結構な種類の金属と鉱石があった。どうしてこんなにドーコは、金属を持っているんだろう。そもそもどうやって、生活の資金を得ているんだろうか。ドーコから手渡された金属を叩きながら尋ねてみる。
「なぁドーコ師匠。何でこんなに金属や鉱石があるんだ? もしかして1人で鉱山に行ったりしてるのか?」
ドーコは呆れた顔をしている。
「そんな訳ないじゃん! まぁ少しは取ってきたりするけど、殆どはヒューマンの商人と物々交換してるんだよ」
「ほー結構ドーコ師匠って人気があるのか? 商人がドワーフの村で買い付けしてても、こんな量の鉱石
もらえるものなのか?」
今度は頭でも痛いのか手を頭にやる。
「ドーコ師匠、頭でも痛いのか? 休憩するか?」
「……呆れてるんだよ。」
ドーコはいくつか鉱石を抱えると俺の近くに座って続けた。
「それはドワーフの村の人たちは、見習いが作った物しか売らないんだよ。それでもヒューマンが作った物よりかは、かなり良いんだけど、まぁもちろん私が作った物よりは、劣るんだけどね!」
急にちょっと偉そうだ。師匠ぶっている。
「でもそれだったら長とかが作った装備って、どうなるんだ? まさか自分で使って戦うわけでもないだろ?」
「ドワーフは師匠に認められると作品に、自分の印を刻む事を許されて、それ以降は相手を選んで売る様になるんだよ。私も一応認められてて、ほらそこの剣にも印が刻んであるでしょ」
と自慢げに小さな胸を張る。また師匠ぶってる。
確かに置いてある剣にはドーコと印が刻まれていた。
「本当は私も、認めた人だけに売りたいなーって気持ちもあったんだけど、1人で暮らして研究を続けるってなると、あれこれ構っていられなくなっちゃったんだよ……」
ちょっと悲しげに落ち込むドーコ。自分が丹精込めて作った物が、雑に扱われて壊れるのは確かに嫌な事だろう。ここは弟子として励ましてやろう。
「それでも、自分の意思を貫くために作品を売ったのは、偉いと思うぞ」
「えへへ、そっそうかなぁ。だったら少しは報われたかも」
そう言って少しはにかむドーコ。
可愛い。いつもこれくらい素直だったらいいのに。そんなことを話しつつ鎧を完成させていった。
★ ★ ★
手渡されるまま全ての素材を使ってドーコに言われた装備を完成させた。
ドーコがプルプルと震える。
「ねぇ……その【ドワーフの知恵】私にくれない?」
「くれないって言われてもそんなふうに渡せる物なのか?」
俺が思ったことをそのまま口にすると、プルプルと震えていた爆弾が弾けた。
「わ た せ な い よ!! 普通初心者だったらまず、師匠の技を見て盗むことから始まってその時点で大体1年、それで実際に作り始めてから試行錯誤して3年、まともなものができるまで10年って言われてるんだよ!!!」
鍛冶仕事が得意そうなドワーフでも、そんなに年月がかかるのか。矢継ぎ早にドーコは話を続ける。
「だからいつ跪いて、私に頼ってくるかなってずっと待ってたのに、どんどん作っていくし! 作業速度もどんどん上がってるし、意味がわかんないんだよ!?」
俺が跪いて頼ってくることを期待するなよ!!
確かに途中からより一層作業速度が上がった気がする。もしかしてと思いマイページと念じる。
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名前 ドワルフ
レベル 12
視聴者数 2
フォロワー 2
メインジョブ 配信者
サブジョブ なし
スキル なし
ユニークスキル 【エルフの知恵】 【ドワーフの神】 【ヒューマンの良心】
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レベルは鍛冶仕事でも上がるのか。それにしても【ドワーフの神】か、なんだかとんでもない字面になってきたな。ちょっといつもの仕返しに、ドーコに意地悪してみるか。
「ドーコ師匠! 私の【ドワーフの知恵】が無くなってしまいました……」
あんまり演技が上手いわけじゃないが、それでも精一杯悲しげに言ってみる。
「へっ!? でも作業速度はどんどん上がってたよ?」
へへッ! ドーコが驚いてやがる。
計画通り。
「あぁ、【ドワーフの知恵】がなくなって【ドワーフの神】が増えた」
今度は急にキリッとはっきり言ってやった。
「ふぇ!? そっそれはなくなったんじゃなくて、進化って言うんだよーーーー!!」
振りかぶって全力のボディブロー! しかし俺だって伊達に何発も貰ってはいない。腹筋に力を入れて受けきる!
「ってやっぱ痛ぇ! それにしても一体何が条件だったんだろうな……」
ドーコは未だパニック状態だ。
「知らないよぉそんなことぉ……そもそも【ドワーフの神】なんてスキル御伽噺でしか聞いたこと無いよ。でも一杯金属とか皮とかで作ったからじゃない? 特にダマスカス鋼でナイフを作った時から、速度が変わった様な気がするよ」
慌てながらもしっかりと分析してる辺り、やはりドーコは優れた師匠なのかもしれない。
ひょっとすると【ドワーフの知恵】を持った状態で一定種類以上の加工をすることで【ドワーフの神】進化するのか?
「だとしたら【ドワーフの知恵】すりゃ持ってれば【ドワーフの神】に進化するのは簡単なんじゃ無いか?」
バンバンと俺の作ったものが乗っかった机を叩くドーコ。やめろやめろ! 俺の作品が落ちるだろ!
「まず前提条件が全然違うよ! 普通ドワーフには向き不向きの素材があって、ドワルフみたいにこれだけの金属と皮を完璧に使いこなすことなんて、できないんだよ!」
「そうだったのか。ってじゃあそもそもこの試練自体不可能なことじゃ無いか! 腹黒ロリ! 略して腹黒リ!!」
ボディブローを警戒してもう一度腹に力を入れたが今回は飛んでこなかった。
「ロリって言うな! あと略すなー! それと今回はただ単に意地悪するんじゃなくて、どの金属に適正があるかテストするつもりだったんだよ。ダマスカス鋼は普通の金属と違って、ドワーフでも上手く扱える人が少ないんだよ。だから絶対に詰まると思ったのに、そこから更に速度が上がるから、私びっくりしてたんだからね!」
ちゃんとドーコなりの考えがあったわけか。
「そうだったのか。それだったら、どうしてこんなにも多種の金属や皮があるんだ? ドーコは全種類使えたりするのか?」
悲しげな表情なドーコ。
「そうだよって言えたら良いんだけど、とにかく沢山の物を試して、マジックアイテムを作ろうと思ったんだよ。まぁ殆どは上手く扱えなくて、置きっぱなしだったんだけどね」
ガックリと肩を落としてさらに物悲しそうにして呟くドーコ。
「まぁそれで俺のスキルも進化したし、これも全部ドーコ師匠のお陰だよ。本当に感謝してる。ありがとう」
「そうだよね! これも全てきっと師匠である私の計算通りだー!」
半ばやけくそ気味に小さな胸を張るドーコ。何とか師匠の顔を潰さずに済んで良かった。
「すっかり集中してお昼ご飯食べ損ねたし、ユニークスキルの進化も兼ねて宴会でもしよっか!」
「ちょっと待てドーコ。重要な事を忘れているぞ」
俺はそのために頑張ってきたんだ。
「重要な事? なんかあったっけ?」
本当に忘れているようで、素の顔でドーコがそう言う。
「ここにある物全部扱い切れたら、な ん で も 言う事聞くんだったよな?」
カーッとドーコは顔と耳を紅潮させ、体を手で覆い隠す。
「もっもしかして、何か変な事考えてるんじゃ無いよね! たっ例えばエッチな事でも私にするつもり!? 宴会で酔わせて何考えてるんだよ! 髭が生えてない私を襲うなんて! ロリコンなの!?」
人からロリと言われるのは嫌なのに、自分で言うのはいいのか。じゃなくて
「俺はロリコンじゃない! それに変なこと考えてるのは、そっちの方だろ! 俺はこの世界の配信について知りたいんだ。どうやらドーコは結構詳しいみたいだしな」
「なっなんだそんな事か。宴会の時にでも教えるよ」
勘違いしたのがよほど恥ずかしかったのかドーコの顔はより一層真っ赤になった。
「でもそうだよね私みたいな髭の生えてない女なんか需要ないよね……」
今度は急に体をシュンとさせ落ち込みながらそう呟いた。
なんだか落ち込ませてしまった様だ。ここは正直に俺の気持ちを言ってみるか。
「俺はロリコンじゃない、それは間違いない。だがそれと俺がドーコの事を可愛いと思っている事は、別の話だ」
……
今度は俺の顔が赤くなる。空も日が落ちかけて真っ赤な夕焼け。とりあえず今日も宴会だ。今度は追い出されないだろうし安心して酒が飲めそうだ。
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