vtuberに転生するはずが転生先は異世界でした

〜異世界で仲の悪い異種族を繋いで俺が配信王になってやる〜
酢ペクター
酢ペクター

10話 ドワーフの美意識

公開日時: 2021年5月31日(月) 20:35
文字数:3,121

 まだ日も暮れていないし、精神力が切れかけて少々疲れてはいるが、寝るには早い。鍛冶仕事でもしようかな?


「なぁドーコ。今って何時だ? 今日はもう休もうと思ったんだが、鍛冶の練習してもいいか?」


 ドーコはポケットを探り、簡素な作りの懐中時計を取り出す。


「3時14分だね。別に練習するのは良いけど、ここにある全素材を扱えるのに、今度は何をするつもりなの?」


「一つ気になった事があるんだ。ほらその懐中時計だってそうだし、ここにある装備って全部装飾がないだろ? だからその練習をしようかと思ってな」


「装飾ー? ヒューマンがよくやってるけど、そんなの付けたって装備の強さに関係ないじゃない! それにほら、この大斧みたいに鋭い刃の映り込みが、最も美しい装飾みたいなものだよ!」


 ドワーフは機能美にしか興味が無さそうだが、ヒューマンには装飾の需要はあるみたいだし、ヒューマン向けの装備で稼ぐなら装飾の一つくらいできておかないと。


 しかしこの家、家具の作りが簡素だと思っていたが、そもそも装飾に興味がなかったのか。どうやって装飾の素晴らしさをドーコに伝えようか。


「なぁヒューマンに貴族っていたりするか?」


「いるよ。あの偉そうで金ピカの装備をしてる人のことでしょ?」


 しめしめ……。


「装飾ができる様になると、冒険者だけじゃなくて、その貴族も装備を買ってくれる様になるぞ。そうすれば沢山のお金が俺たちの手に入る。そうなったら今すぐにでもエルフの元へ行って魔法を覚えられるぞ!」


 俺はそう熱弁したがドーコのウケは良くない。


「うーん……お金持ちになるのはいいけど、イマイチ魅力を感じないよ……」


「百聞は一見にしかずだ。ドーコその手に持ってる懐中時計借りてもいいか?」


「うん、まぁ良いけど……」


 とりあえず装飾ってやつを目の前で見せてやるのが早い。ん?


 ドワーフは装飾をしないということは、【ドワーフの神】のスキル外か?


 ドーコが訝しげにこっちをみてるし、大見栄切った手前やるしかない。


 幸い小さなノミも一応置いてあったので、道具は揃っている。蓋を取り外し一所懸命【ドワーフの神】に祈りを込めて掘り進めていく。


 ドワーフのイメージである鍛冶のハンマーと、剣の紋章を刻んでいく。そして最後にドーコの物という事で小さな花も刻む。上手くいくか不安だったが、【ドワーフの神】というだけあって、鍛冶仕事なら万能らしい。一作目ながら完璧と言って良いものができた。


 ふと顔を上げるとドーコが興味津々と目を大きくして覗き込んでいた。俺は集中していて全く気が付かなかったが。


「凄いね! ヒューマンの装飾を見たことはあったけど、ここまで細かいのは初めて見たよ! デザインもドワーフっぽくていいね! でもこの花はどうして入れたの?」


「ドーコの事を考えながら作ったからな。ドワーフの技術とドーコの可愛らしさっていうイメージだ」


 初めて来た時に膝枕されてた時の、ほのかな花の香りを反映した一品だ。


「それって……」


 ドーコが顔を赤らめる。ついつい装飾が終わったので、気が緩んでしまい可愛いと言ってしまった。あんまり言って、気持ち悪いと思われては最悪だ。だが、毎回怒るわけでもなく、顔を紅潮させるだけだしひょっとして脈ありなのか!? だがもう一歩を踏み出す勇気が俺にはない!!! 意気地なしとでも何でも言うがいい。今の心地よい関係を崩す事はしたくない!!


「そっそれでどうだ? ちょっとは装飾に興味は湧いたか?」


 どもってしまった……。


「うっうん。確かに興味出てきたかも! 私にもコツとか教えてよ!」


 ドーコもどもるのかよ!


「そうだなー。俺には【ドワーフの神】があったから出来たけど、ドーコに出来るかというと、分からないな」


 ドーコがガックリと肩を落とす。言い過ぎたかな……。


「そんな無責任なぁ……。【ドワーフの神】っていうなら、その教えを伝えるのもスキルに含まれてるんじゃないの?」


 確かに一理あるな。神とまで名前についているんだ。導く力があってもおかしくはない。


「それもそうだな。ドーコ作業を始めてみてくれないか? 教えられそうなら教えてみるよ。それにしても何に装飾を入れようかな」


 辺りを見渡す。最初は家具なんかに入れた方がいいか?


「この大斧が良い! 初めて出来たマジックアイテムなんだもん! それにあんな風にかっこいい装飾がついたら更に価値が上がりそう! もちろん売るつもりはないけどね!」


 いきなりついさっき出来たその大斧で初めての装飾を? 結構大胆だな。まぁ装飾に興味が出てきたようでよかった。


「よーし。ドワルフに負けないくらいすっごい装飾するんだからね!」




★   ★   ★




「ふーっ出来たーーー!!! ドワルフのいうと通りにしたら、今まで装飾なんて、やったことなかったのに簡単にできちゃったね!」


 初めてできた装飾にキャッキャとドーコがはしゃぐ。


「そうだな【ドワーフの神】様様だ」


 ドーコが大斧に施した装飾は機能美を損なわない様、気を使いつつも、全面に斬撃のイメージを取り入れた物になった。


「念のため使い心地が悪くなってないか試してみるね」


「そうだな。俺がしっかり見てたしおかしなことにはなってないと思うが」


 そう言って昼に試し切りした森へと向かう。


「それじゃあ今度はちゃんと一本だけ切る様に軽ーく軽く」


 ドーコがゆーっくりと大斧を振る。そんなんじゃ一本切ることすら


 ザザザシュッ! 物凄い音と共に木が薙ぎ倒されていく。あんなにゆっくり振ったにも威力が段違いだ。


「「え!?」」


 俺もドーコも一緒になって戸惑う。


「どうして? ドワルフもしかして私が装飾している間に魔法を込めたりしたの!?」


「そんなことできるわけないだろ。片時も目を離さなかったし、ちゃんと指示出してだろ! 何より俺の精神力はもう尽きかけなんだぞ」


「じゃじゃあこれはどういうこと!?」


「マジックアイテムはドーコの専門だろ。明日エマに聞いてみよう。もしかしたら何か知ってるかもしれない。あいつ暇そうだったし、きっとまた見にくるだろう」


 ドーコは一人で頭を抱え込む。急にマジックアイテムが強くなったんだ。仕方ないか。


「今からでも解明したいのにー! 仕方ないかぁ。私1人で今は考えておくよ」


 ようやく落ち着いたドーコと切った木を運んで明日に備える。気がつけば日が暮れている。人に物を教えるっていうのは難しいな。


 明日はまた宝石魔法の作業だ。精神力を使い果たしたらどうこうって言ってたな。精神力って寝て起きたら回復するものだったら良いんだが。念のため今日は早く寝よう。


「なぁドーコ。今日は宴会を無しにして早く寝ないか?」


 ドーコがショックで運んでいる木を落とし、その木が俺のつま先に直撃する。


「イッテェーーー!!!」


「えーーー!? 今日はマジックアイテムが出来た記念すべき日なんだよ!? それを祝わないなんてあり得ないよ!!!」


「俺はこの世界に来てからずっと宴会続きなんだぞ。1日くらい休肝日があったって」


 ドーコはまたまた小さな胸を張って堂々と宣言する。


「ドワーフに休肝日なんて言葉はない!」


「明日俺がぐったりで、宝石魔法出来なくても知らないからな!」


「うっ……でっでもそんなに急ぐ必要も無いしゆっくり作っていこうよ。エマさんも急がなくて良いって言ってたし!」


 そうは言ってもあまり人を待たせるのは気が引ける。でもドーコの長年の夢が叶ったんだ。仕方ない俺が折れるか。これ以上俺がゴネるとボディブローが飛んできそうだ。疲れてるんだ。眠るなら家に帰ってベッドの上でゆっくり眠りたい……こんな野っ原で昏倒は嫌だ。


「わかったわかった。じゃあ今日も飲もう! その代わりどうなっても知らないからな!!!」


  あぁスローライフどころか夜もゆっくり眠れそうにないんだが……。

・面白かった! 

・続きが気になる! 

・陰ながら応援してます!  

 と、少しでも思った方は、ブックマーク追加と下にある【☆☆☆☆☆】からポイント評価して頂けると、とても嬉しいです! 


 めちゃくちゃ執筆の励みになるので、お手数をお掛けしますが是非よろしくお願いします!


読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート