「すいません。表現の自由の為に、貴方の研究を取り止めていただきたい」
わざわざ、この発掘現場までやって来た日本の国会議員は意味不明な事を言い出した。
「はぁ?」
「貴方が発表された『エルフの女王』の復元図を見ました」
「正確には『北欧神話のエルフの伝承の元になった可能性の高い民族の女性首長』の顔の復元図だ。この古墳で発見された女性の頭蓋骨を元に復元したものだ。頭蓋骨の形状や、DNAを調べた結果、死亡時の推定年齢などから、かなり正確に復元したと自負している」
「そんな馬鹿な。あれのどこかエルフだ?」
「だから、この遺跡で見付かった頭蓋骨を復元したモノだと言ってるだろう」
「あれは絶対にエルフでは無い。全世界のオタクを敵に回したくないのなら、潔く男らしく、間違いを認めたまえ」
「どこが間違いだ? 学術的な根拠を述べたまえ」
「あれは、どう見てもエルフじゃないからだ。はい、論破ッ‼」
「何でエルフに拘る?」
「あんなのがエルフだなど、ポリコレに媚びているとしか思えない。こんな邪説がSNSで広まれば、ポリコレ肯定派が勢力を延ばし、世界に誇る日本のアニメやマンガを潰そうとする者達が……」
「アジ演説なら、ネオナチの集会でやってくれ」
「貴方はいやしくも歴史学者だろう? ディズニーの実写版『美女と野獣』みたいに……」
「一八世紀のフランスをモデルにした場所に肌の黒いアフリカ系の住民が居るのが変だと云う、お決まりの御高説かね?」
「その通りだ。あんな歴史的に間違っている表現が当り前になるのを、歴史学者である貴方は容認するのかッ⁉」
「え……えっと、君は世界地図を見た事が無いのかね?」
「はぁ? 何を言っている? 話を逸らすなッ‼」
「だから……ヨーロッパとアフリカは、すぐ近くだぞ」
「へっ?」
「それに『三銃士』の原作者のデュマにもアフリカ系の血が混っている」
「嘘だッ‼ 嘘だッ‼ 嘘だッ‼ 嘘だッ‼ 嘘だッ‼ おのれ、我々は日本のアニメとマンガを護る為に『ヨーロッパとアフリカは、地中海を渡れば、すぐに行き来出来る』と云うデマとも戦ってやるッ‼」
「話を戻そう。一体、君は私達がやった復元のどこが間違っていると言うのかね?」
「あんな、俺の家の近所のおばちゃんみたいな不細工な生物がエルフの筈がないッ‼」
そう言って、その日本の国会議員は、東アジア系の中高年女性の顔のように見える復元模型を指差した。
「そりゃ、君の近所に住んでる中高年の女性に似た顔にもなるだろう。我々の説では、北欧神話のエルフ伝承の元になったのは東北アジアからヨーロッパに入ってきたフン族で、我々が、今、発掘しているのは、そのフン族の古墳なのだから」
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