片倉青一
片倉青一
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ライトなSF作家。

ヒューマノイド限界オタク。さまよう百合くれおじさん。

既刊は『遊星ジャーナル』(幻冬舎)など。

活動報告

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活動報告2:片倉さんは語りたい『100年早すぎた未來のイヴ』

2020年11月1日(日) 20:23

 どうも片倉です。

 突然ですが問題です。

 

 Q. ヒューマノイドを描く上で避けては通れない偉大な作家ってリーラダン?

 A. オーギュスト・ヴィリエ・ド・リラダン

 

 『未來のイヴ』という小説をご存じでしょうか。

 劇場版の攻殻機動隊『イノセンス』の冒頭でも引用されていた作品です。

 Wikipedia 先生によると、歴史上初めて「アンドロイド」という言葉を用いた作品が未來のイヴなんだとか。

 

 未來のイヴを三行で超絶雑に紹介しますと

 1. 顔が最高で性格が最低な女に惚れた青年貴族エワルドが

 2. 硯学で知られるトマス・エディソン博士にクソ面倒くさい恋バナをして

 3. 最高の顔と最高の性格を持つ人造人間「ハダリー」を作ってもらい

 4. 地獄から哄笑を浴びる

 

 といった文学作品です。

 全部読むのはオススメしません。

 面倒くさい恋バナの長さたるや、僕の手元にある齋藤磯雄訳の文庫本450ページ余りのうち、250ページ以上を割いているという大変な面倒くささ。

 延々と「理想の女性とは」とか「高貴な魂とは」とか、そんな話が続きます。正直付き合いきれません。

 いやまあ……大事なんですけどね……この前半があるからこそ、ハダリーという存在やハダリーの言動に説得力が生まれるわけなんですけど……

 普通に読む分には、第五巻『ハダリー』だけ読んで、適当に想像で補完してしまえばいいと思います。

 

 歴史的仮名遣いに戸惑うかもしれませんが、これはノリと雰囲気で読めるようになります。大丈夫です。

 

 そんなわけで未來のイヴの第五巻『ハダリー』を読み進めていきましょう。

 リラダンの先見性に驚くと思います。

 その先見性たるや「もう自分が書かなくてもいいんじゃないかな???」と思ってしまいかねないレベル。

 

 問題:第1章『シティ・ダルムシュタットの花嫁人形』で引用した文、いつ書かれたでしょうか?

 答え:1886年……

 

 ……さすがに引きます。

 ヒトの似姿を科学が実装することは可能である。その心は、観測者が心の存在を信ずるか否かで存在するか否かが決まる。

 だなんてことを130年以上前に喝破していたわけです。変態か?

 

 他にも「未來のイヴ」には個人的にお気に入りなフレーズがいくつもあります。

 

> ああ! お目覚めにならないで! 亡ぼす以外に能のない、あの裏切者の「理性」が、ひそひそ聲(ごえ)でもうあなたに囁きかけてゐる口實(こうじつ)を楯に、わたくしを追ひ拂(はら)わないで。

 

 良いですよねぇ……(恍惚)

 要約すると「正気の沙汰で恋などできやしない」とかになりますが、言葉が選りすぐられていて言霊を感じます。まさに鏤骨の名訳。

 こういう文章が延々と続くので、読むと充実感に満たされつつ疲れます。

 

 

 さて。

 そんなリラダンも、一つだけ見通せなかったことがあったのではないかな、などと考えています。

 青年貴族エワルドが人造人形ハダリーを心の底からヒトと見間違えるシーンにて、リラダンは次のように描写しています。

 

> ――ねえ、おわかりになりませんの? わたくし、ハダリーですわ。

> この言葉を聞いて、靑年は地獄から罵られたやうな氣がした。

 

 なんでや!!!天国からの福音やろ!!!!!(ヒューマノイド限界オタク並の感想

 どうしてこの青年貴族エワルドとやらはこんなに面倒くさいのか???

 機能も心も等価ならそれはヒトに他ならないではありませんか???

 というかハダリーがヒトに擬態した何かだと知って、それを地獄から罵られたような気がしたって、ハダリーに失礼ではありませんか????

 あなたはヒトとミジンコ、どちらが高等な生物だとお思いですか????

 答え:ヒトもミジンコも等しく現代に至るまで生存している種である。

 

 エワルド「いやワイ、キリスト教徒やから……」

 

 宗教上の理由なら仕方ない。100年早すぎた。

 

 僕だったら、ここは迷わず「天国から福音を聞いたような気がした」と書きます。

 だって、ようやく人類は、人類以外の知的生命体と初めて出会ったことになるのですから。

 人類はおそらく、ヒューマノイドと共に生きるようになるでしょう。

 そういえばリラダンも『アクセル』という作品で次のように書いていたそうです。

 

> 生活? そんなことは召使どもに任せておけ

 

 これはまさに、『人形たちのサナトリウム』における人形たちを形容した言葉に他なりません。

 ヒトは人形に生活をアウトソーシングしています。

 あれ……リラダン、見通している……(本末転倒)

 

 

 本作『人形たちのサナトリウム』は、人類以外の知的生命体と人類が共生して久しい世界の一部を描いています。

 副題『オーナレス・ドールズ』とは、そんな世界の総称です。まだ一作目ですけど。

 いずれヒューマノイドが実現するとして、僕たち人類は、彼ら・彼女らに対する心構えはできているでしょうか?

 

 

※引用部はおおむね

Villiers de l'Isle-Adam (1886). L'Ève future.

(ヴィリエ・ド・リラダン. 齋藤磯雄 (訳) (1996). 未来のイヴ (第八版). 東京創元社)

に基づきます

 

 

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応援のお礼

 

 大変ありがたいことに、本作にも応援(投げ銭)を頂いております。

 現在のところノベリズムには応援に反応できる機能が無いので、この場を借りてお礼申し上げます。

 

・蜘蛛太朗 さん

・陸 理明 さん

 

 応援ありがとうございます。

 とても励みになります。

 昨日投稿した3章4話には裏方さんより素敵な挿絵を頂いておりますので、是非ともご覧ください。

 ……って陸さん!!!あなた契約作家じゃないですか!!!何やってんすか!!!!!

 ありがとうござい坐す!!!!!!

 

 

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ではまた来週。

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