随分と激務だ、とルーシ・スターリングは思う。
午前九時から午後四時までは高校生。午後五時から午前八時まではマフィアのボス。ルーシは二週間に一回、三〇時間程度寝るという生活──要するに、寝ている時間がとてつもなくすくないので、ある意味激務のほうがあっているのかもしれない。
「幹部会でも開くか。だがなァ……雅のアホが日和ると、オレたちはなにもできねェかもしれない」
パソコンやスマホへ次々と送られてくる報告を認可したり拒絶していれば、一日など一瞬で過ぎる。
「……あーあ、寝みィな。そういやもう二週間くらい経ったか」
ルーシは一応夜になると睡眠薬を飲んでいる。当然規定容量など守っていない。過剰摂取で胃洗浄の可能性があるものを二〇〇錠。二〇~三〇錠摂取で死に至るらしい眠剤を一〇〇錠。合わせて三〇〇錠をも薬を飲んでいるわけだが、まるで眠くならない。味のしないラムネのようなものである。
しかし、きょうは違った。
「クールに連絡を……いや、アイツは一日中寝ているからな。ポールへ連絡しておくか」
自然な眠気だ。……いや、強迫的な眠気である。さすがに寝なければ死んでしまうという一種の脅しをかけられているような、そんな眠さだ。
「もしもし、ポール」
『なんだ?』
「ワタシに護衛よこせ。三〇時間ワタシの警護をするヤツが必要だ」
『ああ、寝るのか。パラノイアさんよ』
「しゃーねェだろ。人間恐怖があるから一生懸命生きられるんだよ」
『アニキを見習うべきだと思うぜ? あの人は鍵すらかけず一日一五時間寝るからな』
「うらやましいかぎりだ……。と、いうわけで派遣よろしく」
ルーシは電話を切り、ベッドへ横たわる。
「……こういうときに限って邪魔が入るんだよな。あのメンヘラは寝ているのか?」
もはやゴミ捨て場よりもニオイがひどいことに定評のある、天使の部屋の監視カメラをルーシは携帯で見る。
「寝ているな。うわ、コバエだらけだ。当然のように嘔吐物が部屋中に転がってやがる。……哀れだな」
当人は自分のことを哀れだとはさほど思っていなさそうなので、ルーシはカメラを切る。
「他の邪魔は……アイツらか。だが家を教えていない以上、どんなに鬼電してこようとここへたどり着くことはできねェはずだ。来られても面倒だしな」
パーラ・メント・メリットの三人とは、すくなくともあさってまで会わないだろう。いまは夜の一〇時。これからおよそ三〇時間なので、あしたは確実に学校へは行かないことが決定している。
「あとの懸念は……やはりスターリング工業だな。クール・ファミリーとサクラ・ファミリーを傘下に抑えているオレへ挑むバカもそうはいねェだろうが……万が一ってのもある。クールとポール、峰に期待するしかねェな」
最後は部下に頼るしかない。彼らだって失職したくない……いや、死にたくないはずだ。ならば必死になって生き残るを図るはずである。
「と、いうわけでさようなら。我が世界」
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