金鷲の雷槌~もしも最強の無法者が銀髪碧眼美幼女になったら~

金!! 暴力!! SEX!! の無法者が銀髪碧眼幼女に……!?
ひがしやま
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第一七話 二五歳天使の高校入学

公開日時: 2022年4月15日(金) 01:53
文字数:4,159

「なァ、ヘーラーはどうすんの?」


 クールがいったように、ルーシにはヘーラーという存在がいる。天界、とやらから降りてきた使。スタイル抜群で顔もよく、この国ロスト・エンジェルスの女性平均身長一六七センチを上回る一七〇センチ以上の背丈をほこる、スペックだけはモデルか女優にでもなれそうな女である。


「……そうだったな。あのアル中、ポールとおまえの部下が記念に持ってきた酒類全部飲みやがった。越してきて一週間だぞ? どう考えても三ヶ月は持つ酒を一週間で飲んで、いまだに寝てやがる」


「最低な女だな。別に男を立てろともいわねェし、たまには羽目を外すのも悪くねェけど、アイツはそもそも人間として終わってやがる」


「アニキ、ルーシ、どうやってアイツを起こす? 正直小便臭いし獣臭いし近づくだけでキスされて吐きそうになるし……やっぱりMIHへ入れるのはやめときますか?」


「そうだな……」


「いや、ワタシに良い案がある」


がそういうんならやってみろよ。オレら上で待ってるわ」


「りょーかい」


 ルーシは下へ降りていく。この家の構造は地上にある一階と地下一階、地下二階だ。すこし他人には見せられない仕事用の部屋が近二階であるため、ルーシは一階、ヘーラーは地下一階で生活している。ルーシも極力汚物なんて見たくないので、下の階へ降りるのは三日ぶりである。


「……さて。汚ねェヤツを起こすフェーズだ。つか、この部屋全体が臭せェ。煙草吸っている上より臭せェってどうなっているんだ? 小便とクソも漏らしているんじゃないか?」


 ルーシは女性用のスーツを着ている。スーツの色は黒で、インナーは紫。下はパンツとなっており、ハイヒールの歩きづらい感覚にも慣れてきたところだ。

 また、この格好の素晴らしいところは、男のように拳銃をシャツとパンツの間に挟めることである。

 ルーシは拳銃を取り出す。ロスト・エンジェルス、通称「LA」でもトップクラスの性能と値段を誇るハンドガンだが、結局用途はあまり変わらない。

 そして、ルーシはなんの躊躇もなくヘーラーの腕へ銃弾を放った。


 あられもなくいびきをかき、心底幸せそうに四リットルウイスキーを抱えて眠るヘーラー。だが、それから一秒後に、彼女は悲鳴を上げる。


「いってえ!? な、な、な、なんでこんなことするんですかルーシさん!? ワタシは天使ですよ?」


「天使なら天使らしく振る舞え。そしては無神論者だ。さらにおまえを天使と思うヤツなんてひとりもいない。わかったら歯みがきして風呂入れ。おまえ何週間歯磨きとシャワーあびていねェんだ?」


「だ、だいたい二週間くらい?」


「やはりもう一発喰らっとくか?」


「いやだー!! 再生できても痛いものは痛いんです!! すぐ入りますので少々お待ちを!!」


「……そうだよな。殴っても撃っても解決しねェ。だが、一応おまえは若い女だ。オレも女になってからすこし思うようになったが、やはり男どもがこちらを二度見する感覚が快感であり苦痛でもある。やっていたころも男女問わずこちらを見られ、ケツの穴に粗末なもんをゴムもせずに挿れられたもんだ。そのあとはひでェ下痢になってな……ああ、話しがそれた。オレがいいてェことわかったか?」


 ヘーラーは頭をかしげ、きょとんとした目つきだった。ルーシは気にせず会話を続ける。


「正直、オレはおまえが大嫌いだ。人生で一番の恥辱を繰り返すかのような姿にしたおまえを、できれば殺してェと思っている。まだ試したことない拷問でな。だが、同時にオレをこの街へ転移させてくれた恩人でもある。そこで妥協案を考えた。聞け」


「なんですか?」


「……ああ、歯磨きだけしてこい。ゲロの臭いでこっちまで吐きそうだ」


 これはルーシなりの優しさである。正直、二五歳の女性に口臭がひどいと指摘できる人間がどれほどいるか。たとえ親友であろうとも、何十年と付き合いがあろうとも、、「口臭」と「体臭」はなかなか咎めて改善する方針へ持っていけないからだ。


「て、て、天使は口臭くないって何度いえば──!!」


「あのな、オレも天界なんて詳しくは知らねェし、きっとこっちの常識が通用しねェのはわかる。しかし、ベッドの汚れみればわかるぞ。寝ゲロしたんだろ? 酒をいままでろくに飲んだことねェんなら、そういうミスをしてしまうのは仕方ない。オレだってガキのころはそうだった。だが、現実として数メートル離れていても臭せェんだぞ? おまえ、ポンコツ以前に病気なんじゃねェか?」


「そ、それは……」


「とにかく、病気だとしてもなんだとしても、一分で良いんだ。ちょっと黄ばんでいる歯をきれいにしてこい」


 ルーシはわかりやすく、そして冷静に、現実を伝える。実際問題、臭いものは臭い。小便が臭いように、大便が臭いように。匂いは人……いや、天界人の印象をも一八〇度変えてしまうのだ。

 ヘーラーはすこし涙目になりながら洗面所へ向かっていた。ルーシはひとりでつぶやく。


「最初はただのアホだと思っていた。幼女にされたとき、殺意しかなかった。たかが人間であるオレへぼこぼこにされたとき、心底哀れに思った。同情はソイツを狂わせるのにな。酒におぼれているとき、昔のオレを思い出した。このままだとクスリに手を出すことも覚悟しなくてはいけなかった。だが……こんな捨てられるだけ生ゴミのほうがマシなヤツでも、ロスト・エンジェルスに転移させてもらったことは感謝しなきゃならねェ。だったらどう恩を返す? ……決まっているよな?」


 ルーシは義理堅い。狂っているように見えて、いや、実際狂っているのだが、なにかをもらったらなにかをお礼にわたすように、ルーシはしっかり彼女への礼節を考えていた。

 そう、彼なりのお礼を。


「ルーシさぁん……きれいにしてきました……歯磨きってマジめんどい……」


「ご苦労。さて、この汚ねェ部屋にオレがわざわざ来た理由、わかるか?」


「……さあ。死んでいるか心配になったとか?」


「おまえは酒くらいじゃ死なねェよ。そんなことはわかりきった話しだ。オレはおまえを更生させに来たんだ」


「更生?」


「そう。頭はワリィ、シャワーは浴びねェ、歯磨きもしない、酒におぼれて仕事もしない。これじゃダメ人間とかわりがない。オレの知っているダメ人間よりダメなヤツだ。だから、おまえの道は決まっている。隠す必要もねェからいうが、おまえは学校へ入れ」


 ヘーラーは言葉の意味を一瞬考えているようだった。おそらく、なにをいっているのか理解しきれていないのだろう。彼女の年齢は二五歳。二五歳相応の老け方というのもおかしいが、すくなくとも学生服を着て高校生ごっこを楽しむほど肌も潤っていないし、体型にも限界がある。

 そして、ヘーラーは一瞬の途切れを遮り、いう。


「……なにいっているんでしゅか? ワタシはこの家でお酒が飲めれば満足だし──」


「わかってねェな」ルーシは呆れ気味に、「酒買うのにだって金がいるんだよ。今回はクールの子分が持ってきたから良いが、オレは自分の分しか買わねェし、余ってもおまえにはあげねェぞ? だが、学校に行ってしっかり生活するんなら小遣いもやるし、それをどう使おうがおまえの自由だ。まァ、天界人には金って概念はないのかもしれないが、言葉くらい聞いたことあるだろ? それをやるかわりに学校行けって話しだ」


 正直、なんで年上に小遣いを渡さなくてはならないんだ、という話しではある。ルーシの現年齢は九歳か一〇歳。実年齢一八歳。たいしてヘーラーは自分で話したように二五歳。女から金をもらったことはあっても、金を渡したことのないルーシからすれば、はじめての経験に加えて年上へ酒代を渡すという意味不明なことを経験することになる。

 しかし、それ以外にヘーラーがまともになる方法はない。これはルーシなりの恩返しなのだ。


「……ま、仮におまえがオレを男のまま転移させていたら、普通に小遣いをやっていたかもしれねェ。だがおまえはオレを銀髪碧眼幼女の姿で転移させやがった。だから妥協だ。条件付きで金はくれてやる。わかったな?」


「えー……。ワタシもう二五歳だし、高校生っていうのもよくわからないし、学校にいたらお酒飲めないんですよね? ルーシさんはなんだかんだ優しいからワタシにお小遣いくれると思うしなぁ……」


「次、どこ撃たれたい?」


「あ、あ、あ……わかりました‼ きょうからワタシは高校生です‼ だからもう撃たないで!!」


 迫真である。そんなに痛いのだろうか。


「納得してくれてなによりだ。オレは裏金入学で入学するが、おまえは一般入試だな。人間の世界の試験くらい楽勝だろ? 別に学校へいる分にはオレも文句つけねェ。そっからの生活は自由だ。ま、酒飲める機会は減るがな」


 ヘーラーは「うー……」とうねる。そんなに酒が飲みたいのか。


「わかったな? じゃ、シャワー浴びて上に来い。体臭は大事だからな」


 そういい、ルーシはようやく上の階へ上がっていく。


「よォ、説得できたのか?」クールは怪訝そうな顔だ。


「まァな。渋々といった感じだが、やはり酒が飲めないというのがひびくらしい」


「よくわからんな。なにかを成し遂げたときに飲むからうまいのであって、普段から浸かっていたら楽しみも消えるだろうに」ポールモールは正論を述べる。


「アイツはすこし違うんだよ。なにかに依存していねェと心が粉々になるんだ。たぶんな」


「一応姉妹だもんな?」クールは嫌味をいう。


「ああ……アイツの弱さはよくわかる。ワタシもそうだったからな」


 ルーシの昔とは、酒と煙草とクスリだ。ヘーラーと比べれば悲壮感こそ違えど、なにかに依存していないと苦しくて仕方がないという気持ちはわかる。ヘーラーもおそらくは天界人という人間界とは違う世界で暮らしてきたと考えれば、この淀んだ人間の世界へ来てストレスが溜まっているのだろうと。


「だが、学校に入ればすこし変わってくるだろ? ワタシもろくに学校なんて行った記憶ないし、年齢だって離れているが、なにかに属していればわかることもあるはずだ。裏じゃスターリング工業のCEO。表じゃ学生。素晴らしいじゃないか」


「だな……」クールはニヤッと笑う。


「ま、ヘーラーがしっかりシャワーを終えるまですこし時間が空く。ちょっとこれからのスターリング工業について話し合おう」

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