「……ッたく、世間知らずの嬢ちゃんの相手は疲れるぜ。考えてみりゃ、ああいうヤツは客として来なかったしな。純粋すぎるのも難儀なもんだ」
ルーシの煙草は二メニー五メント。日本円に換算して二五〇円ほど。一七〇〇年代末期にしては喫煙にうるさい国だが、それでも一箱の値段は安い。二一世紀ヨーロッパだったら、その一〇倍の値段でもおかしくはない。
だが、喫煙にたいする法律もできあがっているらしい。酒・煙草は一八歳未満が購入することはできない。その一方、一八歳になればマリファナは合法となる。また、エナジードリンクも一六歳以上でないと購入できないらしい。一八世紀にエナジードリンクがあること自体が不思議な話しだが、いつだかルーシがいったように、この国は「近未来異世界」だ。ある意味やりやすく、ある意味やりにくい。
そんなわけで、ルーシは屋外の喫煙所へ入る。雲ひとつない天気だ。これでゴスロリファッションを着せられていなければ、さらに世界のよさを体感できたかもしれない。
「……はァ。どこまでが本当のオレなんだか」
そうやって愚痴を漏らしていると、あたりにひとり女子がいることを確認する。明らかに一八歳以上ではない。一五~一六歳といったところか。
おおきな丸メガネをかけていて、身長は一六〇センチほど。顔立ちは悪くないが、よくもない。ただし不気味な雰囲気がねっとりと漂っている。まず近寄りたくない人間だ。
そんなわけで、声をかけることにした。尊厳を踏みにじられすぎてルーシもたいがいおかしくなっている。
「よォ、メンソールか?」
「……そうだけど」
「お……ワタシ、メンソールは吸ったことねェんだ。一本交換しようぜ」
「……良いけど」
「それとこれは友だちに」ルーシは三本彼女へ渡す。
「どうもありがとう」いまいち棒読みだ。
「じゃ、もらうぜ。……一ミリか?」
「そうだけど」
「喉のやられたおっさん以外吸わねェと思っていたが、ガキでも吸うんだな」
「ガキはお互い様だと思うけど」
無視し、
「しかし、一ミリのメンソールって、ただ爽快感があるだけだな。煙草の味がしねェ。よくこんなの吸っているな」
ルーシは勝手に文句をつける。
「……お子様にはわからないんじゃない?」
「そうかい……じゃあ、ワタシのやった煙草吸ってみろよ」
「……レギュラー?」
「ああ。王道だ」
彼女は恐る恐るといった感じで火をつける。
なんだ、結構ガキらしいところあるじゃねェか。
「…………ゲホゲホっ!? おえええ──!」
ルーシは嫌味な笑顔を浮かべ、
「これじゃどっちがお子様かわからねェな?」
唾を垂らしながら涙目になる彼女へいう。
「そ……んなこ……とな……い」
「無理するな。水飲んですっきりしろ」
ルーシは近くにあった自動販売機で水を買い、彼女へ渡す。彼女をそれを飲み干し、もはや意地になりながらタール一二ミリの煙草へ向き合う。
「最初はふかしても良いんだぞ? 徐々になれていくもんだからな」
「いや……絶対肺に入れる……」
結局、五分ほど彼女はもだえながら煙草を吸いきった。たいした根性である。
「すげェすげェ。じゃ、ワタシは行くが、最後にひとつ。名前は?」
「……メリット」
「ワタシはルーシだ。いつかまた会おう」
こうしてふたりの少女は出会いを果たした。
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