魔法少女のアルビレオ

─私の幼馴染が〈世界を滅ぼす力〉を持ってた話─
射水航
射水航

1-1 万古不易

公開日時: 2021年9月13日(月) 19:08
文字数:1,347

 ちょっとだけ歴史の話をします。今から半世紀ほど前のこと。

〈ミレニアム気候危機〉と呼ばれる大災害が降りかかり、地球の自然環境は滅茶苦茶になりました。

 ある地域は灼熱地獄に、またある地域は八寒地獄はっかんじごくに。生態系が崩壊し、疫病が蔓延しました。

 極めつけに南極の氷が一気に溶け、海水面が二十メートル上昇──それにより各国沿岸部の都市が水没。

 十年間で四十億人が亡くなりました。

 

 こうして滅亡寸前まで追い詰められた人類は、科学によって生き延びることを選択します。

 海上都市を建造し、海の上に住処を作りました。宇宙開発を加速して、地球から逃げる方法を考えました。

 その過程で様々なテクノロジーが生み出され、人々の暮らしを変えてきました。

 そうしてできた今の私たちの暮らしは、半世紀前と比べればそれこそ〈魔法のような〉ものなのです。

 

 でも、いくら文明が発展しても変わらないこともあります。

 一体なにか?

 

 それは、何かの目的を達成するには、それなりの努力が必要だってことです。 



 

 ある日の早朝、四時のこと。

 学生寮に住んでいる私とマリナは早起きをして、寮のベランダへ出てきていました。

 そして周りに誰もいないことをよーく確かめて……

 

【Main system: Activating Combat Mode】

【->”Magne-Grant” engage】

 

〈杖〉を起動し、磁性付与の魔法を行使。

 すると寮の建屋が磁性を帯びて、私の身体がふわりと浮き始めます。そのまま柵を超え、落ちないように磁力を強めて、壁に沿って上昇。屋上まで上がったら磁性を打ち消し。

 一方マリナは気体凍結の魔法を使い、ベランダの柵から屋上まで固体窒素の梯子をかけてよじ登ってきます。そしてたどり着いたら元の気体に昇華。

 

 この屋上に通じている階段は無いので、普通なら入れません。

 でも魔法使いならこの通り。行けないところにも工夫次第で行けちゃうんです。

 最近はずっとこんな感じで、朝早く起きて魔法で屋上へ登るのが二人のルーティーンになっています。ちょっとした魔力トレーニングになりますから。

 でも実のところ、トレーニングがこの習慣を始めたキッカケというわけではないんです。

 じゃあ一体なにがキッカケなのかって?

 それは──まあちょっと、予想しながら見ていてください。

 

 マリナは短パンのポケットに〈杖〉をしまい、入れ替えに小さな箱型のスピーカを取り出して地面に置きました。

 それから両耳につけた骨伝導イヤホン型情報端末を操作して、ホログラム画面を投影。A4大のその画面に表示されたのは音楽のプレイリストです。〈STAR 4 U!!〉とか〈Magic Smile〉とかなんとか、キラキラした感じのタイトルが五つばかり並んでいます。アーティスト名は〈アルビレオ☆★〉。

 端末とスピーカを同期させて……。

 

「ストレッチはよろしい?」

「オッケーよ。マリナは?」

「おっけーよー。それじゃ〈STAR 4 U!!〉からね」

「うん」

「みゅーじっく……すたーと!」

 

 再生ボタンをポチッとな。

 すると曲名に違わぬキラッキラした前奏が流れ出し、私とマリナは並んで最初の振り付けを……。 

 



 ……さて、そろそろ察しがついてきませんか?

 早起きの直接的なキッカケが一体なにか。

 

 そう。

 私たちはアイドルのダンスを完コピするために、早起きして練習をしているのです。

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