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深い水の底から浮かび上がるような、意識が戻る間隔。
「う………」
頭が重い。
全身が熱くて、クラクラする。
苦しい。
けれども、今自分を包み込む毛布の感触すら煩わしく、リベルはまだ意識が曖昧なまま、起き上がった。
「ここ、は………?」
しばらくして、リベルは自分が今、スコフィールド家の自分にあてがわれた部屋にいることに気がついた。服も、いつの間にか寝間着に代わっている。
窓の外は夜。ランプが、点けっぱなしになっており、部屋を淡く照らしている。
リベルはベッドから抜け出そうとした………が、思うように身体に力が入らず、木の床の上に崩れ落ちてしまう。
と、ドタドタ! と慌てて階段を上がる音が聞こえてきた。
「リベル! 気が付いたか………」
部屋に飛び込んできたのは、スカイエルだった。
スカイエルは倒れ込んだリベルを軽々と抱きかかえ、ベッドへと戻し、毛布を掛け直した。
「俺は………」
「安静にしておれ。焼印に封じられておるにも関わらず、魔杖術を使ったのだ。命があっただけでも、幸運じゃ。熱も、医者がくれた解熱剤のおかげで下がってるようじゃな」
「シェインは………?」
「2人とも無事じゃ。今は家に帰しておる。まあ、事が事ゆえにそれぞれの家でしっかり絞られてるじゃろうが」
スカイエルはベッドの傍に椅子を置き、腰かけた。
しばらく、沈黙が続くが………
「2人から聞いたぞ。お前さん1人で、3頭のイーストベアをたちどころに葬ったそうだな。それも非力な銃〝タイプA〟で。お前の………銃士としての才能は、本物だ」
「でも、俺は………」
「分かっておる。術を使ったことについては、もう何も言うまい。だがそれについては、ワシもお前に謝らねばならん。―――焼印を見た2人に、お前が何者であるか、話した。彼らも知らねば、到底収まりがつくまいと思ってな。けれどもあの子らは、命懸けで秘密を守ると、そう誓った」
リベルはぼんやりと、窓の外を見た。窓の外の月は、何も応えることなく、ただ微かな月明かりをリベルの部屋に注ぎ続けるだけだ。
「………ごめん、なさい」
ただ、掠れた声でそれだけを言うので精一杯だった。スカイエルは「謝らなくても良い」と軽く笑いながら、
「まあ、無茶をしたのは事実じゃがな。ファーラの奴はカンカンだったぞ。それに心配もしておる。熱で苦しむお前さんを見て、ショックで寝込んでしもうたわい」
「………」
「元気になったら、ファーラには謝っておくがよいぞ」
リベルはこくり、と頷いた。
スカイエルもまた、満足そうに頷くと「さて」と腰を上げる。
「ワシもそろそろ寝るわい。年寄りは早寝早起きなのに、先ほどまで酒を飲んでおってな。ようやく酔いと睡魔が回ってきたわい」
スカイエルは、やや足元をふらつかせながら、ドアの方へと歩いていく。
「スカイエル、さん………」
リベルは呼び止めた。うむ? とスカイエルが振り返ると、
「………ありがとう。俺、なんかのために。俺、ただの奴隷……なのに………」
その時―――――スカイエルの目から涙が溢れた。
そしてスカイエルは荒い足取りでリベルのベッドに歩み寄ると、リベルの弱った身体を抱きしめた。
「まだ、分からんのか………! お前はもう奴隷ではない! あの日、救い出したあの時に、お前はもう奴隷では無くなったのだ! お前は、自由な、1人の人間なのだ………!」
リベルには、スカイエルがなぜ涙を流すのか、分からなかった。
けれども自分の目にも、なぜか涙が溜まっていた。そして、とめどなく溢れるのだ。
泣いて、泣いて、泣き疲れて眠るまで、スカイエルはその老いた、それでも力強い腕で守るように、リベルを抱きしめてくれた。
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