【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 精霊神様との会話

公開日時: 2025年2月21日(金) 08:24
文字数:3,774

 魔王城での親子会見から数日後。


「なるほど。そんな展開になっていたのか……」

「はい。なのでステラ様は各国の精霊神の皆様におかれましては、今後についてのご協力を仰ぎたい旨。そして子ども達の受け入れについていいアイデアなどがありましたら教えて頂きたい、との伝言を預かっております」


 私はアルケディウスの神殿で、精霊神ラスサデーニア様と面会していた。

 細かい事情の説明と協力の要請の為だ。

 ここは、疑似クラウドの中。

 リオンは、アーレリオス様の精霊獣と一緒に先に神殿に戻った。

 カマラが外で護衛をしてくれている。中にいるのは私とラス様だけだ。


「解った。何か思いついたら知らせるし、できる限りの協力はすると伝えておいて」

「かしこまりました。っていうか皆様の方が直通の連絡がネットワークで可能なのでは?」

「まあね。でも、僕達同士で話をしてしまうと、君達には伝わらないだろう? だから、君を通した方がいいだろうというステラの判断には同意する」

「そういう意図が御有りだったのですか?」

「多分ね。君の話なら各国王も精霊神も素直に聞くだろうし。

 僕としてはシュヴェールヴァッフェの案に賛成かな? ステラの島にあんまり多くの人を入れるのはどうかと思うけど。必要なら木の祝福を増やすし」


 なるほど。

 精霊神様達は疑似クラウドを通じて会談が可能っぽいのに、私に伝言を頼んだのは、私と各国の王家の皆様の顔を立てて下さった訳か。

 ホント『神様』らしくないなあと、良い意味で思う。

 優しくて、人間の事をいつも考えてくれて。

 この星は、良い守護神を持った。


「それで、あいつとも和解がなったんだ?」

「はい。今はまだちょっと顔向けできないけれど、近いうちに気持ちの整理をつけて謝罪しにいくから、とのことでした」

「カッコつけのところは変わらないなあ。今更気にするものでもないだろうに。

 でも、ま、楽しみに待っておくよ」


 私の話に微笑む様子はなんだか楽し気で、そういえば、この方と『神』神矢くんは歳が近くて仲が良さそうだったと思い出す。仲間の帰還は嬉しいのかな。やっぱり。


「皆様、そんなに『神』のこと怒ってはいないんですね。

 封印されておられたのに」

「ん? 怒ってはいるよ。ただ、あいつを痛めつけたところで、失われた子ども達が戻ってくるわけでは無いし奴の事情も解ってるし、反省もしたようだし。

 そこは精霊神として合理的に考える。償いはきっちりさせるけど」

「お手柔らかに、というのは私が言うセリフではないですが」


 反省していないなら、きっちり〆るつもりだったとラス様はおっしゃる。

 神々の事情に私が首を突っ込む話でもないからスルー。


「それで? 『神』の息子は王都に戻ったのかい?」

「はい。ステラ様は直通の通信鏡を持たせたそうですので。少し寂しそうではあらせられましたが」


 レオ君こと、フェデリクス・アルディクスはあの後、城の皆で送別会をしてから孤児院に返した。

 ステラ様は勿論、弟分ができていたことを喜んでいた魔王城の双子やリグはとても残念そうだったけれど、連れ戻った時の孤児院の皆さんが、とてもホッとした嬉しそうな顔をしていたのでこれでよかったのだと思うことにする。

 デイジーちゃんは特にリグの姿を見た途端に泣き出し、抱き着いていた。そんなデイジーちゃんをやさしく受け止めていたレオ君が印象的だと感じたっけ。

 父と母のいる魔王城ではなく、自分を受け止め育ててくれた孤児院を彼は今の居場所に選んだ。それは、リオンの望んだレオ君の変化。

 外の世界を見てきたことによる彼の変化だろう。


 今後は、少なくとも前のように『神』に。精霊として縛られるヤングケアラーをさせられることはない。子どもらしく生きて、色々な事を学んで、そうして自分の未来を選択してくれればいいな、と思っている。

 多分、大神殿か魔王城で私達かステラ様の補佐、って形になると思うけれど。このまま平和な時が続けば本当の意味で自由な進路を選ばせてあげることも可能かもしれないし。


「とりあえず、話は解ったよ。報告ありがとう」


 ラス様はそういうと私を撫でて下さる。

 ふわりと、宙に浮かんで少し上から優しくなでなで。

 ちょっと嬉しい。


「次に行くのはナハトのところ?」

「はい。アーヴェントルクです。その後、エルディランド、ヒンメルヴェルエクト、フリュッスカイト、シュトルムスルフトの順で各国を回り、最後にアルケディウスでお祭りをやって冬、ってことになりそうですね」

「そうか。大変だろうけれど頑張って。皆、楽しみにしているだろうから」

「楽しみにして貰えるだけの舞ができているかどうかは解りませんが、全力を尽くします。

 舞の後、神殿に行った方がいいと思います?」

「そうしてやると喜ぶとは思う。必要なら、寝ている君の精神に夢で接続して語り掛けることもできるけど、君が来てくれた方が嬉しいし楽だしね」

「解りました」


 神様たちの世界。

 疑似クラウドは言ってみれば電脳世界だから、普通の人間には見えない触れられない世界で本来なら精霊石などの助けがいる。

 今の私は精神的にも肉体的にも、疑似クラウドへのアクセス権を持つ混じりあった存在だけど、基本的に自分の力で疑似クラウドに入ることはできない。

 呼ばれた時に来るだけだ。


「別に無理して入りたがることは無いよ。面白い場所では全然ないから」

「そうなんですか?」

「うん。何も変わらない真っ白な世界。向こうから持ってきた本を見るか、外の世界を除くくらいしかすることがない」

「大変ですね……」

「前はね。今はそれほど退屈してもいないよ。子ども達が不老不死世の後、生き易いように仕事したりしているし。何より君達の行動は面白いから」


 それは、精霊神様達にいつも見られているってことなのかな、と思うけど気にしないことにする。別に見られて困ることは何もしてない。

 あ、そうだ。


「ラス様は、またローシャを作って一緒に来て下さる気はありませんか?」


 私は、この機に聞いてみることにした。七国の旅をアーレリオス様と一緒に助けてくれたラス様の精霊獣ローシャ。あの子もここ最近姿を消している。

 きっとアーレリオス様と同じ理由でラス様が引っ込めたのだと思う。


「『神』レルギディオス様が、大神殿の結界を緩めて下さったんです。だからピュールも動きやすくなったと言っておられましたし、また来て下さると嬉しいんですけど」


 灰色短耳兎と一緒の旅はとても楽しかった。

 だから、ちょっと甘えてみたのだけれど。


「それはとっても魅力的なお誘いだけど、止めておく」


 残念なことにきっぱりと断られてしまった。


「今はたった一つの敵だった『神』が消えてこの星全体に敵がいなくなったし、父親と婚約者がいれば君を害することができるものは、ほぼいないだろうし。

 何よりこれ以上舅、小舅が増えたらリオンが可哀相だしね。

 アーレリオスも嫌な思いをするだろう」

「そんなことを気にする二人では無いと思いますけど……」

「表向きはね。でも、裏ではきっと君との蜜月を邪魔されたくないと思っている。

 だから僕はいいよ。遠慮しておこう」

「そうですか……」


 明らかにしょぼんとした私を気遣ってくれたのだろうか?


「そんな顔しないで。君に何かあったら何があろうとも吹っ飛んでいくからさ」

「何かなくても来て下さっていいんですよ。待ってますから」

「ありがとう。そうだね。気が向いたら」


 優しく慰めて下さる。

 ありがたくも嬉しい。やっぱり、ちょっと寂しくはあるけど。


「じゃあ、そろそろお戻り。アルケディウスの祭りを楽しみにしている」

「はい。ありがとうございます。あ、最後に、ちょっといいですか?」

「何?」

「アーレリオス様に聞こうと思って聞きそびれたんですけど……このアースガイアって浮遊惑星なんですよね?」

「そう。特定の恒星に依存しない浮遊自由惑星。水だけは大量にあったけれど、恒星から光や熱の提供が無いから、基本真っ暗。極寒だった。

 ただ、地熱によるガスで一部が解けていてね。そこに僕達が大陸を作って移住したんだ。

 火山活動で地球に似た鉱物も生まれたし、地球から持ってきた金属元素も混ぜたりして皆でテラフォーミング? したんだよ」

「いじったのは、星の内部だけです?」

「そうだけど……。星の軌道そのものは手を入れてないと思うなあ。

 元々浮遊惑星は他の星の重力圏を感じると磁石の同極みたいに離れていくみたいだし。万が一の為にステラが危なくないようにはしていると聞いているけれど」

「やっぱり、そうですよね。じゃあ、アレはなんだったんでしょう?」

「アレって何?」

「実は……」


 私は『神』との会談の時の彼の発言について知らせる。

 と言っても、芳しい情報は得られず、ラス様も首を捻っていただけだけれど。


「そんなことをあいつが言ってた?」

「はい。この星には天文学の概念が無いんですよね。それはここが浮遊惑星で天体が固定しないからだと解りましたけど、ちょっと気がかりで」

「解った。気にしておくよ。何か解ったら教えてあげる」

「ありがとうございます」

「次はアーヴェントルクだろう? ナハトにも聞いてみるといい。

 奴は生前引きこもりの読書家で、SFをけっこう読んでたらしいから」

「解りました」


 そうして、私は話を終えて外に戻った。

 この時の雑談、小さな問題提起が後で起きる、星の運命を動かす大事件の重要な手掛かりであることに、気付く事もなく。


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