焼印の魔銃士 ~理不尽な冤罪で魔力封印の焼印を押されて追放。未来を断たれた少年は、魔銃を手に成り上がる。追放した国は魔族に攻められて滅亡しましたが一切手助けしません~

琴猫
琴猫

兄弟たち

公開日時: 2021年2月13日(土) 17:00
文字数:2,241

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 スコフィールド家の娘、ファーラ・スコフィールドの部屋には、朝日が良く差し込む。

 それは今日も変わらない。

 

「ん………!」

 

 ファーラは目を覚ます。

 そして―――昨日、何があったかをすぐに思い出した。

 

「――――リベルっ!」

 

 ファーラは寝間着のまま自分の部屋を飛び出すと、大慌てで向かいのリベルの部屋へ飛び込んだ。

 医者を大急ぎで連れてきた時、リベルは酷い熱にうなされており、それを目の当たりにしたショックで、ファーラも寝込んでしまったのだ。リベルは………!

 

 だがリベルの部屋に、彼の姿はどこにもなかった。

 ベッドは整えられて、寝間着はクローゼットの中。いつも着ている服も、無い。

 

「お、お父さん! お父さん! リベルは………!?」

 

 次にファーラが飛び込んだのは父スカイエルの部屋。

 スカイエルは空き瓶を大事そうに抱えてベッドの上で転がるように寝ていたが、慌ただしく飛び込んできたファーラを見、大あくびをして起き上がる。

 

「うむ? どうしたファー………」

「リベルがいないの! あんなに熱が酷かったのに、どこに………!」

「落ち着け落ち着け。夜のうちに熱は下がっておったわい」

「じゃ、じゃあどこに………」

 

 父からはっきりとした答えを得ることが出来ず、ファーラは階段を駆け下りた。

 

 すると、聞こえてくるのだ。窓越しに、誰かが薪を割る小さな音が。

 

「――――リベル!?」

 

 ファーラがドアを開けた時、リベルはすっかりいつもの普段着に着替えて、薪を割っている所だった。慌ただしく扉を押し開けたファーラに、少し呆気に取られた様子だったが、

 

「………ファーラ。おはよ」

「熱があるのに外に出ちゃだめでしょ!? ほら、斧を片付けて部屋に戻って………!」

「もう、熱は無いよ。身体も重くないし」

「でも………」

 

 と「朝から騒々しいのお」とスカイエルも寝間着のまま降りてきた。

 

「……んん? 何じゃいリベル。もう起きとったのか。熱はもう下がったのかの?」

 

 リベルはこくり、と頷く。

 

「ファーラとスカイエルさんが看病してくれたから。………ありがと」

 

 ファーラは驚いてリベルを見やってしまった。いつも言葉少なく、表情も乏しいリベルが、少し気恥しそうな顔をしているのだから。

 ふと、きゅう……と可愛らしい腹の音がリベルの方から聞こえてきた。

 

「………お腹すいた」

 

 自分からそんなことを言うのも、ファーラは初めて聞いた。

 

「え? あ、ちょ、ちょっと待っててね! すぐ着替えて作るから!」

 

 ファーラは慌ただしく階段を駆け上がっていく。リベルのちょっとした変化に、表情を緩ませながら。

 

 

 

 

 

 

「………全く。騒々しい娘じゃ。満足に眠れもしないわい」

 

 スカイエルは呆れたように、階段を上がっていくファーラの姿を見守る。

 どこか、嬉しそうな顔をしていたのは気のせいだろうか?

 

「まあ、起きたのならメシにするかの。斧を片付けてこい」

「分かった」

 

 リベルは割った薪をいつもの置き場に積むと、斧を納屋に片付けた。

 それから家の中へ入ろうと―――――

 

 

「り、リベルーっ!!!!」

 

 その時、慌ただしい蹄の音が向こうから聞こえてきた。

 振り返ると、庭先に2頭の馬が飛び込んでくる所だった。馬に乗っている2人の小さな人影は―――――

 

「シェイン、エオリオ………」

「リベルっ!! すまん! 全部……全部俺の責任だっ! この通り、許してくれーッ!!!」

 

 シェインは、リベルが止める間もなく、馬から飛び降りるとそのままその場で………両ひざをついて手を地面においてうずくまってしまった。エオリオはオロオロするばかりで、シェインとリベルを交互に見やるしかない様子。

 リベルも慌てて膝をついて、

 

「シェイン………。服が汚れるよ」

「お、俺はとんでもないことをしてしまった! 土下座で詫びる以外どうしようもない俺を許してくれーっ!!!」

「ゆ、許す! 許すから。………それより、背中の怪我は? もう大丈夫?」

 

 へ? と涙で顔がクシャクシャになっていたシェインはきょとん、と思わずリベルへと顔を上げて、

 

「あ、ああ。傷も残ってないけど………」

「良かった。エオリオは?」

「へ? 僕? だ、大丈夫だよ。もともと怪我もしてないし………」

「そっか、良かった。2人は俺の―――大切な兄弟だから」

 

 兄弟。リベルの口からそんな言葉が出るとは思わなかったシェインは、何秒かポカン、としたが、

 

「り、リベル…………リベル……リベルぅーッ!!! うおおおおおおおおお!!!!」

 

 感極まったようにシェインはリベルを思いっきり抱きしめた。リベルは後ろに倒れ込みそうになるのを何とか堪えて、

 

「しぇ、シェイン………苦しい………」

「そうだ!! 俺たちは兄弟だっ!! たとえ生まれた年、月、場所は違っても、死ぬ時は一緒だからなッ!!!!」

 

 その様子を、少し離れた所で微笑ましく見守っていたスカイエルは、2人の肩を腕を広げて抱き込むと、

 

「うむ。これで一件落着だな。全くハラハラさせおってこの悪ガキどもめ」

「うう……」

「ご、ごめんなさい………」

「全くじゃ。だがまあ、若い時はこのぐらいがちょうどいいわい。シェインもエオリオリットも朝飯はまだであろう」

 

 うん。と頷くシェインとエオリオに、スカイエルはニッと笑いかけ、

 

「では、ワシの家で食っていけ。朝飯が済んだら、お前たち3人をみっちり鍛えてやるからな。イーストベアなんぞ1発で仕留められるような、1人前の銃士にしてやろうぞ」

 

 その言葉に、シェインもエオリオも、それにリベルも思わず表情が明るくなり、お互いの顔を見やった。

 それはまるで、本当に3人が兄弟であるかのように。

 

 

 

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