悪役令嬢の怠惰な溜め息

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(4)やっぱり傍迷惑

公開日時: 2021年5月7日(金) 23:55
文字数:1,822

グラディクト達はローダスと分かれてから事務係官の詰め所に赴き、首尾良く必要な枚数の紙を手に入れた。そして統計学資料室で早速書き始めたが、確かに書く文章は少ないものの、当初思っていた程は書き進められなかった。

 その翌日。グラディクトは放課後になると側付きの三人を統計学資料室に誘導し、一連の出来事を語って聞かせた上で、当然の如く命じた。


「今、話した通り、これを印刷するには時間がかかるし、そもそも印刷する程の物でも無い。私達が昨日のうちに既に何枚か書いているが、お前達も分担してここにある用紙全てに、この見本の内容を書き写せ」

「宜しくお願いします!」

「…………」

 しかし説明を受けても、目の前の大きな机の上にある用紙やペン、インク壺などを微動だにせず無言で眺めている側付き達を、グラディクトが苛立ったようにした。


「どうした。さっさと書き写さないか」

「……分かりました」

「ほら、やるぞ」

「ああ」

 三人が憮然としながら手を伸ばし、紙やペンを引き寄せたところで、グラディクトから有無を言わせない口調で注意される。


「言っておくが、他人の目に触れる文書だから、綺麗な字で書くんだぞ? 読めないような悪筆など論外だ。もしそんな物を見つけたら、書き直しさせるからな」

「……そうでございますか」

「じゃあ皆さん、頑張りましょうね!」

「…………」

 ひたすら能天気なアリステアのかけ声に、側付き達は神経を逆撫でされながらも、文句などは言わず黙って作業に取りかかった。それを見たグラディクトとアリステアも、机を囲んで書き写し始める。

 しかし少しして沈黙に耐えきれなくなったアリステアが、書き終えた用紙を纏めてある所に重ねながら、明るく声を発した。


「やっぱり、五人で書くと早いですよね!」

「ああ、そうだな。だいぶ枚数も揃ったし、ここで内容に漏れがないか確認しておくか」

 この間に五人が書いて積み重ねておいた用紙の山を引き寄せ、グラディクトがそれに目を通し始めたが、すぐに何枚かの用紙をより分けて、憤慨した声を上げた。


「何だこれは……」

「え? グラディクト様、どうかしたんですか?」

 いきなり聞こえた不穏な声に、アリステアは怪訝な顔になって手を止めたが、同様に何事かと自分に視線を向けてきた側付き達を、グラディクトは叱りつけた。


「貴様ら、たるんでいるぞ! 何だ、この判別しがたいにも程がある、汚い字は! 私を馬鹿にしているのか!?」

「どれの事でしょう?」

 中の一人が心外そうに問い返した為、グラディクトはより分けた用紙を、彼の目の前に突き出した。


「しらばっくれるな! これもこれも、このより分けた分、全部だ! さっさと事務係官から書き直しに必要な紙を貰って来い!」

「…………」

 その内容を確認した側付きは、無表情で目を細めただけだったが、横からそれを覗き込んだ他の者は、明らかに馬鹿にした口調で言い返そうとした。


「はぁ? 何言ってんだ。それは」

「殿下、分かりました。後は私達で進めておきますので、お手伝い頂かなくても結構です」

「これ以上、ご不快な思いをさせるのは申し訳ございませんので、私共にお任せ下さい」

 しかし他の二人が彼の悪態を遮るが如く、強い口調で申し出た為、グラディクトはそれに気付かず、不遜な態度のまま言い放った。


「それ位、当然だろうが! 最初から自分達だけでやると、率先して申し出ろ! 字は汚いし気は利かないし、本当に使えない奴らだな! いいか? やはり最後に私が内容をチェックするから、今後気の抜けた字など書くなよ!?」

 憤然としながら暴言を吐いたグラディクトは、アリステアを促してそのまま統計学資料室を出て行ったが、室内に三人だけになってから先程抗議しようとした側付きが、彼以上の剣幕で怒りの声を上げた。


「あの野郎……。貴様が読めないとほざいたのは、自分が書いた物だろうが!! それも分からんとは、とんだ間抜けでど阿呆だな!!」

「気持ちは分かるが、落ち着け。それに、あの人に指摘しても無駄だろう。『貴様がすり替えたんだろうが!』とか、難癖を付けられて罵倒されるのがオチだ」

「そうそう、体よく追い払う事が出来たし、今のうちに進めようぜ? 気が変わって『やっぱり手伝ってやる』とか恩着せがましく言われた挙げ句、また手を出されたら、俺達の仕事が余計に増えるだけだ」

「本当にろくでもないな!!」

 未だに怒りが収まらずに吐き捨てた彼だったが、他の二人に諦め顔で宥められ、何とか怒りを抑えて中断していた作業を再開した。


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