その前に配信タイトルを変えておこう。配信のタイトルは重要だ。『ドワーフの村へ』でいいか。
いざドワーフの村の前に来たが、一体なんて説明すればいいんだろう。目が覚めたら森の中にいました? それとも異世界から来たって正直にいうべきか? 嘘をついて見破られるのも怖いし道に迷ったということにしよう。でもこの血塗れの兎は何て説明すればなんて考えていると、門の前についてしまった。
考えていなかったがそもそも言葉は通じるのだろうか?
「なんだお前、ここら辺では見ない顔だな。荷車も無いし行商人でもあるまい。高身長だが、立派な髭はしているな。だがドワーフではあるまい!」
門番らしき男がこちらに大きな槍を向けて尋ねてくる。体格は小さいが物凄く眉間に皺が寄っていて怖い。
「実は道に迷ってしまって……それで遠くから見つかったこの村でなんとか助けてもらえないかなーと、ほらこの兎も差し上げますので」
そう言ってさっき倒して兎を差し出す。
「おぉこりゃいい角兎じゃないか。しかも角が綺麗に残ってる。この兎を持ってるってことは、お前もしかしてあの森に入ったのか?」
今度は怪訝な顔をして尋ねてくる。ちゃんと会話が成立している。よかったーー!
「はい、もしかして何かまずかったですか?」
「まずいというかなんというかだな。あの森は危険な生物が多く生息していて、生半可な冒険者じゃ歯が立たないんだ。よく生きて帰れたな。流石は立派な髭を持ってるだけはある」
頭をポリポリと掻きながら、今度は感心したと言った顔でようやく構えていた槍を下ろしてくれた。そんなに何度も言われるほど、立派な髭を作った俺偉い!
それにしてもそんなに危険な森だったのか。他に生き物らしきものは見当たらなかったが、足早にあの森を抜けたのは正解だったかも知れない。
というかドワーフの村はそんな立地にありながら平気なのだろうか?
「お前の様な強い戦士なら本来は歓迎したいところなんだが、今村の長がそのー病を患っていてな。なかなか歓迎するというわけにも行かないんだ。村の宿に泊めるくらいなら、その角兎で十分賄えるが」
そういえばあの森について知っているこのドワーフならと思い、俺はポケットにしまっていた果物を取り出す。危険な森の木の実ならば、何かいい効果があるのかも知れない。それを取り出した途端、門番の顔色が変わった。
「お前、もしかしてその木の実『アギリゴ』か!?」
アギリゴ? そんなこと転生したばかりの俺が知るわけがなかったが、とりあえず説明することにした。
「この辺には初めて来たので知らないですが、あの森で手に入れた木の実です。毒があるかもと思い食べはしなかったのですが、いざと言う時の非常食用に取っておきました」
「ともかく早く来てくれ! 長の呪いが治るかも知れない」
説明途中だと言うのに、今度は真剣な顔で俺に村の中に連れて行こうとする。それにしてもコロコロ表情が変わるな。
これそんなに貴重な木の実だったのか。危険な魔物に会わなかった事といい、この木の実といい何やら神様に愛されている気がする。っという風に思うのはまだ現実感が湧いてきてないせいか。
俺の手を力強く引き、駆け足でドワーフの長の元へと向かう最中、いろんなドワーフが何事だと俺たちを見てくる。
「そうだ自己紹介がまだだったな。俺は代々この村の門番をしているドバンだ。メインジョブが戦士でサブジョブは鍛冶師だ。お前さんは?」
「丁寧にどうも、あーっと私の名前はえーっと」
走りながらだからなんて名前にしようか、上手く考えがまとまらない。えーっとドワーフとエルフのハーフだからんーっと、これ以上間を空けるのはまずい。
「私の名前はドワルフです。メインジョブ配信者でサブジョブはなしです。」
考えが上手くまとまらず、単純にドワーフとエルフを混ぜたものになってしまった。
「メインジョブ配信者でサブジョブなしだー!? まぁ細かいことは後で話そう。ほら着いたぞ」
どうやら名前ではなくジョブに違和感を覚えられたようだ。俺自身もそう思ってる。
着いた場所は遠くからでも目立っていた、大きな鍛冶場だった。他の鍛冶場より二回りほど大きい。
ドンドンドン
ドバンが激しくドアをノックする。
「奥さん! 早く開けてくれ! 長の呪いが治るかもしれん。アギリゴの実が手に入ったんだ!」
ドアが勢いよく開き
「本当かい!? ヒューマンが珍しく仕事を早くこなしたってのかい?」
そう言いながら出てきたのは小柄な女性だと思う。なぜ確信が持てないかというと髭が生えているからだ。奥さんとよばれてるし、この世界のドワーフは女性でも髭が生えるタイプのものらしい。
身振り手振りを交えながら、ドバンが説明する。
「違う違う、この立派な髭が生えた男が、急に門の前に来てあの森からたまたま取ってきたってんだ」
「なんだってあの森に!? それにたまたまってそんな、あらでも確かに立派な髭だね。じゃなくてそれより早く長に!」
そう言って長の寝室へと案内してもらった。そこにはゼェハァゼェハァと息苦しそうな呼吸で、今にも死んでしまいそうな小さな白い枯れ木のような老人がいた。
「長! 長! 見てくれアギリゴだ! これで長の呪いが治るんだ!今薬にするから……」
そこまで言って何故か言い淀んだ。
「まぁとにかく良くなるから待っていてくれ」
何かが引っかかる、そう言いながら、奥の調理場に手招きされたので着いていく。
ドバンはこの世の終わりだみたいな顔をしてから、手で顔を覆う。
「どうすればいいんだ! 鍛冶のことならいくらでもわかるっていうのに、薬に関してはさっぱり分からん! 奥さん知らないか?」
「確か赤ポーションとアギリゴを調合してどうとかって聞いたことがあったねぇ……。あーこんなことならギルドに頼んだ時にでも、調合方法を聞いておけばよかったわ」
奥さんも絶望の表情で嘆いている。
どうやらすり下ろして飲ませるだけではいけないそうだ。調合かーもしかしたら俺のスキルの【エルフの知恵】が役立つ時かも知れない。エルフって薬作ってそうだしな。
沈黙と重圧に耐えきれず言葉を発する。
「あのーすいません。もしかしたら私、調合できるかも」
言い終わる前に2人が
「「本当か(い)」」
一気に2人の視線が俺に集まる。
「いや本当に出来るかはやってみないと分からないですが、このまま待つよりかは幾分マシだと思います」
今度はまたドバンは落胆し、
「なんだ出来るか分からないのか。まぁ確かに、何もしないよりはマシだな。奥さん赤ポーションは?」
奥さんはドバンの発言に驚きの表情を浮かべながら、
「あるけど、本当にこの男に託すのかい?」
ポッとでの余所者に託すというのは怖いのだろう。
「奥さんにはこいつの立派な髭が見えていないのかい? それに貴重なアギリゴの実をスッとわたしてきた。こいつは信用のできる男だよ」
そう言ってドバンが俺の背中をバシバシ叩く。
「それもそうだね。あんまりにも動揺して私としたことが、うっかりしてしまったよ。よろしく頼むよアンタ!」
バシッと背中を叩かれる。信頼されるのは嬉しいが、それにしても髭だけで信頼されるとは。ドワーフ社会恐るべし。後バシバシ背中を叩くのはやめてほしい。
任されたからにはやってみるしかない。【エルフの知】だって使ったことが無いし、呪いとは言っていたが具体的にどういうものかもわからない。
それでもなんとかしようとアギリゴをすり下ろし、なんとなく頭に浮かんだ呪文のようなものをボソボソと唱えながら、赤ポーションとアギリゴを混ぜていく。ドッと体から力が抜けたと思った時、混ぜ合わせた物の色が赤から澄んだな無色に変わった。
成功か失敗かもわからないから2人の顔を見ると複雑な顔をしていた。
「おいおいもしかしてこりゃエリクサーか!? なんでこんなけったいなもんが出来ちまうんだ。もしかしてお前……」
エリクサーって言えばよくゲームで聞いた、あの超レアアイテムのエリクサーか? だとしたらなんでこんな複雑な顔を2人はしているのだろう。それにドバンの顔はより一層険しい顔になっていく。
「まぁまぁそんなことより、早く長の元に持っていくよ! あの人の辛い顔と痩せ細った体を見るだけで、こっちは悲しくて仕方ないんだからねぇ」
「そりゃそうだ。おい行くぞドワルフ」
バンと背中を叩かれて引っ張られていく。
それにしてもどうにも引っかかる。エリクサーが出来た事もそうだが、『けったいなもん』と表現された事だ。
エリクサーに驚く気持ちは分かるが、忌々しいものという感情がこもった言い方だった。そのことが引っかかったまま、長の元へと向かう。
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