三人はとりあえずMIH学園──「メイド・イン・ヘブン学園」の学生服を見に来ていた。
「おお、懐かしいなァ。あのころとまったく変わってねェ」
「一〇〇年の歴史で一度も変更を加えられていないらしいですからね。最近だと、かわいいって理由で一般入試を受ける子も増えてるんですよ」
そうキャメルが説明したように、学生服は特徴的かつ「かわいい」ものだった。ルーシはもともと男子だったので男子制服に目が行ったが、この二人にいぶかられる前に視線を女子のほうへ向けた。
「でもよォ、すこし派手だよな。昔から思ってたけど」
「だからウケるんじゃない? 青いブレザーに赤いリボン。男子はスーツみたい」
MIHの制服はイギリスの学生服とよく似通っていた。イギリス──この世界においてはブリタニアと呼ばれる国から独立しただけあって、文化的にも強く影響されているのだろう。しかし、別に制服なんてどうだって良い。女子ものを着ることがはじめて……ではないし、たいして関心も湧かない。あえていえば、男子もののデザインは良いと感じるだけである。
「試着したら? ルーシちゃん」
「そうしましょうか」
関心のないものに関心を抱けという拷問。だがルーシは慣れている。意味不明な客に支離滅裂な服を着せされられて犯されていたときを考えれば、まだ身体が痛くならないだけマシともいえる。
と、いうわけで試着だ。
「……まさかあの悪夢みてェな経験が活きる日が来るとはな。一二か一三のオスガキのケツに粗末なもんぶち込みやがって。考えてみれば、オレはアイツらみてェなヤツらを殺してェから無法者になったのかもな?」
そんな小声な独り言をつぶやきつつ、ルーシは淡々と着替えていく。聞こえるわけのない、聴こえても意味のない愚痴。彼らでは解決できないし、当然ルーシにも解決できない、変えることのできない不朽の過去。だから愚痴。それだけなのだ。
「……鏡を撃ちたいくれェに似合っているな。やはり骨格が女になったのが効いているようだ」
こちらも小声。一五〇センチで女性的な骨格をした美少女が、子ども向けに作られ子ども向けに洗礼されていった服が似合わないはずがない。だからムカつくのだ。こんな身体にしやがったあのアホ天使が。
そして声を作り直すため、軽い咳払いをし、ルーシは愛らしい声で、
「着替え終わりました~。もう見せちゃって良いですか~?」
クールかつ天真爛漫な一面もある一〇歳の少女の役へ入り込む。
「良いぞ~」
ルーシはカーテンを開ける。
「おお……さすがオレの子だ。すげェ似合ってやがる」
「…………か、かわいい」
クールは演じることを念頭に置きつつ、素直な感想をいった。彼にロリータ・コンプレックス的な嗜好はないが、かわいい子どもを見てかわいいといわないほどひねくれているわけでもないので、そういっただけである。
たいしてキャメル。彼女は一瞬嫉妬の感情に自分が覆われたことを恥じた。相手は一〇歳の幼女で、尊敬する兄の娘で、自身の姪。そんな彼女が、あたかも天使のごとく美しく見え、女子として負けたような感覚に襲われたのだ。キャメルは一六歳。六年もの歳の離れている子に、そういった感情を抱いた自分をすこしばかり嫌いになった。
──クール、おめェは随分と素直なヤツだ。オレだってこんなガキ見りゃかわいいって称賛するだろうさ。
──キャメル、おまえもやはり子どもだな。だが心配することはない。オレの実年齢と性別の正体を知れば、きっと評価は一八〇度変わるだろうからな?
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