「前畑がんばれ‼」
「前畑がんばれ‼」
「前畑がんばれ‼」
　100年以上前の話なので良く知らなかったのだが、1936年のベルリン・オリンピックにも前畑と言う日本人選手が出場していて、金メダルを取ったらしい。
　ともかく、俺は短文投稿型のSNSに、3回目の東京オリンピックでの水泳200mの中継を連続投稿していた。
　そして……。
　やったぞ、日本人選手の金メダル……。
「あの、何をやってるんですか？」
「えっ？」
「ちょっと、我々に同行していただきます。あと、その古臭いスマホの電源を落さないで下さい」
「ま……待て……あんたらも、俺と同じ日本人だろ？ 俺が、こんな事をしたい気持ちは……」
「理解出来ますが、日本人だろうが他の国の国民だろうが中継権を持っている報道機関に所属されていない場合は、大会規約に違反しています。同行をお願いします」
「だ……だから……その……」
「なお、事情を伺った後は、あなたの身柄を地元警察に引き渡す可能性が有ります。弁護士を呼ぶ事を推奨させていただきますが、そのスマホは証拠品として押収しますので、弁護士への連絡方法は御自分で考えて下さい」
「い……いや……だから……」
「同じ日本人として恥かしいですよ。何、愛国者ぶって、大会規約に違反する真似を平然とやってるんですか？ 日本人なら規則を守って下さい。ひょっとして、貴方、日本人のフリをしてる不逞外人ですか？」
　警備員は、無理矢理、俺を客席から立たせ……ああ、去年の夏と冬のボーナスを全額注ぎ込んで買ったチケットは無駄になり……いや、会社も馘になるんだろうなぁ……。
　でも……。
　東京で開催されてるのに、日本人には……少なくとも日本に住んでる日本人には……オリンピックの試合結果を知る事が出来るのは……いつになるのか……？
　オリンピックなどの大規模な国際スポーツ大会の放映権料の高騰……日本経済の凋落……そして、既存マスコミが国民の信頼を失なった事による収益低下……それが何十年も続いてきた。
　その結果、起きた事は、日本のマスコミは、どこも、3回目の東京オリンピックの放映権を買う事が出来ず……共同購入さえマスコミ各社の経営に重大な影響が出るほどの金が必要だったらしい……日本のマスコミは、どこも、オリンピックの中継も報道も出来なくなってしまったのだ。
　俺みたいな非マスコミ関係者が、こっそりSNSなんかで中継していても、警備員に摘発され続けていた。
　ああ……大多数の日本人が……日本代表の前畑の金メダルを知る事になるのは……一体全体、いつになるんだろうか？

前畑ガンバレ!!