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結局、スカイエルは1ヶ月間、スコフィールド家に留まり続けた。
「弟子」である悪ガキ3人組……シェインにリベル、エオリオを鍛えるためである。
銃の撃ち方、狙い方、銃撃戦の心得、銃という武器についての知識。銃士としての心得。銃の手入れの仕方。素早くホルスターから銃を抜き出す、早撃ちの極意まで。
11、12の少年が学ぶには少々厳しすぎるようにも見えたが、3人は力を合わせて、その鍛錬を乗り切ったのだ。
特にリベルは、銃士としての才能、それに元からの秀才ぶりを如何なく発揮し、師匠からの教えを漏らさず吸収して見せた。
そして1か月後。再び義賊として立つために隣国へと旅立つスカイエルを、リベル、シェイン、エオリオの3人は馬上にて、丘の上から見守っていた。そのホルスターには、木のおもちゃではない、本物の〝タイプB〟リボルバー拳銃が収められている。厳しい鍛錬を乗り越えた3人に、スカイエルは新品の拳銃を贈ったのだ。〝タイプA〟よりもやや大きい32口径の銃で、イーストベア相手でも十分な殺傷力がある。
3人の視界の中で、馬に乗るスカイエルは夕日に向かって街道を進み、やがてその姿は消え去ってしまっていた。
「………行っちまったな」
シェインが鞍のロープがけに身体を預けながら、しみじみと呟く。
「これから、どうしよう………」
エオリオは不安そうにシェインの方を見やる。
それに応えたのは、その後ろにいるリベルだった。
「決まってるだろ。もっと、もっと強くなるんだ。本当にイーストベアぐらい1発で仕留められるぐらいにな」
3人は、何度かスカイエルに狩りへと連れ出されたが、結局………誰も1発でイーストベアを仕留めることはできなかった。
スカイエルが22口径の〝タイプA〟銃で、信じられない神業によって1発でイーストベアを撃ち殺した時、3人とも驚嘆するしかなかったのだ。
リベルは、その仕掛けをある程度推察することはできた。イーストベアの眼球を撃ち、弾丸を脳まで到達させたのだ。スカイエルが姿勢を低くして撃っていたから、間違いないと思う。
だがリベルが同じようにしても、結局イーストベアを1発で仕留めることはできなかった。スカイエルと同じ強さを身に付けるには、鍛錬が全く足りないのだ。
「それに、俺たちは〝スコフィールド兄弟団〟だ。ビーバータウンと、ワイアット郡を守る。そうだろシェイン〝兄貴〟」
リベルの言葉に、スコフィールド兄弟団の〝長兄〟であるシェインは「おうよ!」と笑った。
「俺たちは〝スコフィールド兄弟団〟。俺たち3人が力を合わせれば、たとえどんな奴が来たとしても怖くはないさ! 行くぞ! リベル! エオオオリオット! 酒場でパーッとやろうぜ!」
「流石に無理だと思う………」
「だからエオリオリオットだって………」
3人の少年を乗せた3頭の馬は、踵を返して夕暮れ時のビーバータウンへと駆け去っていった。
………ちなみに、まだ13にもならない少年たちが堂々と銃を持って酒場に入ってきたことで街中が大騒動になり、シェインとエオリオは両親に、リベルはファーラにこっぴどく叱られてしまったことは言うまでもない。取り上げられてしまった銃を返してもらうまでに、またひと騒動起きることになる。
それからも3人は親友であり、もう兄弟と言っていいほどに絆を深めた。
共に草原を馬で駆け、川での水遊びも、昼寝も、勉強も、銃の鍛錬もいつも一緒だった。やがては遠くまで狩りに出かけるようになり、最初は畑を荒らす小さな野兎から。それに街外れの農場を狙う魔狼や、やがてイーストベアまで。
リベルは仲間……いや兄弟たちと共に広い草原を駆け抜ける。
そこには、焼印を押され、奴隷として生きることを強要され、心を閉ざし、自分という存在を失っていた幼い少年の面影は無い。
そうして、5年もの歳月が流れた――――――
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