数日、旅して来て思った事がある。
(「フェリーチェさん、やっぱり、只者じゃない!」)
巧みに隠してはいるけれど彼女は多分、フリュッスカイトでもかなりの上位者のなのではないかと思う。
女性だけれども、基本馬で移動をしている。
馬車は基本、商品優先なんだって。
見事な馬の扱いは騎士であるリオンと同格。
やっと乗れるようになったけれどまだ得意では無いというフェイよりかなり上だ。
シャンプーや口紅、花の香り水などもかなり仕入れている様子。
まだ国内の貴族の手が届くくらいになってきたばかりなのに。
相当高価な品物の筈なのに。
ちなみに今、市場価格的には
シャンプー一本で少額銀貨五枚。
口紅は貝や小さな器に入れた分で高額銀貨一枚。
花の水も瓶一本分で高額銀貨一枚、で買えれば幸運、だという。
そもそもが皇族、貴族、大貴族などで完売してしまうからだ。
ガルフが早くから養蜂業者を取り込み、量産の援助をしていてもシャンプーに使う蜂蜜は品薄状態になっている。
口紅も同様。
シュライフェ商会は色々な植物油で口紅製作を試しているけれど、オリーヴァオイルが最上級品で、その後がアーモンド、アヴェンドラのオイル。
菜の花油などでは今一良いものができなかったという。
プラーミァではココナッツオイルが美容品には良さそうだという報告があった。
量産が急務。でも材料が手に入りにくい。
シュライフェ商会の後押しでさらに急速拡大している養蜂が完全に軌道に乗るまではあと数年かかるだろうか。
蜂蜜を使わないシャンプーとかできるといいのだけれど、ちょっと他には簡単にできる良い素材、記憶にないしなあ。
で、その貴重なシャンプーや口紅香り水などを買い取り、纏まった量を国外に持ち出すだけでも彼女が相当な手腕の持ち主だということが解る。
自国の貴重なオリーヴァオイルのクリームや化粧品を武器に使って交渉したのだと思う。
「シュライフェ商会からお譲りした分はそれほど多くはありませんでした。多分、ガルナシア商会や貴族家から直接買い取ったのではないでしょうか?」
というのは実際に取引したシュライフェ商会、プリーツィエの談。
ただでさえ入手困難な貴重な品を手放させるとか、どんな手段を使ったんだろう。
さらに只者じゃない感が増したのは、初日の宿でのことを聞いてからだ。
「フェリーチェさんが、訓練を見ていた?」
「ああ、結構真剣な目つきでな。だから、プリエラの『能力』訓練は後に回した。
『能力』を知られて目を付けられるのは困るからな」
「ありがと。……やっぱりかな?」
「やっぱり?」
リオンの報告を聞いてから、私は改めて考える。
ただの商人だったら、戦闘訓練まで興味を示さないと思う。
食事時も
「マリカ様の護衛は勉強熱心ですね。
休憩時間も訓練に勤しむとは。
それに『子ども』を訓練に参加させているなんて他ではあまり見ませんわ」
なんて声もかけてきてたし。
「アルケディウスでは近年、子ども達の保護と教育に力を入れていますから。
私も子どもですし、私の護衛であり婚約者も不老不死を得ていない子どもですから」
「存じております。先の戦で奇策を駆使してフリュッスカイトを破った少年騎士。
あの『フリュッスカイトの盾』 難攻不落の騎士将軍ルイヴィル殿が気に入り目をかけていると評判ですから」
そんな雑談にも国内、他国の情報に詳しい事が見て取れる。
ルイヴィル殿が気に入り、目をかけている。
というのは本人や公主様が吹聴していなければ、新年の参賀に加わるか、加わった者から情報を得なければならない。
つまり、トップから情報を得られる立場にあるということだ。
そもそも普通の商人が公主から使者の役目を賜るなんてまずないし。
で、極め付けが、国境の森にて。
「ここが昨年の秋の戦の戦場。
アルケディウスが得た、カエラの群生地です」
通る途中フェイが教えてくれたのでちょっと、休憩がてら降りて見た。
まだ紅葉には少し早いけれど、確かに向こうの世界のメイプルの面影が在る木がズラリ。
きっと秋が深まれば燃えるような色に染まるのだろう。
「いつか見てみたいね」
「帰りの頃は、少し色づきはじめてはいないでしょうか?」
カマラとそんな話をしていると
「あれ? フェリーチェさん?」
閉鎖したシュガーシャックの周辺に人影発見。
近づいてみれば、フェリーチェさんとフリュッスカイトの人達が建物の周りをうろついていたのだ。
「これは皇女様」
「何をしておいでなのですか?」
「いえ、休憩中に不思議な建物に気付きまして、興味が……。
こちらの建物はなんでございましょうか? 戦に使う……にしては随分としっかり作られておりますが」
「アルケディウスの国家秘密、です。
大事な作業をしていた場所ですので立ち入られると困るのですが」
「これは失礼しました。でもしていた、ということは過去形?
今は、本当に無人のようですね」
「だから『国家秘密』ですよ。あまりあれこれ探られると公主様に抗議しないといけなくなるのですが」
「! 申しわけありません。下がります」
なおも食い下がろうとしていた彼等もその言葉で青ざめ静かに引いていった。
「どうやら、フリュッスカイトは本気でこの森の調査をしていたようですね」
「ええ。今の季節には解らない秘密ですけれど、木や建物を注意深く調べられたら『何をしていたか』は解ってしまうかも」
去っていくフェリーチェさん達を見て思う。
カエラの木からはメイプルシロップ、つまりは砂糖を取っていた。
木には全てに穴が開けられた痕跡が残っている。
シュガーシャックの中に入れば鍋に竃もあるし。
「今年の秋の戦、頑張ってほしいですね。ここを取り返されると金貨100枚以上の損失になりますから」
「秋の戦、リオン様は指揮されるのでしょうか?」
「難しい、とは聞いています。騎士貴族にとって年に一度の晴れ舞台だそうですからね」
「リオン様が指揮されるのなら安心、と思ったのですが」
「ええ、頑張って下さるようにトレランス皇子にお願いしておきましょう」
森で行っていた作業にフリュッスカイトが注目している事は新年の時にもカマをかけられたから解っている。教えて欲しい、等のことも言われている。
戦に負けてここを取り返されると色々面倒だから。
この頃には私は、フェリーチェさんの正体について、確信めいたものを感じていた。
だから驚かなかったよ。
数日後、辿り着いたフリュッスカイトの首都ヴェーネ。
そこで、
「お帰りなさいませ」
フェリーチェさんの前に膝をつく王宮の人達を見ても。
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