金鷲の雷槌~もしも最強の無法者が銀髪碧眼美幼女になったら~

金!! 暴力!! SEX!! の無法者が銀髪碧眼幼女に……!?
ひがしやま
ひがしやま

第二九話 カラオケ開始

公開日時: 2022年4月21日(木) 06:47
文字数:3,169

 ルーシは私服に着替えていた。

 私服。女ものを着るのは屈辱だ。何度着ようが、過去の屈辱を思い出すからだ。


「……タトゥーが隠れて、暖かいヤツだな。となれば、これか」


 黒いジーンズに暗い青のチェスターコート。インナーは白のセーター。到底一〇歳児が着るような服装ではないのは確かである。


「たまには歩いていくか? いつも車で行っているしな」


 カラオケ店とルーシたちのオフィスはそこまで離れていない。最低限の護衛がいれば大丈夫だろう。


「護衛もいらねェか。どうせオレよか弱ェヤツだし」


 ルーシの護衛となれば、クールかポールモールくらいしか務まらない。そんなわけでルーシはオフィスから出ていく。


「いやー、空気がきれいだな。そこらへんに車が走っていて、そこらじゅうで煙草吸っているヤツがいるのに、シベリアみてェに空気がきれいだ」


 ロスト・エンジェルスの喫煙率は四〇パーセントほどらしい。時代を鑑みればかなり少ないほうだろう。しかし、前世に比べれば喫煙者は多い。なので副流煙が満遍なく広がっている。


「……お、強盗タタキに向いてそうだな。伝えておくか」


 あまりひと気のない場所に宝石店を見つけた。強盗してくださいとでもいいたいのだろう。


「なるほど。愉快愉快。しかしよく知らん街だ。カラオケが終わったら、アイツらにおすすめの飲み屋でも……よくよく考えたら、カラオケって日本発祥じゃねェか。本当になんでもありだな、ここ」


 そもそも学生におすすめの飲み屋──パブを聞くことが変な話しとは思っていないらしい。

 そして、歩き煙草はしない主義であるルーシは、カラオケ店の前で煙草を咥える。


「ま……バレても良いんだが」


 だいたい、パーラは獣人だ。ニオイには敏感だろう。メリットは喫煙者だからたいして気にしないと思うが、もうひとりの少女とアークはあまり良い顔をしないはずだ。


「どうしてもやめられん。もうクスリをやるつもりはないが、煙草だけはなァ」


 そんなことをつぶやいていると、ルーシは見慣れた者を見つける。


「よォ。アル中」


「……ルーシさん。一生のお願いです。あともう一本飲ませていただけないでしょうか?」


「おまえの一生は長そうだしなァ……。じゃ、あれだ。金渡すからオレたちの酒買ってこい。あとこれな」ルーシは携帯の画面で煙草を見せ、「おまけで飲んで良いからよ」


「ほ、ほんとうでしゅか!? い、い、いいますぐいきましゅ!!」


「ブリっているな。じゃ、用意スタート」


 ルーシから現金を受取ると、ヘーラーはまさしく全力疾走で酒を買いに行った。


「さーて、誰に電話かけるのがおもしれェかな?」


 アーク。パーラ。メリット。と、あとひとり。


 こういうときはルーレットだ。ルーシは空に向けて拳銃の弾を撃ち出した。


「空砲か。じゃ、パーラだな」


 ルーシはパーラへ電話をかけはじめる。あのおしゃべりな子だ。たぶん電話先でもうるさいだろう。

 というか、通報される前に店へ入ったほうが良い。住民に関心はなさそうだが。


 ──てか、なんで堂々と発泡してなにも反応ねェんだ? そんなに治安がワリィのか、それとも、銃弾ごときじゃ対処できるくらいの実力をみんな持っているのか


「ま……良いや。パーラへ電話だ」


『もしもし!! ルーちゃん!? いまめっちゃ盛り上がってるよ!! なんかね、メントちゃんは流行りの曲歌うんだけどめちゃ音痴で、メリットちゃんはうまいんだけどよくわかんない曲で、ワタシはアニソン歌ってるよ~!! あとね、なんでアークくん連れてきたの? 別にワタシアークくんくらい人畜無害な子だったら気にしないけど、アークくんなに喋っていいかわかんないみたいで、ずっと携帯見てるんだ~。だからルーちゃんいますぐ来れる?』


 怒涛の勢いで言葉を羅列された。だが、内容はわかりやすい。なのでルーシは淡々と返事をしていく。


「まず、ワタシは一〇歳だから、ちょっと仲いい女先輩に酒買ってきてもらっている。その先輩はもうじきくるから、そうしたらすぐ行く。酒、得意かい?」


『そもそも飲んだことない……』


「なら気分転換にもなるだろ。まずは軽いお酒から飲みな。ワタシたちはアーク以外全員女だから、別に気にする必要もない。アークはもう女と遊ぶのも嫌らしいからな。だからま、ちょっとだけ待て」


『わかった~! ルーちゃん待ってるね~!』


「あいよ」


 ──さて、あのアル中がどれくらいで買ってくるか……って、もう買ってきやがった。頭おかしい以外の言葉が出てこないな。


 ヘーラーは満面の笑みでこちらへやってきた。ビニール袋には大量の酒。度数が低く飲みやすいものから、ルーシ程度にならなければ飲めないような酒まで。ついでに煙草も買ってある。ルーシとメリット用だ。


「ご苦労。ほら、ウイスキー七〇〇ミリリットルだ。もう好きに飲め」


「よっしゃあ!! いまからイッキしますね!!」


「……おまえを更生させるのは、猫にプログラムを教えるようなもんだな。オレは一八歳で死んだが、おまえは人間年齢で二五なんだろ? 七歳年下からこんなこといわれて屈辱じゃねェのか?」


 ヘーラーは即座に地面へ嘔吐物をぶちまけた。いよいよ救いようのない生物である。


「えーと、よく聞いてなかったんですけれど、なにかいいました?」


「いや……もう良い。帰れ。これ以上飲んだら目に針ぶっ刺すからな?」


「えー、もっと飲みたいです!」


「……おまえ歯磨きサボったろ? しかも吐いたしな。口臭せェからしゃべるな。これ以上なにかしゃべったら、腹に穴開けるからな?」


「ルーシさんは優しいのでそんなことは──」


 ルーシの背中が光る。本気で殺されると感じたのか、ヘーラーは一目散に逃げていった。


「……もう一本吸ってからいこうか。まァ別に喫煙者だってバレても良いんだが、さすがにこの見た目で煙草はなァ」


 裏路地へ入り、ルーシは紫煙に巻かれる。

 そして、カラオケへと向かう。


「えーと、名義はパーラって子になっていると思います」


「わかりました。二〇室です」


「了解です」


 一〇歳程度の子どもがカラオケへ入れると思えなかったので、一応偽装身分証を用意していたが、それは杞憂に終わった。ルーシはパーラたちの部屋へ行く。


「ルーちゃん!! ようやく来た!!」


「ああ、またせたな。とりあえず、そちらの方との自己紹介だ」


 顔立ちは普通。いや、平均以上だろう。だが三白眼で目つきが悪い。髪色は緑。この国ではありふれた髪色だ。髪の長さはショート。一番のポイントは、パーラの同級生ということは一六歳か一七さいなのに、胸を強調するためにできているようなセーターを着ていても、そこへはなにもないことだ。


「はじめまして。ルーシ・レイノルズと申します。今回はこのような突発的な集まりへ参加いただきありがとうございます。お名前はメントさんであってますよね?」


「……気に入らねえ」


「はい?」


「おまえ、ランクAだろ? 一〇歳でランクAとか聞いたことねえ。どんなトリックを使ったんだ?」


 ルーシは鼻で笑い、

「そうですね……。実際に闘ってみればわかると思いますよ?」

 余裕たっぷりの笑顔を見せる。


「ならいますぐだ。アタシの上に立つヤツが、アタシより弱えことは許されねえ」


「それも良いですが……パーラ、メリット、アーク。どう思う?」


 パーラはあたふたと慌てていた。一触即発の雰囲気だ。無理もない。

 メリットは楽しげな顔をしていた。こちらのスキルを知りたいのだろう。

 アークは表情筋を失っていた。どうやらこちらの話しも聞いていないらしい。


「……学校に模擬戦用の地下室がある。いますぐ行くぞ」


「怖いですねェ。不良みたいじゃないですか」


「いいや……単純に強いかどうかを確認したいだけさ」


「そうですか……。三人とも、酒買っておいた。飲んで待っていろ。メリット、ほら」


「ちゃんと一ミリ買ってきた。どうも」


「気にするな。さて……。行きましょうか、メントさん」

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