【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

大聖都 結婚式の準備

公開日時: 2024年12月6日(金) 08:09
文字数:3,813

 夏が終わり、世界各国は実り、収穫の秋を迎えていた。

 

「今年、各国共に穀物の収穫状況はかなり良い、という連絡を受けています。リア、ソーハ、麦、コーン。ナーハなど例年の2割増し。野菜、果物の生育も上々だそうです」


 大神殿に戻り、実務に追われる私はそんな報告を神官長であるフェイから受けた。

『神』が封印されて初めての収穫だから心配したけれど、ステラ様や各国の精霊神様達が頑張って下さっているようだ。


「それは良かった。今年度は前から話してある通り、神殿納入分の税金を半額にしますので、各国穀物の備蓄に励むよう努めてくれるように手配して貰えますか?」

「承知しております。これから各国万単位で人口が増えることになると、食料品はいくらあっても足りなくなりますからね」

「ええ。食料品だけでなくあらゆるものが不足することが考えられますので、大陸の皆で力を合わせていかないと」


 不老不死が無くなったことによる混乱は、全体から見れば幸い思った以上に少なく済んで人々は表向き、平和な日常を取り戻し始めている。

 一方で今まで絶滅していた殺人事件、傷害事件は増加しているが各国騎士団が全力で対応に当たっている事や、精霊神様が与えて下さったナノマシンウイルス対応、戸籍台帳で全国民の生存、死亡が原因まで把握できることで、これも最悪の事態よりはマシな状態で落ちついていた。

 精霊神が復活し、神々には自分達の行動が把握されているとなると、やはり悪い事はし辛いようだ。良きかな良きかな。


「収穫がひと段落つく空の月から各国で大祭が始まります。大祭のトップを切るのはプラーミァだそうです。今年は戦が無いので、五日くらいずつずらして、日程を被らせないようにするのだとか。プラーミァの次はアーヴェントルク、エルディランド、ヒンメルヴェルエクト、フリュッスカイト、シュトルムスルフトと続き、アルケディウスが最後になるようですね」

「一番北で寒くなるのが早い、アルケディウスが先だと思っていました」

「冬が長いので、楽しい思い出をなるべく新鮮なままに、という意図があると聞いております。全部の国から大神官に舞の要請が来ております」

「お受けしますと伝えて下さい」

「かしこまりました」


 フェイは有能な神官長だから、心配はいらない。

 基本的に全て任せられる。


「そういえば、アルケディウスは騎士試験がもうすぐですか?」

「はい。今年は不老不死が無くなって最初の試験なので、試合の中で死者が出ないように気を使っているようです」


 今まで当たり前だったことが色々とできなくなっている。大変だと思うけれど、こればっかりは慣れて貰うしかないからね。


「今年の優勝候補はヴァル殿とクレストのようですよ。昨年、レスタード卿が数百年の騎士試験に終止符を打って優勝されたので」

「そうでしたね。ヴァル殿はセリーヌとの結婚の為に、今年はどうしても騎士の資格を得たいでしょうから、頑張って欲しいですね」

「クレストは今年の騎士試験に優勝し、リオンと同じ立場に立ってマリカ様に最後のプロポーズチャンスを得たいようです。無駄な努力だというのに」

「ハハハ……。あ、そう言えば」


 二人で顔を見合わせて笑った後、私は思い出した。というようにフェイを見る。


「ソレルティア様との結婚式の準備は進んでいますか?」

「あ……はい。それは、その……なんとか」


 照れた様子で頭を掻くフェイ。

 神官長の結婚は、正式には新年の国王会議で神殿則が改定されてから許可されることなので今は、実はまだ無理。

 立場上でも大神官が結婚していないのに神官長が結婚する訳にはいかない。

 でも、新年まで待ってしまうとソレルティア様は臨月を迎えてしまう。

 正式な結婚は望まないと言っていたけれど、やっぱりソレルティア様だって花嫁衣装は着たいと思う。

 だから、魔王城で、式を挙げることにしたのだ。


 子ども達と、お父様、お母様。皇王陛下と皇王妃様、文官長と王宮料理人という細やかだけど豪華なメンバーに加え、ステラ様とラス様が直々に祝福して下さるという。

 国や貴族への本格的な報告とお披露目は、出産後に必要なら改めてすればいいということになった。基本、フェイが単身赴任になるのは変わらないからあまり大げさにはしない予定とのこと。


「シュライフェ商会が、マリカの花嫁衣裳の実験、というわけでは無いですが予算度外視で刺繍や飾りを入れてくれているようで……、思った以上に凄い事になりそうです」


 シュライフェ商会は、今、主要なお針子全員総出で、新年の私達三人の成人式の衣装と、私とリオンの結婚式の衣装の準備に励んでくれているらしい。

 結婚衣装も指輪も贈れない甲斐性なし、とフェイは自分の事を称したけれど、実はフェイはアルケディウスきっての高給取りでもあるから、ちゃんと話が決まればドレスをオーダーするなんて朝飯前だ。皇王の魔術師だった時代も、神官長している今も、貰っているお給料、必要経費以外は殆ど使ってないようだから日本円なら億クラスで貯まってるんじゃないかな?


「マリカの衣装もだいぶ進んでいるようですよ。近いうちに仮縫いを願いたいという連絡も来ています」

「解りました。時間を取ります」


 シュライフェ商会には体型が変わった私の衣装のサイズ直しや、新年の儀式のドレスも頼んでいるのでそれにソレルティア様の花嫁衣裳が加わるとなれば相当に忙しそうだ。

 因みにこの世界において、成人式は大人への決意。何物にも染まらない意思を表す意味で黒を基調にした服を着ることになっているそうだ。これは後日の最上級の礼服としても扱われる。結婚式の装束は地球と同じ白ベース。

 貞節と互いを尊重し、相手に染まる。これから、共に新しい色を作り出し染まっていくという意味だそうだ。意味合いも地球とほぼ同じだね。

 色は決まっているけれど、デザインは自由。

でも私からは意見を特に言わずお父様とお母様、それにデザイナーであるプリーツィエのセンスに任せているので、仮縫いで見るのが楽しみだ。


「それから……マリカ」

「なあに?」


 最初はマリカ様、と呼んでいたけれど、ここにはカマラと私しかいないから、フェイの大神官猫も剥がれてきたようだ。私は気にするつもりは無いので無問題。

 

「その……魔王城の島のカレドナイト鉱山に入っても良いでしょうか?」

「あ、結婚指輪作るの? いいよー」


 伺うようなフェイに私は軽く許可を出す。反対する理由は何もない。

 少し照れた顔で、彼は頭を下げた。


「ありがとうございます。いつも側にいてあげることはできないので、せめて最上の護りをあげたくて。ステラ様やエルフィリーネは魔王城の宝物蔵の好きなものを持って行ってもいいと言って下さいましたが、ずっと憧れていたんです。マリカの婚約指輪に。

 リオンの真似のようで恐縮ですが」


 自分も愛する人に婚約指輪を贈るなら、彼のように、か。

 なんだか可愛い。


「別にいいと思うよ。私が採掘を手伝う?」

「いえ、そんな大量ではありませんので、僕が自分でやります。母の石のおかげで大地の術もそれなりに使えるようになりましたから」


 魔王城のカレドナイトの鉱山は基本、人の手が入っていないので魔術で採掘するしかない。まだまだ相当量のカレドナイトが眠っているし、ここからのカレドナイトがあれば、通信鏡も転移陣も作り放題なのだけれど、採掘に下手な人間を入れられない。

 今まで通り、ゆっくり必要な分だけ取りに行く形になるかな?


 因みにカレドナイトって何だろう、と思って伺ったら、ステラ様の新型ナノマシンウイルスの結晶体なのだそうだ。彼女が最初にこの星に接続。大地のマグマに介入して大陸を作り上げた時に、混ざった、というか混ぜた石の中で冷えて固まったもの。

 疑似精霊石で、電波を発し、ナノマシン同士で引き合う性質を利用して転移などにも活用する。通信鏡も転移陣もけっこうな科学の品なんだね。

 ステラ様はリオンを引き取る際、鉱山から最上級のカレドナイトを集め、短刀を作り護衛兼見張りとしてエルーシュウィンの疑似人格をインストール。リオンの側に付けた。ということらしい。

 だから、ステラ様はその気になれば、今でもカレドナイトをご自分で作れる。私の指輪に着けて下さった花のように。でも流石にこちらからおねだりするのは無しだ。


 ふと指を見る。私の指にはリオンとエルーシュウィンがくれた婚約指輪がある。

 元はブルーのシンプルなリングだったけれど、ステラ様や各精霊神様達が少しずつ外付けをくれたので今は、結構な細工物になっている。婚約指輪は給料の三か月分、などというのは向こうの世界の言葉だけれど、これはお金では替えられない。


「リオンも、結婚式に向けて色々と準備をしているようです。楽しみにしていてください」

「えー。いいよ。こんな凄い指輪があるのに」

「まあ、それはそれ。男のプライドというか、甲斐性というか。

 結婚式にくらい、花嫁を美しく飾れないのは恥ずかしいですからね。黙って受けてあげるのがいいと思いますよ」

「そういうもの?」

「はい。そういうものです」


 なんだかフェイにいいように言いくるめられた気がするけれど。

 とりあえず、楽しみにするとしよう。

 リオンのもだけれど、フェイのソレルティア様に対する本気も。


「騎士試験の後、大祭の前に予定しています。

 どうかご参列を」

「勿論、万難を排しても」


 仕事、頑張ろう。

 二人の結婚式まであと一ケ月。

 私の結婚式までももう残り数か月しかないのだから。


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