『イヤだー。』

と、叫んで事務所を飛び出した外国人の大男。

「いまのは震度３くらい？」

「２・だって。」

ほかの同僚は地震の揺れなど気にもせず、
仕事をしながら震度の予想と答え合わせ。

いなくなった大男を無視して、
久々の地震に会話がはずんだ。

技術のおかげか、日頃の訓練のか、
これはここでの日常風景である。

大男は戦場帰りのな肉体をする
いかつい見た目だが、それにし
な性格で人当たりがいい。

それからひどく臆病者で、
ことあるごとに早退するので
経営者としては困ったものだが、があり、
憎めず、とにかく人気者でもあった。

『ウワーッ！』

が不安定になると、
雨にれてカミナリがする。

いわゆるゲリラだが、
これも大男にはえかったらしく、
のく最寄りの地下鉄で帰ってしまった。

「仕事ならここでできるのに。」

「あるからねえ。」

「地下鉄が停電するのは考えてないのか。」

どんなに大雨であっても、
たとえ大雪で閉じ込められても、
３ヶ月分の非常食は用意されているので
ここでの仕事に支障はない。が可能だ。

大男はなにかにつけてえてぎ、
なにかあればすぐ帰るのである。

ある日、電子音のが鳴り響く。

がミサイルを発射したので、
着弾の危険性を個別のに知らせる。

『もうオだー！』

大声で叫び、ミサイルのように飛び出す大男。

隣国からのミサイルも、
かれこれ10年以上続いている。
今月で２度目のミサイル早退。

戦争時に空襲を何度か受けたな経験は、
いまでもの中で一応伝えられている。

しかし隣国からのミサイルはといえば
現代の恒例行事としてしつつあって、
実感はどうにもかないものである。

大男のリアクションは、
むしろ見習うべきかもしれない。

とはいえ、あまりに大げさ過ぎて、
混乱をく場合もある。

『だヨ！
　みんな、どこ？』

と、火災に『』を求めて騒ぐので、
なにかと思い集まれば、喫煙所の灰皿で
消し忘れたタバコが煙を上げていただけだった。

コップ１杯の水で収まる程度のだ。

『、よくないよ。』

大男は自宅からそうメッセージを送った。

自宅からオンラインで仕事ができたなら、
そもそも事務所に出勤する必要もない。

しかしと状況のという建前で、
ここでは自由をい、する。
いわばのである。

『をもってしではあるが、
　考えることを辞め、になるのが、
　なんとも日本人らしいではありませんか。』

と、大男はどこかのを、
メールでな日本語にて語る。

しかし自宅に比べれ、事務所ならば仕事に対する
集中力が高まるなどの事例報告もある。

外国人である大男のも、
あながちではない。

単に自宅で仕事をしたいというと、
大男のな性格がしたに過ぎない。

そんな大男にも例外があった。

『これはコワイーデスね。』

事務所にあまり寄り付かない大男が、
猫なで声でネコをなでている。

「いーじゃなくて、可愛い、な。」

拾ったネコを事務所で飼い始めたのだが、
大男が世話係を買って出るほどだった。

『オフィス、ひとりぼっち、カワイーね。』

と、事務所に寝袋を持ち込み、まり込み始めた。

動物ひとつで人間は、
ずいぶんと変わるものである。

ネコは全身の黒い毛が赤土色混じりだったので、
クマのぬいぐるみに因んでテディと名付けられた。
ネコの割にはずんぐりとしている。

テディは大男と並ぶほどの人気者になった。
大男もテディを気に入り、をともにした。
もちろん事務所で。

こんな大男にと言われた日本人でも、
になることは、ひとつやふたつある。

まず食の安全や産地のはにれる。
生活がかされたもだからである。

特に恐ろしいのがクマだ。

「みゃぉ。」
と、鳴いたテディのことではない。

クマは本州から北海道にかけて広く生息する
ややな大型獣ではあるが、
子を守るために攻撃的になったときの
はまじい。

２ｍ近い巨体で車よりも早く走り、
を追いかけ、木にも登る。

人間が走って逃げてもわない。
話しかけたり、死んだふりをしても意味はない。
したらまず、しないことだ。

テディのように愛らしいぬいぐるみの
モデルにもなったクマだが、
毎年どこかで事故の報告があり、
な隣人には変わりない。

冬を前にクマは冬ごもりの準備をする。
しかし木の実などのエサが足りずに、
エサを求め市街地に降りてくることも多い。

帰宅時に車でしたという人もいて、
恐怖はほかの人にもした。

いつもであれば、のく逃げ出す大男。
しかし大男はクマと聞いてもえない。

普段どおりに仕事とおまけに買い出しを行い、
テディの世話をする大男に、ひとりがたずねた。

「クマは怖くはないのか？」

『は、、いる。』

「いねえよ。腹切りってなんだよ。
　情報アップデートしろ。」

『ＯＫ。いない。知ってる。
　でもはいるネー。
　テディ、これよ。』

話しかけられたネコのテディであるが、
大男の腕の中でうつらうつらとをぐ。

『、カミナリ、ミサイル、危ないよ。
　みんなアッ間に死んじゃう。』

大男の言う通り、これらのにすれば、
個人ではどうあってもぎようはない。
最悪の場合は即、オ。

テディを抱く大男は、
おぞましい笑顔を向ける。

『でもクマは、ヤクザと同じ。
　撃つとみんなコワイーする。平気。』

「こいつやべーな…。」

今日も事務所の構成員たちに親しまれる、
戦場帰りの大男であった。

（了）

ニッポン、怖い。