「あー……」
ルーシは目を覚ます。こんなにも熟睡できたのはいつ以来だろうか。おそらく小学生のころまで遡るのではないか。
「ここがロスト・エンジェルスか? 随分発展している。二一世紀日本よりも発展しているかもな」
寝ぼけ眼のまま、とりあえずルーシは街を歩く。まずは金だ。当然、ルーシは一円も持っていない。金こそ正義である以上、行うべきことは決まっている。
それにしても、随分と身長の高い連中が多い。ルーシの身長は一八〇センチほどだが、男女問わず背丈が二メートルを超えているように見える。巨人国家なのだろう、とルーシは深く考えない。
「よォ! そこのかわいい嬢ちゃん!! オレたちと良いことしね?」
あの空間にどれほど滞在していたのかはわからないが、おそらく髪も伸び切っているのだろう。しかもルーシは中性的で整った顔立ちをしている。女に間違えられても不思議な話しでもない。
「ああ……。そうだな」
男は三人。ルーシはなんら躊躇なく、リーダー格と思われる男の首を掴み、締め上げた。
情けない声が聞こえる。根性のないヤツだ。
「よォ、良いことか。良いことはみんなで分け合うべきだと思うんだ。友情の輪を大事にしねェとな。いいてェことわかるか?」
「しら……ねェよ……!!」
三対一。常人ならば逃げるべきだが、ルーシに関してはそういった考えは生じない。なぜならば……。
「つ、翼ッ!?」
黒い鷲の翼のような、妙な現象がルーシの背中に沸き立つ。ロシアの国章にも使われる黒鷲の翼。そして当然、ただの見せかけではない。
刹那、羽が男ふたりの腹部を貫いた。もはや声にもならない声をあげるふたり。ルーシはふっ、と笑い、首を掴んでいた男を離す。
「詫び金出せ。てめェらの所為で服が汚れちまった」
「は、はいッ!! 申し訳ありませんでしたッ!!」
ルーシの手元に現金が渡される。通貨名は……メニー? 価値はわからないが、一〇〇メニーが最高額である以上、ユーロや米ドルと同程度の価値──一メニーが一〇〇円といったところだろう。
「よっしゃ、さっさと病院でも行け。死にたくねェだろ?」
さっさと煙草が吸いたい。一日四〇本紫煙に囲まれているルーシからすれば、彼らからほのかに感じる煙草の匂いすらうらやましい。なので、ルーシはその場からとっとと立ち去った。
*
手頃な売店を見つけ、ルーシは速攻でコーラとホットドックを手に持ち、カウンターへと向かう。
盗んでも良いのだが、金があるのならば使わない手もない。
資本主義社会の信仰者であるルーシは、一〇メニー札を差し出し、
「一五七番ください」
至って普通の喫煙者らしいことをいう。
しかし、店員は怪訝そうな顔をして、ルーシへいう。
「嬢ちゃん……まだ九か一〇歳だろ? 煙草なんてやめときな。良いことないぜ?」
「……あ? オレが九か一〇のガキに見えるってこと?」
ルーシは近くにあった鏡を見る。そこへは、銀髪の美しい少女がいた──。
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