【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

火国 語られた真実 中編

公開日時: 2024年8月30日(金) 08:27
文字数:3,314

 アーレリオス様の宣告を聞く『精霊神』様達は、本当に言葉にできない様な表情をしている。

 悲しみと、後悔と自分達の無力を噛みしめるような。

 この顔を見ると『神』だなんて思えない。

 本当に私達と等身大の人間に見える。

 辛い事を思い出させ、言わせてしまったのだな。という気持ちでいっぱいだけれども、聞かないわけにはいかない重要な話だ。


「外宇宙からの侵略者? エイリアン?」

「ああ、そうだ。

 それは本当に突然現れた。

 NASAも宇宙観測をしていた各国も事前に気付くことはできず。宇宙ステーションからの連絡が途絶え、地球人が危機を察知した時にはもう手遅れだった」


 異世界でNASAなんていうとか聞くの不思議な感じ。

 と茶化している暇はない。


「奴らは名乗りもしなかった。そして一方的に全てを奪っていった。

 コスモプランダー宇宙の略奪者 後にそう名付けられた奴らの第一声はこうだ」


『新たなる贄達よ。従え。

 この星は、以降、我らが所有する』


 電波のように世界に生きる人類全ての脳に、その言葉が響いたのと同時、隕石雨が地上に降り注いだ。

 初期観測によるとその数は数百。サイズは掌程。地上に落ちた時の物理的被害はそこまでは無かったという。

 だが、その『隕石』が落下までの間、そして落下してからもかなり長い間、まき散らした『モノ』が問題だった。


「最初はウイルスかと思われた。だが、後からの調査によるとナノマシンに近い、けれどもウイルスの伝播力や感染者への体質変化などの性質を併せ持つ極小の人工物であることが解っている。何者か、おそらくコスモプランダーの悪意によってデザインされたそれは、惑星破壊兵器だった」


 隕石は世界中におそらくランダムに降り注いだ。だから、初期には被害を免れた国や地域もあったらしい。だが


「ここにいる者達は、全員、隕石の落下エリアにいて被害に遭った。

 だから、全員がその地獄を目の当たりにしたのだ。

 いや、地獄の只中にいたと、言った方がいいだろう。

 私は故郷、インドで教師をしていた。あの日の事は今も忘れない」


 唇を噛みしめるようなアーレリオス様には、はっきりとした悔恨の思いが見える。


「自分の眼前で、教え子達が次々に死んでいく。

 家族がどうなったのかすら、解らない。

 空気中にまき散らされた毒物によって、人間が死ぬ。のは実はまだマシな方。

 観測者達の計算によると、感染により即死した人間が約七割。残り約三割は仮にナノマシンウイルスと呼ぶそれによって身体の構成を作り替えられ、怪物と化した」

「怪物に?!」

「自重や体の変化に耐えられず、アメーバや触手状に身体が溶けた者が多かった。

 後は、獣や飛行型など我々が想像するような怪物に変わった者もいた。

 極まれに人間の意識や、知性を僅かながらに残した者がいたらしいが、この時点では判別できなかった。そして怪物達は死亡した人間達の死肉を喰らって完全な魔性へと変化していった」

「七割と、三割ってほぼ100パーセントじゃないですか? でも、皆様は生き残ったんですよね?」

「世界数十カ国に落下した隕石とそこから派生したナノマシンウイルスによって、その日『死亡』した人間の数は約30億人。人間の容と知性を残し生き残って救出された人数は僅か十……いや、十一人だ。一つの国家が一昼夜で全滅した国も少なくなかった」


 自分で聞いたことだけれど、あまりの過酷さに声も出ない。

 人類の半数が一瞬で死に至ったなんて。

 そして十一人ということは……。


「ああ、お前の思う通り今、『精霊神』を名乗ってここにいる者達は、その時の生き残りだ。

 男性九名、女性二名。

 何が生と死を分けたのか、はっきりとした理由は後にいくら調査しても解らなかった。

 見ての通り、共通点は殆どなかったしな。

 おそらく、病やウイルスに対する免疫能力や適合性が偶然、異常なまでに強かったのだろうと言われている」


 普通に生きている分には、気付かれることの無い。

 いいとこ、病気をしなくていいね。感染症にかからないの? くらいだった特殊能力。

 それが皮肉にも最悪の状況で判明し、彼らを守った……。


「我々は無事だった国に保護された。

 不思議な事に魔性達は我々生きた人間には手を出さなかったのだ。

 その後、オーストラリアに暫定地球政府ができ、我々は研究材料となった。

 第一陣の後、幾度となく隕石は降り注ぎ、また魔性に変化した人間達も感染源となって第一陣で難を免れた地域にも被害は広がり、地球人を滅ぼしていく。

 だがこちらに生まれた能力者のおかげで、約一月後には我々の血液を元にしたワクチンが開発され、地球人類の完全滅亡はギリギリの所で食い止められた。

 それは、地獄の第二章であったのだが」

「能力者? ですか?」

「奴らがばら撒いたナノマシンウイルスは、人間への感染力そのものはそれほど強力で長期に渡るものでは無かった。

 元々はテラフォーミング用であったのだろう。人間に感染できなかったものは、大地や植物、他の動物に感染し、地球を奴らの都合の良い容へと変えていった。

 食料である動植物を奪われ、大地を失い、それでも数か月人間が持ちこたえたのは、感染した上で生き残った人間、我々が、ナノマシンウイルスに適合。

 それを操る力を得たからだ。まあ、それも奴らにとっては計算のうちだったらしいが」

「え?」

「まず、最初に生まれたのは防御壁を生み出す能力者だった。

 ナノマシンウイルスと、外宇宙の侵略者たちの侵入を僅かながら阻み時間を稼いだ。

 その後、限定的にではあるが、ナノマシンウイルスを操作することができる能力者が生まれた。

 木、水、火、風、地、光。

 さらにそれまで、我々の人知の外にあった人の精神、魂もナノマシンウイルスの影響を受けてか、把握することが可能になった。

 地球上のありとあらゆるものに混入したそれらを操作できるようになった彼らは、自然を操る能力者と同義となる」

「それって……」


 静かにアーレリオス様が頷いた。


「そう。我々『精霊神』だ。

 最後に外宇宙由来ではない新しいナノマシンウイルスを生み出す能力者とそれを強化、維持する能力者が誕生した。彼らは外宇宙由来のウイルスを自分達の作り上げたウイルスに変異させ、大幅に削減することに成功した。

 我々は敵のナノマシンウイルスは、操作するのが精一杯だったが仲間の生み出したナノマシンウイルスに対しては自分の使える形に書き換え、自由に操れるようになった。

 結果、人類は一時的に生存圏を取り戻したのだ」

「一時的、だったんですか?」

「ああ。やがて外宇宙生命体自らが、作り替えられ、彼らの居住に適する環境に変わった地球に徐々に降りてきた。 

 こちらの対抗できる能力者は増えることなく十一名。奴らの数は決して多くは無かったがそれでもその数百倍はいた。強力な原種のナノマシンウイルスと、彼らの配下たる元は人間だった魔性は、奴らの降下によって強化されほぼ不老不死と化した」

「不老不死に? 人間の意思が残っていたら反逆されませんか?」

「原種のナノマシンを体内に入れられた者は、その主たる奴らに基本的に逆らうことができない。特に人間形を失った連中は奴らと向かい合った瞬間、完全な操り人形になっていた。

 奴らは自分の武器でなら、簡単に魔性達を捌くこともできた。不自由は無かったのだろう」


 もしかしたら。

『神』が人々に不老不死を与えたのは、そのコスモプランダーを真似たのかもしれない。

 会議の時にフリュッスカイトのメルクーリオ様がおっしゃったことがあるけれど、不老不死を与えたのは人間を思ってでは、決してなく家畜を新鮮なまま保存させる手段に過ぎなかったのかも……。


「他にも様々な理由があり、人間は奴らに成すすべなく。まるで猫に弄ばれる鼠のように居場所を失われ……最後の選択を迫られることになる」

「それが、異世界への移住ですか?」


 フッと、空気が緩んだ。


「……まあ、そうだ。地球を捨て、新たな地に移住した。

 選ばれた子ども達を連れてこの地に赴き、根を下ろし新たな文明を築き上げた。

 それが、この星の始まりだ」


 あれ? 私、何か変な事を言っただろうか?

 アーレリオス様だけではない。

 なんだか、優しい、柔らかい。そしてどこか、ホッとしたような眼差しで、七人の『精霊神』様は私を見つめていた。


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