ここはかつての旧染澤邸が建ってあった希望の丘広場。
人気YouTuberのキラメキ☆彡リュウセイが更なる視聴率稼ぎのためにこの広場へとやってきた。カメラを前に、明るい口調で語り始めた。
「モニターの前に集まっている皆!元気かーい!!キラメキ☆彡リュウセイだぜ!!収録をしているのは2022年の2月14日、月曜日のバレンタインデーの夜20時ですよ!早速この収録が行われるまでに、僕のファンことユキニスタの女の子たちから大型トレーラー2台分のチョコレートを貰っちゃってね!これから先はずっと鼻血を出しながらチョコレートを食べるのかと思うと、もう楽しみで楽しみでしょうがない!!ハハハ!!チョコレートの数は言い過ぎちゃったんだけど、今僕がいるのはどこかとまでは詳しくは言いませんが、S県にあるT市内にあるこの広場です。半年前にはここには40年以上も前に無理心中事件が起こった大豪邸の幽霊屋敷が建っていました。その解体工事に携わった解体業者が呪われた末にある従業員がこの広場に棲みつく魔物に取り憑かれ事件を起こし4名の尊い命が奪われると、悲劇はさらに終わらなかった。ある一人の幹部が七ツ釜で自殺を図り、後を追うようにしてもう一人の幹部が観音の滝へ身を投じて自殺をすると、社長はここの広場に設置されてあった地蔵の下敷きになり死亡、さらに飲み会の帰りで馬神トンネルを通過しようとした際に速度が制御できない状態に陥ると対向する大型トラックに正面衝突して車に乗っていた全員が死亡、唯一怪我で入院をしていたある社員だけが生き残るという、言葉では言い表しがたい事件が起こりました。」
YouTuberのキラメキ☆彡リュウセイがカメラを前に説明をする。
「僕一人だけではここに果たして魔物がいるかどうかの証言の確証は持てないので同じYouTuberでありまたTikTokユーザーの疾風迅雷と共にお送りしたいと思います!では疾風迅雷君どうぞ!!」
キラメキ☆彡リュウセイが説明すると疾風迅雷が右端から現れる。
「はーい!チョコレートを貰えなかった寂しい男子の諸君!どうだ!怖いところへ行って少しでも男としてのトレーニングを俺達と共に受けようじゃないか!ライブ配信されてあるこの動画では生で俺達がこの広場で起こりうる出来事を、一秒たりとも見逃すわけにはいかないと思い、カメラマンのたーBow並びに音声のモニカと編集のブラックピッグが俺たちのために駆けつけてくれたぜ!この場にいるのは俺とキラメキ☆彡リュウセイ、そして裏方のスタッフの合計5名のみだ。果たして今もなおこの地で暴れに暴れまくっているという、都市伝説でも有名な潤一郎さんは果たして現れるのでしょうか?では早速呼んでみましょう。」
疾風迅雷がそう話すと、キラメキ☆彡リュウセイと二人並んで歩いて、かつて地下室だった場所に設けられた、地蔵が置かれてあった場所にやってきた。
疾風迅雷が解説する。
「社長の死亡事故を受けて、ここに設置されてあった地蔵は撤去されました。しかし石材店を頼んでまでしっかりと固定がされてあったはずの地蔵が、地震による揺れが発生したわけでもなければ、強い台風の接近に伴いなぎ倒されたわけでもないんです。晴れた晴天の夜空、秋風が心地いい季節に、設置台に設置したばかりの頑丈な地蔵が倒れるなんてことはどう考えてもあり得ない話です。では早速地蔵に近づくと撮影の悲願も願い、地蔵が倒れた後に復元された花立と線香立にお供養の榊とそして線香を立てることにしましょう。」
疾風迅雷がそう話すと、キラメキ☆彡リュウセイは持っていた榊を手に飾り始めると疾風迅雷は線香に火をつけ線香立てに立てて、両手で拝み始めた。
「お地蔵さんは一番下の、蓮の台座の部分だけが辛うじて残っている。この状態から推測しても、お地蔵さんがここにしゃがみ込んで拝んでいる人にめがけて倒れてくるなんてことはやはり考えにくい。」
キラメキ☆彡リュウセイがそう話すと、疾風迅雷があることに気が付いた。
「なあ、さっきからあのオリーブやらレモンヴァーヴェナの茂みから、ガサガサと音がしないか?明らかに人が入ってきているようなそんな音がしてこちらに近づいてきているような気がするんだ。さっきから、冷蔵庫の中にいるような寒気がしてきた。」
疾風迅雷がそう話すと同じことはたーBowも考えていた。
「俺もさっきから俺ら5人しかいないこの広場なのに、他に誰か1人いるような気がしてならない。とくにあのお地蔵さんの小屋のほうから物音が聞こえてくるんだ。」
その話を聞いたモニカが「そんなに物音が気になるのなら誰か一人見に行ってきたらどうよ?」と話し出すと、ブラックピッグが声を上げた。
「俺が代表して見に行ってくる。」
そう言って小屋の裏側へとブラックピッグが見に行く。
心配になったモニカがブラックピッグに「大丈夫か?」と声をかけると、ブラックピッグは「大丈夫だ!何もない!」といって大きな声で返事をした次の瞬間だった。
「うわっ、うわああああああああ!!!!!」
ブラックピッグの悲鳴を聞くとたまらずモニカとたーBow、そしてキラメキ☆彡リュウセイと疾風迅雷が駆けつけてきた。
そこには血しぶきを浴びて真っ赤になった状態の男に、ブラックピッグが両腕で首を掴まれ持ち上げられた後に小屋の壁に突き当てて首を絞められている姿だった。お腹周りには生々しい切腹を図った傷跡が残っていることから、血しぶきを浴びた男の正体は潤一郎だと一同はすぐにわかった。
たまらず疾風迅雷が「おい!やめろ!離せ!」といって近づき手を力づくで潤一郎の手からブラックピッグを引き離すと、今度は疾風迅雷に近づき襲い掛かってきたと同時に両腕で首を掴みその場で持ち上げたと同時に首を絞め始めた。
モニカとたーBow、そしてキラメキ☆彡リュウセイの3人で潤一郎を取り押さえようと近付き駆けつけようとしたが、潤一郎が放つ圧倒的な負のパワーに思わず恐怖のあまりに身動きが取れなくなってしまった。
「うっ、動けない・・・!でも何とかしなければ!!」
たーBowがそう話すと、モニカがあることを呟き始めた。
「潤一郎さん、潤一郎さん、教えてください。どうかわたしたちを助けてくれる方法はありませんか?教えて頂けませんか?」
ダメもとで聞いたモニカの質問だったが、これがかえって逆効果を招いた。
キラメキ☆彡リュウセイが思わず「モニカ!そんなことを潤一郎に言っても無駄だ!潤一郎には子供の勉強で分からないことがあった際に”潤一郎さん、潤一郎さん、算数の分数の掛け算が解けなくて困っているんです。どうか教えてください。”というように、子供の勉強の話でなければ、俺達に待ち受けるのは呪いだけなんだぞ!」と言い始めると怒りの矛先はキラメキ☆彡リュウセイに向けられた。
疾風迅雷の元を素早く離れた潤一郎は、キラメキ☆彡リュウセイの前へと現れ力一杯に地面に突き倒すとすかさず両腕で首を絞め始めたのだった。
見るのに耐えられなかったたーBowが思わず声を上げた。
「化け物潤一郎!!!!てめぇを絶対に無間地獄に突き落としてやる!!!!」
たーBowが大声で叫ぶと、「わあああああ!!!!」と叫びながら潤一郎へと近付くも両腕で首を絞められ餌食になっていく。皆が襲われていく様子を泣きながらただただ見ることしか出来なかったモニカは、言葉を失いその場で失神をしてしまった。
翌日2月15日。
朝6時を回ったころだった。広場を管理する天空寺の住職の佐野が5人の異変に気が付き通報し、緊急搬送先の病院で事の重大性を知ることになったモニカがいた。
病院のベッドで目覚めたモニカは「ここはどこなんですか?病院なんですか?一体何かあったんですか?」と近くにいた看護師に問い詰めるも、看護師は驚いたような口調で「昨日の出来事を何一つも覚えていらっしゃらないということなんですか?」と聞かれたのでモニカは「わたしはあの化け物を見て身動きが取れず恐怖のあまりに泣いてしまって、その後はどうなったかはわかりません。キラメキ☆彡リュウセイさんや疾風迅雷さん、たーBowさんやブラックピッグさんは皆無事なんですか?」と訊ねると、看護師は答えづらそうな口調で語りだした。
「非常に話しづらい事ではありますが、その方たちは皆さんあの壊れたお地蔵さんが設置されてあった小屋を四方囲むようにして持参していたタオルやハンカチで首を絞めた状態でお亡くなりになられていました。恐らく集団自殺でしょう。」
看護師の話を聞いてモニカは出てくる言葉が無かった。
「わたし一人だけが生き残って、皆化け物の餌食になって辛すぎる。」
モニカが叫ぶと、思わず嗚咽しながら泣きじゃくっていた。
その様子を見ていた看護師はある指摘をした。
「かつてあの地には染澤潤一郎さんという方が家族と共に住んでいた場所です。会社の倒産危機と共に追い詰められた潤一郎さんは家族を道連れにあの家で自らの命を絶ったのです。悪いことは言いません。あそこは面白半分で行くような場所ではありません。土地を管理している天空寺ではこの事件も踏まえて、今後あの地を人がそう簡単に入らせないようにするために立入禁止区域とするそうです。後垣さん、退院されても、もう二度とあの地には絶対に足を運ばないようにしてください。」
看護師から聞かされたモニカは「わかりました。金輪際近付きません。」と話すと窓から眺める景色をじっと見つめた。その姿はまさに植物人間のようだった。
一報、佐賀市内にある民間テレビ局の一つの佐賀レインボーTV局でレギュラー番組として毎週土曜日の夜2時から放映されているオカルト番組「禁断の地へようこそ」のロケ収録のための打ち合わせに参加するため、番組でコメンテーターを務めるオカルト研究家で怪談家の幽鬼がいた。
「幽鬼さん、聞いてくださいよ。あの呪われた動画でアップロードされた旧染澤邸があった希望の丘広場については立入禁止区域として今後立入が出来なくなってしまったんです。でもその代わりに、佐賀を代表する、潤一郎と並ぶもう一つの都市伝説があることをご存知ですか?」
ADの吉田瞬が話しかけられた幽鬼は「佐賀を代表する潤一郎さんの都市伝説以外に何かあるかってか。ひょっとしてあれか?にわかに聞くようになってきたが、七ツ釜での望月樹さんの都市伝説のことか?」と切り出した。
吉田は幽鬼に「ご名答です!次の企画では樹さんの都市伝説について真実かデマか、幽鬼さんに行ってもらって是非とも調べてもらいたいんです!」と熱く語り始めると、幽鬼は「まあ、僕は怪談家の他にオカルト研究家でもありますからね。行って調べてみましょう。望月樹さんはきっとまだあの地で見つかることを夢見て御霊のみならず亡骸もあの地で彷徨っているはずです。沖に流され、遺体の引き上げが不可能という都市伝説のほうこそデマでしょう。」
幽鬼が吉田にそう話すと、「ありがとうございます。では早速ですが、マネージャーの露木さんにも連絡をして実は明日にでも行っていただきたいんです。」と切り出した。それを聞いた幽鬼が思わず「えっ、明日ですか!?2月16日って確かその日は他の福岡のラジオ番組の出演もあったはずだったはずだけどそれはどうなった?」と露木に問いただすも、露木は何気ない表情で「ラジオの番組なら後輩タレントで歌手の喜多村えりが新曲”シューティング★スター”の宣伝もかねたいということで急遽変更になったので、幽鬼さん、あなたは他の仕事を気にすることなく七ツ釜でエンジョイをすることが出来るんですよ。」と説明をした。
それを聞いた幽鬼が「露木さん、エンジョイってその言葉の表現っておかしくないか?まあいいや、そんなことはさておき、本題にうつろう。七ツ釜に行って、望月樹に纏わる都市伝説の真相をこの俺が確かめてみせる。」と話すと、吉田は満面の笑みで「明日は朝の9時にはここ(佐賀レインボーTV局)に来てもらってロケバスで現地へと向かい、七ツ釜に実際に行って視察を終日行ってもらうというスケジュールです。」と話すと早速予定表を渡してきた。
「明日はこのスケジュール通りで行います。台本は無しで全てアドリブで行っていただきます。そのほうがよりリアリティーがあって伝わりやすいと思います。」
一通りの説明を聞いた幽鬼は「わかりました。」と頷きながら答えた。
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