるつもりだい!」
「うーん、取り敢えず今日みたいに襲われた時助ける? ボディーガード? みたいな?」
アタシの言葉を聞いてパールは頭を抱え込んでしまった。
「お人好しにも程が有るだろう!
第一、僕達には、ネオジパングへ入ると言う目的が有るんだ。
こんな所で油を売っている余裕は無い筈だ!」
「そうは言うけどパール。待ち合わせているキャラバンは、まだ到着していないし、その間はただ待っているだけ。
それに、彼らが到着するまでの短い間だけよ」
アタシがわざと軽薄な感じでそう言うと、
「何だその無責任な物言いは!
面倒見るなら最後まで見たまえ!」
「うん、そうする」
そこでパールはハッと気付く。
そう、アタシに、まんまと乗せられた事に。
「……謀ったね?」
悔しそうな表情でアタシを睨め付けるパール。
「ごめんね。でもパールは、議論になると熱くなりすぎるのよ。気を付けた方が良いわ」
はーっと大きく溜息を付いたパールは、もう諦めたと言わんばかりの表情。
「まさか君に言いくるめられる日が来るとは思っても見なかったよ。
で? どうやって彼女を守るんだい?
四六時中一緒に居るわけには行かないだろう?」
そうね〜じゃあこう言うのはどうかしら!
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