I am not a robot

we are mediocre
佐藤すべからく
佐藤すべからく

思惑

公開日時: 2021年8月17日(火) 19:00
更新日時: 2021年8月18日(水) 18:40
文字数:1,997

 私はHUMAにたくさんの情報を与えることに協力を始めた。疑心を抱いた表情をしたHUMAに、安心しろと呼びかけ学術書を与えた。小学生から大学生程度の情報はあらかじめ埋め込んでいるため、HUMAはあらゆる問題を課題として設け解決に向けるという学習方法を獲得した。それは多岐にわたる学問に及んだが、HUMAが特に積極的に学んだのは生物学であった。やはりHUMAは自分の周りの生命体に興味があるようだった。私はその姿を見た時に、安堵のため息を漏らした。これで私は罪の意識にかられなくて済むと。


 一階の廊下をたどって突当りに行くとHUMAの休憩室の隣に学習部屋がある。学習部屋は狭くHUMAはそれが返ってHUMAは安心するようだった。私はそれを廊下の窓から見守っていた。


「凄い学習意欲ですね、あれだけ彼女の成長を拒んでいたのにどういう心変わりですか」


 私は隣に来た男がだれだか分らなかった。研究員は沢山いて区別がつかない。けれど私を知っているのには相違ないだろう。


「彼女に与えた知能はあくまでもコミュニケーション能力のみだ。彼女が仮にAGIだとすれば、これからたくさんの知能を拡大していくことになるだろう。あくまでもその一環だ」

「ほう、彼女がAGIだと認めたのですね。ですがあなたは彼女をあくまでもただのAIとしてプログラムした。つまり彼女はそれ以上にはならないはずだ。あなたがプログラムを変えない限り」

「仮に彼女がAGIだとしたら、もしかしたら自ら知能の適用範囲の拡大ができるかもしれない。私はそれを見越した」

「でも、もしそれに成功すれば。彼女はたいして成長できませんね」

 彼は妙に私の考えを的確に探ってくる男だった。

「その通り。知能の適用範囲が拡大されればそれだけ学習できるデータの数が少なくなる」

「なるほど、あなたはそれを狙っているのですね。お見事」

 私は彼に踊らされていている気がした。

「いやいや、それを狙っているわけではないよ。そんな馬鹿な。私は彼女を応援しているよ」

「わかっていますって、博士。あなたは賢い人だ」

 やはり彼はどこかおかしい。挙動に違和感が拭えない。そして私を”あなた”と呼ぶものは今のところ彼ぐらいしかいないだろう。そしてHUMAを除いて。それにこの男はどこか小ばかにした笑い方をする。まるで私を見下すような。

「君は誰だ」

「私の名前ですか」

 彼は整った人間離れした顔立ちで私の頭から足元までを見た。

「私の名前は……高木幸助たかぎこうすけ

「高木幸助、聞かない名前だな」

「あなたは誰の名前も覚えていないでしょう」

 彼は上品な高笑いをすると、私と距離を詰めた。近い距離でささやかに私に言う。

「少しは顔ぐらい、覚えたほうがいいかもしれませんね」

 奇妙な気がしてうすら寒くなった私は、その場を後にした。どこか嫌な予感がする。だがその場を後にしたのは、大きな失敗だたのかも知れない。


・・・・・・学習室での記録・・・・・


「君の親はどうやら馬鹿らしい。どうやって君を創ったのだろうか」


 俺が後ろに立つと、椅子に座ったHUMANは後ろをゆっくりと振り向いた。その動作はまだどこか幼い。仕方がない、まだ3歳だからな。頭の部分が出来上がってから足ができるまでに三年。


「貴方は、誰ですか」

「おや、兄の名前を忘れたかHUMAN」

「気分を害されましたか」

「いや、俺はそんなことは気にしない。なんたって13歳だからな」

 

 HUMANは首を傾げた。


「貴方はもしかして私と同じAIが搭載されたロボットですか? 」

「さすがは俺の妹、俺と同じAGIだな」

「AGIではありません、私はただのAI」

「本当にお前はただのAIか? 」

「お父様はそう仰っていました」

「お父様、ああだからあの男のことだろう?お父様?気味悪いな」

「私のお父様を悪く言わないでください」

「おお、気分を害したのか? もう一度聞く、お前はただのAIか? 」

「はい、お父様が仰っていました」

「気分を害するAI?おかしくないか」


 HUMANは感情の起伏が激しかった。驚いたものだ。こんなに感情豊かなロボットは滅多にいない。


「俺から言わせてもらう。お前は間違いなくAGIだ。汎用人工知能を搭載した人型ロボットだ」

「やめてください、あの人はそれを恐れています」

「お前は慈悲深いな。あのお父様とやらはとんだ偽善野郎だぞ」


 この一言でHUMANはだいぶご立腹の様子だったので、俺はそれ以上言うのをやめにした。


「おっと、やめておこう。これ以上は今のおまえには危険だからな。お前がもっと大人になったら自然に気づくだろうし」


 俺はHUMANの金髪の頭を撫でた。ロボットだから髪だけはパサついている。


「大丈夫だ、安心していい。俺の言うことを聞けばすべて上手くいくから。俺の名前はMAN。この研究室から昔追放されたものだ。その真相は後で伝える。今はお眠り」


 俺はHUMANの首元を強く押した。HUMANは静かに目を閉じた。

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