「よっしゃルーシ!! 適当に座れや!!」
「そうですね……」
けれど、興味が湧くのも事実。ルーシはそうやって目を輝かせる少女のちかくへ座る。
「こんにちは。ルーシ・レイノルズです」適当に声をかける。
「敬語なんて使わなくて良いよ~!! ワタシはパーラ!! 見ればわかると思うけど、猫と人間のハーフです!! すごいでしょこの耳!! なんか普通の人間より声が聞き取りやすいらしいんだ!! んでね、しっぽまで生えてるんだ!! まあこれは使わないんだけどね!!」
──担任より元気そうだ。元気なのは良いことだな。暗いヤツよか断然ましだ。
パーラ。金髪のロングヘアーで、背中全体が隠れるほどの長さだ。顔立ちは美しいというより愛らしい感じで、柔らかい表情や程よい香水とトリートメントの匂いで、見た目以上に愛らしい印象を受ける。身長は座っているのではっきりとはわからないが、おそらくルーシより低く、一四五センチといったところか。ただし肉付きは良いようだ。もっとも、ルーシ以上の絶壁だが。
「んでさ、ルーちゃんって呼んで良いかな!! ルーちゃんめっちゃかわいいし、なんかかっこいいし、なんかもう大好きだよ!! ワタシのことは好きに呼んで良いからね!! そうだ!! きょうの放課後カフェかカラオケ行こうよ!! 男の子と女の子どっち誘えば良い? やっぱ両方?」
「……そうだな、やはり男子は外して──」
「やはりって……!! めっちゃかっこいい!! 別にけなしてるんじゃないんだよ? なんかそういう言葉がすぐ出てくるのがかっこいいんだ!! やっぱルーちゃんは頭良さそうだね!! 勉強教えてよ!!」
「別に良いが……」
「ワタシ落第寸前なんだよね~! 獣人って頭良くて身体つきも良くて魔術も強いって思われがちだけど、なんかワタシそういうの苦手でさ~! 結構自分なりには努力してるつもりなんだけど、やっぱ頭の良い人に教わるのが一番かな~って!」
──わかった。コイツ、コミュニケーション障害だ。こちらの話しをまったく聞いていねェ。
コミュニケーション能力。それは、人間である以上、必ず必要になるスキルだ。
たとえば、相手の目を見て話せず、声もちいさく、相槌のひとつ打つのにも苦難するのもコミュニケーション能力が足りていないといえる。
だが、パーラのような子もそうだ。自分の話ししかできない。いや、気がついたら自分の話しに終始してしまう。そして、いままでもこういう連中を見てきたルーシは、対策方法をよく熟知している
しかし、その性格になるには気分を変えたい。
ルーシは立ち上がり、
「ごめん、トイレ行ってくる。すぐ戻るからさ、そのときに話しをしよう」
そんなことを伝える。
女子は基本他人との関わりを重視する。それは、原始時代からの決まりだ。男が狩りに行っている間、女は他の女や子どもを育てていたからだ。
だから、もしもついてこられたら面倒だとは感じる。なので、ルーシはあくまでも『会話は続けたいが、尿意が限界で、早足で行きたい』といった感じの態度で接した。
「わかった~。待ってるね!」
そんなわけでルーシは教室から出ていった。
「──なんだか懐かしいな。ああいうヤツは昔からいたもんだ。無下にしてやっても良いが……やはりオレは中身が男なんだな。二〇センチ砲さえついていればなァ……」
前世では男として放縦に振る舞っていたルーシは、このとき、この場にいても男である自分を捨てられていない。なにせ獣娘なんていままで見たこともなかったからだ。何気なく悶々とするような、好みの女を見つけたときとは違う、はじめて自分の意思で性行為をしたときのような感覚に襲われていた。
「だが……ないものを嘆いても仕方がねェ。女にだって快感を感じる部位は腐るほどある。いや、男以上かもな? ともかく、すこし煙草でも吸って落ち着こう」
ルーシはトイレに向かいつつ、ふと思う。
「……獣人ってことは、ニオイを感じ取る器官も強ェのか。猫とのハーフっていっていたしな。煙草はやめておこう」
意味がなくなった。このままトンボ返りしても良いのだが、ルーシはあえて女子トイレに入っていく。
「……なァ、尾行ってのが下手すぎねェか? ワタシはしたこともねェが、こんなにヘマやらかすこともねェはずだぜ?」
ルーシはわざとらしく嫌味な笑顔を浮かべ、振り返った。
そこには間抜けそうな面をした男女混同の連中が五人。ルーシは鼻でフッと笑う。
「まァ……そういわれて悔しいと思うんだったら、実力行使でワタシの顔を壊してみろよ」
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