カンカンッ
今度は俺が起こすために、フライパンとヘラを叩き合わせる。1日目の可愛い仕返しだ。だがドーコはなかなか目を覚さない。仕方ないので揺すって起こす。仕返し失敗である。仕方ない餌で釣って起こそう。
「おいドーコ。朝だぞードーコの好きなマジックアイテム作りだぞー」
急に起き上がるドーコ。揺すって起こそうとしたせいでやや屈んでいた俺のほほにドーコのおでこが当り、更に横に跳ねた俺の頭はフライパンにキッスした。目覚ましより大きな音が鳴った。
痛い。
ドーコも痛かったようで、おでこをさすっている。
しばらくしてお互いに目が合う。
「やっやっぱり私に変な事をするつもりなんだね! というかもうされた!? 今だってキッキスする距離だったし、色々された後だったり!?」
そう言って衣服がはだけていないか確認している。
「俺は了承も得ずに寝込みを襲う様な真似はしない! そして! もしそんな度胸があったら俺はもっとモテていた筈だ!」
元いた世界でもイケメンでモテモテーみたいなわけではないのだ。むしろ逆だったし、それでせっかく出来た人生初の女友達との関係を台無しにするつもりは更々無い。
「度胸があればモテるってのは分からないんだけど、もしエルフの耳が生えてなかったらドワーフ族だとモテモテだと思うよ。それくらいドワルフの髭は立派なんだよ!」
髭よりも俺としてはもっと内面的なものを評価してもらいたいな。
「それに鍛冶仕事だって完璧だし……私だって髭が生えてないけど大人の女性なんだよ……」
それって俺に気があるってことか? 期待していいのか!? いや口に出して聞くのはやめておこう。勘違いだったら恥ずかし過ぎる。決してヘタレでは無い! ここは強引にでも話を変えることにしよう!
「そっそうだ。今日は俺が朝ごはんを作ったんだぜ。て言ってもオムレツとサラダだけどな」
「こっちの箱に入ってるのは何なの?」
ドーコがツンツンっと箱を突きながら聞いてくる。
昨日思いついた事の本命はこれだった。
「あーそれは昨日昼ご飯食べずに作業しただろ? だから作業場でも簡単食べれる様にハムサンドを作っておいたんだ」
「ほードワルフって気がきくね。もしかして鍛冶スキルだけじゃなくて家事スキルも持ってるんじゃ無い?」
感心するとニカっと笑いながらジョークを言ってきた。
「上手いこと言いやがってこいつー! まぁこれはスキルとかじゃなくてただドーコより賢いってだけだな」
ドーコはジタバタしながら
「もーっそんな意地悪言って! 師匠のこと馬鹿にしちゃダメなんだよ!」
いつもの調子に戻ってきた。正直言って女性経験のない俺にはあの空気は辛い。
身支度をしてドーコと2人で朝ご飯を食べる。
「「いただきまーす」」
食べながら今日の予定について考える。
「マジックアイテムかー。とりあえず俺が今出来そうなことって風属性と単純な魔力の注入か?」
「魔力じゃなくて祈りの力ね」
ドーコが全く違うものと言いたげだ。
「祈りの力? と魔力って違うのか?」
ゲーム的なイメージだと祈ったり呪文を唱えたりすると妙なサウンドとともに火がでたりとか氷が出たりとかするもので同じものに感じるんだが……。
「全然違うよ。祈りの力は主にヒューマンが、神に祈ることで起こす神の奇跡で、魔法はエルフが精神力を
つかって呪文を唱えたりしながらバーッって出すものなんだよ!」
バーっと出すって……でも確かにエリクサーを作る時何かを唱えた様な気がするな。
「でもそれだったらどうして魔力では駄目なんだ?別にそれでも良さそうじゃないか」
ドーコはフォークを教鞭の様にして先生みたいになり説明を始めた。
「祈りの力ってのは奇跡なの。奇跡はその場で起きる現象だから、物質に込めるとかできないわけ!魔法は物質に込めることは可能だけど、素材はそれぞれの魔法に相性のいいミスリルによるものじゃないとだめなの!」
俺は素直に疑問を口にする。
「だったらミスリルに、俺が魔法の刻印なんかを刻めば良いってことか? 簡単そうだな」
ドーコがチッチッチとフォークを横に振る。完全に先生気分だ。
「それがそう簡単に行かないんだよ。理由は二つあるんだよ。まず一つにミスリルの加工が出来るドワーフは存在しないってこと」
「存在しない? どういうことだ? ミスリルって金属だよな? ドワーフでも加工できそうなもんだが」
ドーコがまたしても自慢げに胸を張る。
「正しくいうとドワーフ1人では加工が出来ないんだよ。ミスリルは魔法金属って言われてて、普通に叩くだけじゃ刻印どころかちっとも曲がらないんだよ。それを加工するためには、魔力を通しながら叩く必要が有るんだよ」
そう言うことだったのか。なら普通のドワーフには無理だな。
「ってことはエルフの協力が不可欠ってことか。でもそれだったら俺は【エルフの知恵】も持ってる俺なら出来るんじゃないか?」
ドーコもその可能性には気付いていたようで、指を一本上にビシッと立てる。
「できるかもしれないでも、そこでもう一つの問題が出てくるんだよ。ミスリルが取れる鉱山はエルフの里近くにあって、しかも魔族に占領されてるんだ。ここからじゃ遠いし、魔族が出るから簡単に手に入らないんだよ」
俺はガックリと肩を落としながら
「そうだったのか……」
話を聞く限り俺の最強装備はミスリルで作った防具がピッタリな気がしたんだが、その道のりは果てしなく遠そうだ。
「じゃあどうやってマジックアイテムを作るんだよ。現状不可能に近いじゃないか」
ドーコは更に胸を張りあげる。
「チッチッチ忘れちゃったの? 昨日の話!」
「あーそういえばこのナイフ宝石が埋め込まれていたな」
今度は立てていた指を俺の方に向けてくる。
「そう! 魔法は宝石の中に留めることもできるんだよ! これの技術を応用すれば、マジックアイテムを作れるはずなんだよ!」
「さっきはミスリルだけって言ったじゃないか! もしかしてまた俺を試したなーこの腹ぐ」
まで言ってドーコが立てていた指をゆっくりとしまい拳に変えていったので言うをやめた。毎朝一発貰う生活は嫌だ。
「でもあれぐらいの切れ味だったら、そんなに大したことはないんじゃないか?」
渋々ドーコは拳を収める。
「それはそのナイフには実験用の宝石を入れていたからだよ。じゃあさっさと朝ごはん食べて、私のコレクションを見に行こうか!」
★ ★ ★
「ここが私の秘蔵宝石コレクションだよ!」
女性が宝石といえばアクセサリーぐらいなものだが、ドーコにはどうやらそういった欲はなさそうだ。
「どうどう? 何か使えそうな宝石はある?」
ドーコが俺の顔を、わくわくしながら見てくる。
確かに色とりどりの宝石があって、よりどりみどりなんだが、俺の扱えそうな宝石はっと……
「んーなんとなくだがこのエメラルドとナイフにも入ってた色のついてない宝石だけみたいだな」
「えーこんなにたくさんの種類があるのに、それだけー? 【エルフの知恵】はどうしたんだよー」
ドーコが俺の服を掴んでユラユラと揺さぶる。
「多分俺が今使えるのは風属性だけなんだってば。他の宝石を試したっていいんだが、それで壊しちまったら勿体無いだろ!」
ドーコは宝石の中から、小さいルビーを拾い俺に押し付けてくる。
「じゃあ一個だけルビーでも試してみてよー」
直感で無理だと感じているし、無理だと思うがこのサイズだったら失敗しても、そこまで大きな損失にはならないだろう。
「まぁやってみるが多分無理だからな」
そう言って俺は宝石に魔法を込める練習をする。その間にドーコはその器となる大斧を作るそうだ。
ナイフの様に一回だけ発動するものだったら、簡単に作ることはできた。そういえば1つ忘れてた。
「なぁドーコ。配信つけてもいいか?」
ドーコは遠くから腕をブンブン振りながら大声で
「いいよー!」
許可も取れたことだし、配信を始めるタイトルは『マジックアイテム作成中 エルフ募集中』でいっか。 ダメ元でもタイトルにエルフと入れておけばドーコみたいに誰か来るかもしれない。
そうして俺は宝石に魔術を込めるコツを掴もうと、必死に頑張る。ドーコの夢を叶えてやりたいしな。
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