「「かんぱーい」」
ガシッと木でできたジョッキ音が、響き渡る。プライベートな時間だし、俺の水浴びでも流したらまた炎上しかねないので、配信は切っておいた。
「早速なんだが、この世界の配信について教えてくれないか? 俺の生命線なんだよ」
ドーコが不思議そうに首を傾げる。
「その毎回毎回『この世界』って言うけどどうしてなの?」
「あーそれか……」
ドーコの事を信用していないわけじゃないんだが、正直に俺が転生したなんて事を、言って大丈夫なものなんだろうか。だがこのまま隠して付き合っていくなんてことはしたくない。意を決して言う。
「実は俺ここじゃない世界から来たんだ。この世界よりもっと文明が進んでる所からな。そっちの世界でも配信があって、俺はそこでも配信者だったんだ。それで色々あって倒れて目が覚めたら、ドワーフの村近くの森にいたってわけなんだ」
ドーコが黙り込んだ。
やっぱりいきなりこんなこと言っても信じてもらえないか。
ポンっと手を叩きドーコがハッとした表情で
「逆にしっくり来たよー。そんな唐突に【ドワーフの知恵】を持った人が現れるわけないと思ったよ! しかも1日で【ドワーフの神】に進化するし。なーんか常識も欠けてるなーって、ずっと思ってたんだよ!」
うっ初めて来た異世界なんだから、欠けるも何も俺にはこの世界の常識がないんだよ。
「あとユニークスキルについてなんだが、他にもあってだな」
「はっ!? 1つユニークスキルがあるだけでも珍しいのに2つも!?」
「あーいや3つだ。【エルフの知恵】と【ヒューマンの良心】を持ってる」
ドーコは呆れ果てたのか、エール片手に天井を仰ぎ見る。
「やっぱりドワルフ、非常識だよ……」
呆れ果てたというか、脱力し切ってるな。そうか、この世界ではユニークスキルってのは、かなりレアなんだな。そういえば【ヒューマンの良心】は分からないが、【エルフの知恵】はもしかして名前的に進化するんじゃないか? 今、俺が使える魔法はエリクサーを作るのと、ナイフを使った時に出た風属性の何かだな。
これはエルフ族にも是非会って、修行を付けてもらいたい。俺の夢は最強装備で安全に暮らす事だが、出来ることが増えて困ることも無いだろう。
脱力していたドーコが急に表情を輝かせて、バッと立ち上がる。
「ちょっと待って。【エルフの知恵】は詳しくないけど名前的に【ドワーフの知恵】と似た感じのものなのかな? だとしたら私のマジックアイテムできそうだよね!!!」
どうやら俺と同じ、スキルが進化する発想に至ったらしい。
「だよねって言われても、さっきも言ったが、俺はこの世界の事を何も知らないんだ。そもそもマジックアイテムが何なのかも分かってない。そんなに貴重なものなのか?」
好きなものを話すドーコは、鼻息を荒げながら
「貴重も何も、今ではもう作ることができないんだよ! 何でも昔に作られたらしいんだけどね。今あるマジックアイテムは、その時代に作られた物だけなんだよ!」
ほーそうなのか。オーバーテクノロジーって奴か?ピラミッドみたいな。
「で、それと【エルフの知恵】がどう繋がってくるんだ?」
小さな体をさらに小さくさせ、耳打ちでドーコが聞いてくる。
「これは私の研究結果なんだけど、今配信はつけてないよね?」
「あー宴会が始まった時に切っておいた」
ドーコは安心して元に態勢に戻り、意気揚々と話を続ける。
「それなら良かった。じゃあ続けるね。ドワルフは今朝、ナイフに力を込めて机ごと切ったじゃない? でもそれを今私が使っても……ほらただ肉が切れるだけ。これがマジックアイテムなら、誰が使っても机が切れるんだよ! 誰でも使えるんだよ!!」
「ほーほー。じゃあなんだその宝石に【エルフの知恵】をー……詰めろってことか?」
ドーコはうんうんと頷きながら
「おぉ理解が早いねぇ! まぁ大体そんな感じだね。ただ宝石をはめ込んだだけじゃダメだったけど、 【エルフの知恵】を持ってるドワルフは使えたんだから【エルフの知恵】でなんとかなるよ! エルフは宝石魔術が得意らしいんだ! だからきっとマジックアイテム作るのにはエルフの協力が必要だっていったのにお父さんときたら……ブツブツ」
1人で愚痴り始めてしまった。そうかそれでエルフ族を探しに行っていたのか。
「で! どう出来そうかな!?」
身を乗り出して尋ねてくる。っとその前に、こちらの約束をまだ果たしてもらっていなかった。
「やってみないことには分からないが、すっかり話が逸れてしまって、まだ俺の約束を果たしてもらってないが?」
ドーコは酔っているせいか慌てて服を正して体を隠す。
「エッエッチなこと!?」
脳内ピンク色なのか!? そんなにしたいならしてやろうかと思ったが今は自分を落ち着かせる。
「配 信 に つ い て だ!!!」
「あーそっちかー」
ドーコはちょっとガッカリした表情で席に着いた。なんでガッカリしてるんだよ……。
まぁドワーフの村では、髭がないと認められないらしいし、こっちの世界にもあるのかはしらないが、甘
酸っぱい青春もできなかったんだろうな。いや、俺も出来てないが。元の世界でも全くそういう青春など知らないが、いや悲しくなってきた、それより今は配信だ。
「メインジョブ配信者でサブジョブ無しって言うと、ドバンが驚いてたんだが、結局詳しく聞けず終いでな。そんなに珍しい事なのか?」
何を当たり前の事を聞いてるんだろうという表情のドーコ。だから俺にはこの世界の常識がないんだってば。
「そりゃそうだよ。だってメインジョブっていうのは一番恩恵を得られるジョブだからねー。冒険者だったら、戦士とか魔法使いをメインにしたいだろうしサブジョブでも配信者の恩恵得られるしね」
「その恩恵ってのは何なんだ? 俺は配信してて何か恩恵を受けてるのか?」
んーっと顔に少し皺を寄せながらドーコ。
「私も鍛冶以外は興味ないから詳しくないけど、戦士だったら筋力が増えたりするよ。配信者をサブジョブにする理由はステータスにボーナスがつくからみたい」
ステータス? よく考えれば俺の画面には筋力とかそういったものは一切表示されてなかった。
「そもそも俺のマイページにはステータスが載ってないんだが、もしかしてメインジョブ配信者だけだとステータスにボーナスって乗らないのか?」
またまた顔に皺を寄せるドーコ。詳しくないことを質問をすると、皺が寄るのか……?
「うーんジョブが生産職しかない人には、筋力とかが表示されないって言うのは聞いたことがあるね。あっそうだ今フォロワーって何人いるの?」
「……2人」
ドーコがポンポンと俺の背中を優しく叩く。やめろ。優しさが辛い。
「まぁ来たばっかりみたいだしな仕方ないよ。」
まさかドーコに励まされる時が来るとは。なんだか少し悔しい。
「配信者のステータスボーナスが乗るのは、確か100フォロワーからだったと思うよ。もしかしたらその時にステータスが出るかもね。まぁ私的には、サブジョブに戦士を入れる事をお勧めするけど」
んー元の世界基準で言うなら100人が収益化ラインってことか。この世界の人口がどんなに多いかはわからないが、全世界で1000人しかいないってわけでもないだろうし、そこまで高いハードルでは無い気がする。しかし1から始めるとなると、結構難しいな。しかもドワーフの村からは、追放処分くらっちゃったし。
「そういえばサブジョブってどうやって設定するんだ?」
ドーコは呆れた顔をしてから俺と目線があって、そっかと自分で納得した様だ。そうそう俺にこの世界の常識はない!
「そんなこともって、まぁ仕方ないよね。ギルドに行けばジョブを選ぶことが出来るよ。でもドワーフのギルドには行けないし、いつかヒューマンの国に行った時にしか出来ないね」
出来ないねってそんな簡単に。当分の間はメインジョブ配信者だけか。
「まぁ私が知ってるのはこれぐらいかな。もっと詳しい話が聞きたかったら、やっぱりヒューマンの国に行くしかないだろうね」
「そうか……それにしても配信に詳しいな。どうしてだ? エルフが配信してないかなって言ってたけどそれにしては、色んなことを知ってるよな? ドワーフってあんまり配信見ないんだろ?」
一瞬間を置いてから
「言わなきゃダメ?」
ドーコは恥ずかしそうにモジモジしている。
「言いたくなかったら言わなくていいけどちょっと気になっただけだ。」
「……か……から」
「ん?」
ドーコは急にバンと机を叩いて吹っ切れたように
「寂しかったから!!!」
そう大声で言った。
あー確かに1人でずっと研究に打ち込むって言うのは、辛いものだろう。辺りにはマジックアイテムの試作品だらけの中、窓辺に花が1輪飾ってあるのも、そんな理由からだろう。そんな時に配信を見たくなる気持ちは分からなくもない。
「もー恥ずかしいこと言わせた代わりに、明日からマジックアイテム作りに協力してもらうんだからね!」
そう言ってドーコはゴクっと注いであったエールを飲み干す。
「どのみちそのつもりだよ。ドーコにはお世話になってるからな。今頃1人でヒューマンの国に行っていたら、のたれ死んでいたかも知れない」
ドーコはまた小さな体を手で覆い隠しながら
「酔ってるからって夜這いしないでよね!」
「だからしないってば!!!(この脳内ピンクめ)」
酔っているためか俺の意図には気付かずボディブローは放たれなかった。
明日も朝早そうだ。いいことを思いついた! 今度はドーコが起きるより早く起きてみよう。
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