「せんぱーいっ、席替えしませんかー?」
いつも通りボランティア部の部室で適当な放課後を過ごしていると、突然千続がそう提案した。
「ほら、今席順こうなってるじゃないですかー」
「ちつづが入部してからなんとなくこの席順になってますけど、菊花せんぱいが下座になってるじゃないですか。1年生のちつづとしては、どうしても気を遣っちゃうわけですよ」
「うーん……。私は気にしないけどなぁ……」
笑顔の千続とは対照的に、いつもにこやかな菊花の顔がやけに強張っている。そんなに今の場所が気に入ってるのか。まぁ俺も、
「別に今のまんまでいいんじゃないか? めんどくさいし」
「あんたは何でもめんどくさいで片づけすぎ。あたしは賛成よ。いい加減こいつの腑抜けた顔も見飽きたわ」
前の席の羽衣がいつものように俺の言葉を否定してくる。生まれた時からの幼馴染だし今更気にしないけど。
「雫咲さんは? 唯一の3年が上座から離れるってのも変な話でしょ?」
「しーも席替えしたいかなー。3年とか部長とか気にする仲でもないしねー」
相変わらず眠そうな顔と口調でそう語る雫咲さん。これで賛成派と否定派は3対2。多数決で俺と菊花の意見は却下されることとなった。
「席替えするのはいいとして、どうやって決める? くじとか?」
「せっかくだしゲーム性をもたせましょうっ。名付けてドラフト席替えっ!」
千続が適当なプリントの裏に部室の簡単な図を描き、それぞれの席に番号を振っていく。
「まず希望の席を紙に書いて裏側にします。全員書き終わったところでオープン。希望の席が一人だった場合、その人は当選決定! 逆に被ってしまった場合、投票は無効になって二巡目に移ります。それを決まるまで繰り返す。どうです? おもしろそうでしょう?」
なるほど。くじのような運の要素はなく、希望の席を選べるってことか。いい暇つぶしにはなりそうだ。
「千続にしてはまぁまぁの案じゃない?」
「そうだね……。どこの席にしようかな」
「まぁまぁー、ゆっくり決めようよー」
「ちつづにしてはってどういう意味ですかっ」
他のみんなも乗り気のようだ。まぁみんな席なんてどこでもいいだろうし、ゲームっていうところに魅力を感じてるんだろうけど。
さーて、俺はどの席にしようかなー……。
――――――――――
みんな席なんてどこでもいいだろう。ボランティア部唯一の男子、棚葉がそうぼんやりと思っていたその時。四人の少女は全く別のことを考えていた。
(本当に千続にしてはいい案ね。初めてあんたを部に入れて正解だと思ったわ)
(ちぃっ! せっかく最高の席にいられてたのに……余計な真似を……!)
(この席順に満足してたのは菊花ちゃんだけ。こうなるのは必然だよねー)
(ちつづだけ強制最悪の席だなんて認められませんよっ! 下剋上のはじまりですっ!)
四人の思考。それはバラバラなようで、実は同じ。彼女たちの目的はただ一つ。
赤佐棚葉の隣の席に座ること。
そして。
赤佐棚葉と付き合うことにあった。
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