放課後ゆうやけ隊

-さよならのあった時代で-
マオっぺ
マオっぺ

十四没目 私の言葉は…届かないのかもしれないな①

公開日時: 2021年9月28日(火) 17:30
更新日時: 2021年10月19日(火) 15:07
文字数:5,246

「えー?茉莉へのプレゼントぉ?」

 

「まぁ、俺はいいぜぇ。面倒くせぇけど」


 時間が流れるのはあっという間で、もう11月になってしまった。結構寒くなってきて、屋台の焼き芋の匂いに釣られてしまう季節になってきた。


放課後ゆうやけ隊の皆と遊んでから…もう、半年が過ぎていた。毎日笑って毎日楽しんで。会えば会うほど、どんどん皆と仲良くなって、気付けば一緒に買い物に行くほどの仲になっていた。もちろん、それは他の子からすれば当たり前なのだけれど。私がこうやって、自分から何かやったり人と積極的に関わったりしたの…初めてだった。


 全て、茉莉ちゃんのおかげだった。ゆうやけ隊作ったのも、茉莉ちゃんと喧嘩してなかったら作れなかったしね。私にあの夏休みをプレゼントしてくれた。そのおかげで、人に頼るって事が出来た。茉莉ちゃん以外の人にも。


「うん…だから、放課後付き合って欲しいんだけど…ダメ?」


 だから、今更だったけど、茉莉ちゃんに、何かお返しがしたくなった。でも、私は言ってまだ半年ぐらいしか関わってないから、茉莉ちゃんの好みとか分かんなかった。今まで友達にプレゼントとか送った事なかったから、同じ女の子で気軽に話せるミドリちゃん。同じクラスメートなら茉莉ちゃんの持ち物とか見てるんじゃないかって思って明くん。

 

「んー…まぁ、いいけど。でも、茉莉かぁー。腹立つー…」

 

「おぅ、じゃあ夏美、焼き芋奢れよな。俺はそれでいいぜ」

 

「やった!ありがとう!」

 

 家について、ランドセルを放り投げると、私はすぐに貯金箱を割って、お金を出した。500円玉貯金。銀色の方が少なかったから、金色の方を何枚か取って私は家を後にした。友達と買い物。私の人生で、まだ指で数えられるぐらい少なく、ドキドキいつも楽しい。ミドリちゃん家に行く途中の田んぼ道で、キンモクセイの香りをしっかり身体中に着けてゆく。


 私が、初めてこの町に来た時に、電話を借りた交番の先の…商店街の中心にある、ヨーク堂。商店街はやっぱ、おばちゃんくさいものしか置いてなかったから、茉莉ちゃんへのプレゼントは大きなデパートにした。

 

「茉莉の身の回りで古くなってるもの?だっしゃっしゃ。わかんねえ」

 

「えーっ。筆箱とかお箸入れとかでも…古くなってそうな茉莉ちゃんの持ち物探しといてって、明くんに頼んだじゃん!」

 

「バーカ、夏美。こいつ焼き芋食べるためについてきたよーなもんだからね。初めっから予想通りだよ。はぁ、全く意味ないじゃん、明。帰れ帰れ」

 

「お?いいのか、帰っても。だっしゃっしゃ。いいんだよ、自分が貰って嬉しいもんで」

 

明くんは満足気に焼き芋を食べると、そのまま腰に手をあててお尻突き出して、あっ、やべぇ、聞け!プーなんかやってた。その度にミドリちゃんにバシバシ殴られてた。

 

「んー…服ってのもいいけど、私は小物の方がいいと思うな。まして、あの茉莉でしょ〜?服なんか絶対着ないと思うなー」

 

「なんでもいいじゃねえか。早く帰ろうぜぇ」

 

「全くあんたは…んー、やっぱ夏美、上の雑貨屋さん行こうよ。あたし、茉莉の服のセンスとか知らないし」

 

「そ、そうかなぁ。服、いいと思ったんだけどな」

 

手に取ったゆとりのある花柄のトレーナーに、2人でナイナイと言われてしまう私。だって分かんないもん。

 

「俺ゲーセン行ってるからよぉ。2人で選んどいてな」

 

「もー、明マジで意味ないじゃん、行こ行こ、夏美」

 

「う、うん…」

 

 上の雑貨屋さんは、アジアン雑貨屋さんだった。落ち着いたやんわりした光に照らされたアクセサリーの数々が、眩しく光沢を放っていた。ミドリちゃんは慣れたカンジでずいずい入っていくから、私は店員さんにイナカモノみたいな感じで見られていないかヒヤヒヤしていた。

 

んー、と悩みながら、色々吟味して、真剣に悩むミドリちゃん。いつもは、何かと茉莉ちゃんと喧嘩してるのに…ミドリちゃんの横顔は、とっても茉莉ちゃんを嫌ってるようには見えなかった。だってこんなに、人を想う眼差しだったもの。


だから…聞いてみたくなった。

 

「そういえば、ミドリちゃんって…茉莉ちゃんと、仲悪いの?」

 

ゆうやけ隊を作った時からの疑問。料理の味見の時みたいに、首を傾げて目線を斜め右上にするミドリちゃん。んー、と、長い間を作るミドリちゃん。

 

「苦手だよ。すーぐ人殴るし。昔はあんなんじゃなかったけどね」


やっぱり。私は続けた。

 

「カナちゃんがいた頃?」

 

「えっ、よく知ってんじゃん。そう。夏美が来るまで、かなり荒れてたよ」

 

「ふうん。…カナちゃんって、どんな人だったの?」

 

「んー。私そんな仲良くなかったからあんま知らないけど。お金がないって子だったな。父親が蒸発しちゃって、母親には虐待されてたってのは聞いた事ある」

 

「そう…なんだ」

 

「大変だったみたい。今は引っ越しちゃったけど、弟と妹も居たから。面倒見は良かった。だからあの茉莉とも上手くいったんじゃない?」

 

比べる事自体おかしいけど、それでも比べてしまう。私より、もっと辛かったんだ。どんな気持ちで過ごしていたんだろう、カナちゃん。

 

「そんな茉莉と上手くいってるんだ。夏美、あんたの事尊敬するよ。きっとあたしには無理」

 

手を顔の前で、ムリムリと振るミドリちゃん。

 

「茉莉ちゃんの事嫌い…?私、無理にミドリちゃん付き合わせちゃってるかな」

 

くすっと笑って、気にしないでって言ってくれるミドリちゃん。手に取ったネックレスを、うーんと考えながら私に当てがって、首を傾げて元の位置に戻す。

 

「それでも昔は遊んだりしたよ。でも、あんまりにも攻撃的になったり一人で居たがってたからさ。そのまんま、結局」

 

「そっか…ごめん。聞かない方が良かったかな。ごめんね。教えてくれてありがとう」

 

「謝らないでよ。変な空気なるじゃん。ま、それでも少しは見直したんだ。あの暴力ゴリラ、まだ良心残ってたからね。ちょっと安心したんだ。まだ、優しいじゃんって」

 

 そう、緑ちゃんは目を伏せて、寂しそうに、安心したって感じではなく、諦めのような顔をしてた。帽子を私にかぶせて、これは攻め過ぎかって緑ちゃんはまた元の位置に戻した。今度はビーズのブローチを取って、またうーんと考えていた。

 

「んー…茉莉に似合うものが分からない!あいつ髪短いし、アクセなんか基本似合わなさそうだし。夏美も、ちょっと自分で探してみ」

 

「う、うん」

 

そう言われて、私はショーケースを眺めたり、上からぶら下がってるブードゥー人形を手に取ったりしていた。


 そうだ、全く分からない。茉莉ちゃん、初めて会った時からそうだったけど、あんま服とか興味なさそうだったし。




 

自分がもらって嬉しいもんでいいんだよ。




 

 ふと、明くんの言葉が思い浮かんだ。すんごく単純な言葉だったけど、私はその言葉をよく考えてみた。私の中で、もらって嬉しい「もの」は手に入らないから、裏を考えてみた。

 

 私が貰ってうれしくないモノってなんだろ。胸のあたりに手を置く。お母さんの懐中時計。これは、貰って嬉しかった。けれど。もし、その人が死んじゃったら。もし、その人が居なくなってしまったら。それを見るたび、悲しくなる。それを見ると、いつもその人の顔が思い浮かぶ。忘れられなくなる。

 

 そうだ。来年は私、いなくなる。カナちゃんのミサンガをずっと着けてた茉莉ちゃん。もし、私が私を思い出させちゃうものを買ってしまったら…二重に茉莉ちゃんは苦しくなる、かも。あぁでも、だからといって何もあげないのはやだ。茉莉ちゃんにしてもらった事。伝えたい。感謝。

 

 そんな、うんだとかすんだとか悩んでる時に、腰らへんの高さのネットディスプレイにぶつかって、商品が落ちてしまった。私は急いでそれを拾って、元の位置に戻そうとした。戻そうとして…手を止めた。

 

コノハのネックレス。

 

木製の、木の葉の形をしたネックレス。特に変わった装飾も無く、ただ茶色の木の葉模様が刻んでいるだけだった。めっちゃ渋い。それだけなら、私はそのまま元の位置に戻していた。でも。くるっと裏を見ると…小さな鏡が、丸くはめ込まれていた。小さな、決して良質とは言えない、埃をかぶった鏡。少し洋服で拭いてみると、きっかりと私の顔が映った。

 

これだ。これにしよう。

 

 緑ちゃんが、薄緑のガラスの葉っぱを青のガラスの葉っぱで包んだ、綺麗なデザインのネックレスを持ってきた。けれど、私は首を振って、これにするって答えた。えーっ、ださい!て緑ちゃんは言ったけど、私はそこだけは譲れなかった。いいんだ。緑ちゃんには悪かったけど、いつも私は誰かを拠り所にしてた。たまには、自分で決めなきゃ。明くんにもダセーって言われちゃったけど、それでも私は満足だった。






 

次の日。私はプレゼントを渡せるって気分でウキウキになって、早く1時間目の授業が終わらないかと、早く早くって貧乏ゆすりまでしてしまった。


 1時間目が終わる。私はガタンと席を立って、だけど誰にも見られないように、いそいそ廊下に出ていった。控えめに6年4組を覗く。いた、茉莉ちゃん。机にまた肘ついてる。

 

「よぉ、なんだ夏美、昨日のか?」

 

「う、うん。茉莉ちゃん呼んでくれるかな」

 

「おし。おいー!!茉莉ィーッ!!」

 

 明くんがそんな大声出すから、教室中の目が茉莉ちゃんに向いた。ビクッとして私の方を見た茉莉ちゃんは、恥ずかしそうにそそくさと私の方に駆けてきた。

 

「何呼んでんのよ、バカッ」

 

 いつもの茉莉ちゃんだった。大儀そうに腕を組んで、怒ったようなだるそうな感じで私に向かう。渡す時になっていきなり、プレゼントが小さく見えて。しょぼく見えて。やっぱりダサくみえて。もっと高いものの方が良かったかな、とか、捨てられたらどうしようとか不安がよぎった。

 

ドキドキドキドキ。

 

 汗ばむ手で、ダサかったら捨てていいよ、って何回も予防線を張って、私は恐る恐る茉莉ちゃんにプレゼントを差し出した。その時の茉莉ちゃんの顔は、えっ、て、いつもみたいに強張った表情が一瞬で消えてた。


「あたしに?あんたが?」


 そしたら、なんだか茉莉ちゃんももじもじして、恥ずかしいから女子トイレ来てよ、って、茉莉ちゃんと一緒の個室に入った。ゆっくりプレゼントの袋を開けて、首にかける茉莉ちゃん。しっかり、開けた後の袋のシールも取っててくれて、とっても丁寧だった。

 

「…似合う?」

 

「うん!」

 

「ふ、ふん。でも、今日は着けないかんね。あ、あたしはこういうの…休日だけだから。わ、悪く思わないでよね」

 

「大丈夫だよ。ありがとね、茉莉ちゃん」

 

「ばか、逆でしょ普通。…ありがと」

 







そう言って、あたしはバカまんじゅうから、友達から、久しぶりのプレゼントをもらった。木の葉の鏡のネックレス。


 正直、なんか渋かった。ダサかった。だけれど、夏美があたしに買ってくれたもん。嬉しかった。裏をみると…鏡がついていた。くす、あいつの考えそうな事。あたしはそれをギュッと、しっかり手に握って教室へ戻った。

 

 季節の流れは早い。あっという間に、キンモクセイの咲く季節になって、少しずつ肌寒くなってきた。2時間目。先生にバレないように、机の上に夏美のプレゼント袋を出す。教科書をめくるたびに、ちらっと袋を見て、にやっとする。嬉しかった。でも。


 同時に…夏美のパパの事が思い浮かんだ。あれから毎日考えていた。夏美のパパが言ってた事。あの、夕焼けを背に、何か含んだ感じで言われたセリフ。

 

君は、いい子じゃない。

 

 夏美のパパが傷付いたんじゃないかって。本当はパパは夏美を大切にしてなかったんじゃないかって。だってそうじゃん。あたしが親なら、こんなガキに知ったような口を利かれたら怒る。あの言葉。そんな気持ちからだ。


そこに触れて欲しくないというか真実を言われて怒るような…吐き捨てたような感じだ。夏美が明るくなってたのはよかった。あたしん家ってすごく羨ましい、って、夏休みが終わった後にも言われたし。だから尚更、夏美ん家があの後どうなったか気になる。余計な事しちゃったんじゃないかって。


 でも夏美には聞けない。だから、あたしはパパに会いたくなった。あれの意味の確認はもちろん、謝罪も兼ねて。元はと言えば、あたしが首突っ込んだ事だし。放課後、ゆうやけ隊のやつらと会って、少し遊んだ後に…夏美と帰る。あたしはランドセルの肩紐に手をやって、夏美に聞いてみた。

 

「ねぇ…夏美のパパって、土日は居るの?」

 

「ん?居るよ、どうして?」

 

「あ、その、ん…そう、あー。あ、あれよ。あれ。じ、実はあんたっちでお皿…割っちゃって。それ黙ってたから、会って謝りたいっていうか…」

 

まぁ、割ってはないけど、実際ヒビ入っちゃったお皿はあった。あたしお皿洗いとかした事無かったし。

 

「え?いいよ、別にそんなの。茉莉ちゃんらしくもない。というか割れたやつなんかあったっけ...?」

 

首を傾げる夏美。言い方と仕草がムカッと来たからバシッと一発。あたしは夏美が言うより早く、咄嗟に言葉を続けた。

 

「と、とにかく!あんたっちのパパに言っといてよ。河原で待ってるからって」

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