カレドナイト。
この世界における特殊なレアメタルだ。
「強く、美しく、精霊の力を良く伝える」
と教えてくれたのは確か、フェイだったと思う。
通信鏡とか、転移陣とか特殊な魔術道具を使うのに欠かせないアイテム。
「特殊な性質をもっていましてね。
精霊の力を通すのに、精霊の力を弾くんですよ。
例えば転移陣や、通信鏡を作るのに術を使って液状化することはできます。
でもそれを再凝固はできないんです。
特に急激な温度変化に弱くって強い熱を加工目的で加えると、色や能力が抜けてしまうようで……」
私の知る最初のカレドナイトは、宝物庫から何も知らずに持ち出したリオンの短剣だった。
で、私が今、ほぼ肌身離さず付けている指輪は、その短剣がくれたもので……。
「じゃあ、これは?」
「とても、とても珍しい、滅多にない品ですよ。
もし人の手でこれと同じものを作ろうとしたら。マリカの指先位の大きな鉱石を見つけ出してそれをくりぬいて彫り上げるようにしないといけません
「私も始めて見ました。
同じものを捜して買おうとしたら、金貨数十枚近くはかかってしまうのではないかしら」
お母様も、驚いていたっけ。
こっちの世界にも一応、婚約指輪、結婚指輪の考え方はある。
一般の人とかに定着はしていないけれど、契約の証として王族や貴族は身に着けているみたいだ。
分厚い金のかまぼこ風とか、宝石キラキラのエタニティリングとか見栄の張りあいになることが多いというけれど。
だから、シンプルかつ蒼くて綺麗なカレドナイトの婚約指輪は周囲の目を引き、虫よけの効果も少し発揮していたことを実感している。
気にしない人は気にしなかったけど。
「リオンの短剣はどうなんです?
再凝固ができないというのなら……」
「正真正銘、奇跡の品です。
短剣を掘り出せるサイズの大きな大きな鉱石が必要になりますよ」
「精霊国時代には、特別な方法でだけど、加工、再凝固ができる技術者がいたんだ。
だから貴重で高価な品なのは間違いなけど、そこまで手に入らないものじゃなかったと思う」
というのがリオンの談。
で、不思議な事に魔王城での舞の後、私のカレドナイトの指輪に小さな星がくっついている。
正確に言うと星の形のカレドナイトが。
小指の先ほどの裏表、クリスタルのように精密研磨がなされているのに同じカレドナイトの指輪にピッタリくっついている。引っ張っても採れない。
指輪に付ける宝石は大抵ツメ、と呼ばれる枠を作ってその枠を指輪の本体にロー付けと呼ばれる技法でくっつけるけど、そのツメが無いのだ。
向こうの世界で、宝石を特殊技法で接着してインビジブルセッティングというものがあったけれどもあんな感じ、でもあれ、実際は宝石を加工して見えない所で金属をひっかけているだけで、実際はツメがあるのだけど、こっちは完全にピッタリくっついている。
「これ、なんだろう?」
「『星』からの贈り物ですわ」
舞を舞う前は確かに無かった。
だから、これが現れたのは間違いなく舞の途中、もしくは終わった後。
『星』からの贈り物、というエルフィリーネの言葉は多分正しい。
他の人が、踊っている私の指輪にこんな加工なんかできないし。
「『星』がマリカ様の真摯で心の籠った舞を喜び、またアルフィリーガとマリカ様の絆を祝福して、贈って下さったものだと思います。
いつか、困ったことが起きた時に、きっとその指輪が力になってくれるでしょう」
エルフィリーネは舞の後、私にそう言ってくれた。
『星』に捧げた感謝の舞は、どうやら喜んで頂けたようで、これはそのお礼だという。
「私が持っていた方が、いいもの?」
「はい。アルフィリーガにカレドナイトの短剣が守り刀として与えられたのにも意味がございます。
その石もいつか、マリカ様のお役に立つことでしょう」
大神殿の礼大祭の前、星が下さった『星の護り』は私とリオンの命を救って下さったに等しい。
なら、これにもきっと大事な役割が在るのだろう。
「ありがとうございます。大事にしますね」
私は膝をつき祈りを捧げた。
私達を愛し、守り導いてくれる『星』に、心からの感謝を込めて。
「そういえば、リオン」
「なんだ?」
「エルーシュウィンは、元気?」
新年の大聖堂での騒動以後、私はエルーシュウィンを見ていない。
会話をしたのは年末。
カレドナイト鉱山で採掘の護衛をしてくれた時が最後だ。
暫く疲れて人型が取れていないと言っていたけれど。
少し心配。
「あー、元気は元気なんだけど、ちょっと、な」
「?」
『別に、いつまでも隠しておくことじゃないだろ?』
「え?」
歯切れの悪いリオンの口調とは裏腹に、妙に明るい声が耳に届く。
「バカ! ここで出て来るな。まだ他の連中がいっぱいいるんだぞ?」
リオンが腰の短剣の鞘に手を添えた。
今のはエルーシュウィンの声?
『元気は元気だよ。ただ、ちょっと僕を知っている子と顔を合わせると驚かれるかなって思ってさ』
「何があったの? エルーシュウィン」
「後で、話す。夜に、バルコニーででも」
確かに今はまだ、周囲に人が多い。
秘密の話をしたいのなら向いていないだろう。
「解った。後でね」
エルーシュウィンが元気なら、それでいい、と私は思って場を離れた。
その後はちょっと大パーティになったから。
勿論、その夜、エルーシュウィンと再会した時
「え? 嘘? なんで??」
その姿に、私は盛大に驚く事になったのだけれども
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