焼印の魔銃士 ~理不尽な冤罪で魔力封印の焼印を押されて追放。未来を断たれた少年は、魔銃を手に成り上がる。追放した国は魔族に攻められて滅亡しましたが一切手助けしません~

琴猫
琴猫

魔力封印の焼印

公開日時: 2021年2月11日(木) 17:00
文字数:2,257

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「お、お父さん! 良かった。皆は………って、きゃ!?」

「すまんファーラ。とにかく水とタオルを持ってこい!」

 

 スカイエルは出迎えたファーラを突き飛ばさん勢いで家の中に入ると、スカイエルのコートに包められたリベルを、ソファの上に横たえさせた。

 

「リベル!? そ、そんな!」

「水とタオルだ! 事情は後で説明する!」

 

 ファーラは台所へと駆け込み、すぐに数枚のタオルと溢れんばかりに水が張った桶を持って戻ってきた。

 ソファの上に横たえられたリベルは、汗が噴き出て、苦しそうに荒く呼吸していた。

 スカイエルはタオルを桶の中に突っ込んで水に浸し、軽く絞ってその汗を丁寧に拭ってやった。

 

「い、医者は………?」

「頼む。ワシの名前を出せばすぐ来るはずだ」

 

 ファーラは厩舎へと飛び出していった。

 と、おずおずとシェインとエオリオの2人がおずおず、と家に入ってきた。

 

「お、俺たち。できることがあれば………」

「そこに座れ。少し待っていろ」

 

 短く、そして厳しい口調でスカイエルは居間の椅子を示し、2人は恐る恐る、それに腰かけた。

 リベルの熱はなかなか下がらないようで、スカイエルは何度も汗をぬぐってやり、濡れて冷えたタオルをその額に乗せて、これも何度も交換してやった。その間、シェインもエオリオも黙って見ているしかできない。

 

 やがて、リベルの呼吸が、少しだが和らぎ始めた。

 

「うむ………何とか、だな。あとは解熱薬さえあれば………」

 

 交換したタオルを桶に落としたスカイエルは「さて」と今回の騒動を引き起こした2人に振り返る。

 

「一体、何があったのだ? 答えろ」

「その、俺たち………馬車がイーストベアに襲われてたからそれで、助けに行こうと………」

「………そのことについては、別の機会に話し合うとしよう。問題はこの、リベルの方だ」

 

 その時、シェインはイーストベアに襲われ、重傷を負って気絶しており、答えることができない。

 代わりに「え、えっと………」とエオリオが言葉に詰まりながらも、答えた。

 

「シェインが、い、イーストベアに襲われて、傷が深くて、血が………そしたらリベルが、何か唱えながら、シェインの周りに何か書き始めて、こんな………」

「いかん! 描くな!」

 

 スカイエルは咄嗟に一括し、その様子を空に描こうとしていたエオリオの腕を力ずくで止めた。

 

「………魔杖術で使われる紋様を、地面に刻んだのだな。怪我をしたシェインのために、回復の術を使うために。素人であってもその模様を刻めば僅かなれど魔杖力が発現することがある。リベルが何を唱えたか、それにどのような紋様だったかは忘れろ。二度と描こうとするな。よいな?」

「は、はい………っ!」

「な、何だよその………魔杖術って?」

 

 機械文明で栄えるこの辺りではほとんど無縁のものだ。特にこのような外界の情報が入りにくい田舎では、シェインのような反応をするのが当然だ。

 スカイエルはシェインへと向き直り、

 

「この大陸の東にある大国、ハイヴェイン王国を発祥とする、魔の概念から力を引き出す奇跡の技だ。魔の力を引き出すことによって、炎を生み出したり、何もない所から水を溢れだしたり、術に長ずればたちどころに人の傷を癒したりすることすらできる。シェイン、お前の背中の傷が癒えたようにな」

「じゃ、じゃあリベルってその………魔杖術が使えるのか!? すげえ! で、でも………」

「リベルは訳あって、その術を使うことを許されてはおらぬのだ。無理に術を行使しようとすれば………あのようになる」

 

 スカイエルはソファの上のリベルに目を向ける。シェインも、エオリオも。

 この3人は全員見ていた。リベルの胸に刻まれた………あの痛々しい焼印を。

 

「な、何でだよ!? そんなの、まるで………っ!」

「罪人のよう、か? 話せば長くなる。しかし、お前たち2人も、あの焼印を見た以上は知らねばなるまい。この少年の悲痛に満ちた過去をな。―――だが一切、絶対に他言してはならぬ。もしそれを破れば………ワシがお前たちを殺す」

 

 鋭く、殺気に満ちた視線を目の当たりに、シェインとエオリオはイーストベアに襲われた時とすら比べ物にならない程の恐怖を感じずにはいられなかった。

 

「その覚悟が無いのであれば………よい。何も聞かずにこの家を去るがよい。リベルの容態はまた教えてやろう。どうする?」

「そ、そんなの………決まってるだろ!? リベルは俺の弟分だっ! それに、俺があんなバカをしなければこんなことには………だから、聞きたい。聞いて、リベルの、力になりたい………っ!」

「ぼ、僕も! そ、その上手く言えないけど………だけど、このままだなんて、嫌だ!」

 

 子供ながらも立派なシェインとエオリオの覚悟。それを聞き届けたスカイエルはふぅ、と小さく息をつき、

 

「ならば教えてやろう。これは、今や決して誰にも話してはならぬ、ある少年の物語だ。だがそれを語る前に、ハイヴェインという国について語っておかねばなるまい………」

 

 

 スカイエルは語り始めた。

 東にある魔杖術によって栄える大国、ハイヴェイン王国のこと。

 長い、長い繁栄によって堕落し、腐敗した国と王、民のこと。

 ある下級貴族ながらも勇敢で高潔な魔杖士が、王宮や都に蔓延る腐敗と戦おうとしていたこと。

 それらは叶うことなく、魔杖士は、その力と高潔さに嫉妬した腐敗貴族によって陥れられ、殺されたこと。

 

 

 そして、その魔杖士の子にして、才能を認められていたとある少年が、心が腐った国王の前に引き出され、親の無実の罪を償うためその胸に〝魔力封印の焼印〟を押され、奴隷へと落とされたことを――――

 

 

 

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