【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

宿題の答え

公開日時: 2021年2月14日(日) 08:15
文字数:2,464

 マリカ姉は言った。


「クリスの理由を聞きたい。

 どんな自分になりたいのか。その為に、何が必要なのか」


 ギフトが目覚めてうかれていたおれに。


 そう言われて、かんがえた。

 ぼくは、どんな自分になりたいんだろう…。




 一人になりたくて、ぼくは、ごはんのあと、お城のはしっこ。かいだんのところに座っていた。

 一人になるにはここは、いいところだって。

 まえにアレク兄が言ってたから。




 ほかの皆は、どうかわからないけど。

 今の生活が幸せで、もう忘れているのかもしれないけれど。

 ぼくは、今もおぼえている。


 魔王城に来る前の日々を。



 毎日、おこられて、叩かれて。

 言われるまえにはたらかないと

「気が利かない!」「役立たず!」

 と怒られた。

 だから、いっしょうけんめいに早くうごいた。

 おこられないように、いつもまわりを見ていた。

 なまえなんて、なかったし、呼ばれたこともなかった。



 だから、魔王城につれてこられて、あらってもらって、そして…

「クリス お前はクリスだぞ」

 

 名前をもらったあのとき


「うわあああああん!!」


 初めて、泣いた。

 今まではどんなにこわくても、つらくても泣けなかった。

 泣いたら、もっとおこられるから。


「泣くなよ。クリス。もう大丈夫だ」

「もう、一人じゃありませんからね」


 そう言って、やさしく抱きしめられたあのぬくもりを、今もぼくはおぼえている。



 魔王城では、やらなきゃおこられるしごとはない。

 たたかれることも、どなられることもない。

 畑のめんどうや、しゅうかくや、しないといけないことはあるけれど。

 がんばれば、ほめてもらえるし「ありがとう」っていってもらえるし、おいしいごはんもでてくる。


 毎日が、しあわせで、しあわせで、しあわせで。


 だから、自分も何かできるように、なりたいと思う。

 みんなの役にたちたいと、ほんとうにほんとうにおもうのだ。




 ギフト。


 

 一人一つのとくべつな力。

 それを持つ、兄姉がうらやましかった。

 早く自分もほしかった。


 自分もそれを手に入れたら、みんなの役に立てるのに。

 ずっとそう思っていた。

 でも、やっとそれを手に入れて。

 しかも、自分のじまんの速足で。

 うれしかったのに、うれしかったけど。


「どんな自分になりたいのか」


 そう言われて、答えられない自分に気付いた。

 アーサー兄は「シールドを使えるようになる」ってちゃんときめてたのに。

 自分の力で、ちゃんとみんなの役に立ってるのに。



 ゆうびんやさん。


 みんなに、にもつをはこぶ人。

 それがさいしょのもくひょうだったけど。

 みんなのやくにたてているのかなあ? 

 足が速いだけじゃ、たたかえないし…。




 ずっと、ずっと、ぐるぐると、そんなことを考えていたら。


「クリス様」

「ティーナ…姉さん…」

 

 前に、ティーナ姉さんが、立っていたのに気付かなかった。


「考え事ですか? こんなところで座り込んでいると風邪をひきますよ」

「…ごめんなさい」


 リグをだいて、ぼくをみているティーナ姉さんに、ぼくはあやまって立ち上がろうとした。

 そんなぼくにティーナ姉さんは


「お待ちください。クリス様」

 ぼくを引き留めて


「そう言えばお礼を言うのを忘れていました。

 リグが生まれるとき、マリカ様を呼んできて下さって、ありがとうございます」 

 

 そう、頭を下げてくれたのだ。


「えっ?」

「あの時、クリス様が家に来て下さって、マリカ様を呼びに行って下さらなければ、リグは生まれてこれなかったかもしれません。

 クリス様は、リグと私の命の恩人ですわ」


「ぼくが…リグと、ティーナ姉さん…の?」

「ええ、恩人です。感謝していますわ」


 そういうと、ティーナ姉さんは、僕の横に座って、リグをそっと抱っこさせてくれた。

 青い目をくりくりとさせたリグはご機嫌で、手のひらを空に向けている。

 手のひらを、つん、と指でつついたら


「あっ!」


 リグがぼくのゆびを、ぎゅっと掴んだ。

 こんなに小さいのに、力はビックリするくらい強くって。あったかくて。

 このちっちゃなリグがうまれてくるのに。

 ぼくはやくにたったのだとおもったら、すごくすごく、うれしかった。


 ぼくは、役立たずなんかじゃなかったんだ。

 だれかの役に、たてたんだ。


 ぼくの目元から、ぽろんと、なみだがこぼれた。

「クリス様?」

「だいじょうぶ、だいじょうぶだから」


 ティーナ姉さんが、しんぱいそうにぼくを見ていたけれど、ぼくはなかなか止まらないなみだを止めるのにせいいっぱいだった。




「マリカ姉!」


 夜ご飯のあと、ぼくは、マリカ姉を呼んだ。

 リオン兄、フェイ兄、アル兄、アーサー兄、アレク兄。

 ようは、みんないっしょのときだ。


「なあに? クリス」

 

 マリカ姉はぺたんとひざをおり、ぼくと、目を合わせくれた。

 だから、ぼくは、いっしょうけんめい、かんがえた答えをいう。


「ぼく、ぶきは…まだいらない」

 

 少し、大きく目をあけたけれど、ぼくをみているマリカ姉に、それをみている兄さんたち。

 みんなに言う。


「ぼくは、みんなのゆうびんやさんになる。

 みんなに、にもつや、だいじなものをはこんであげる、ゆうびんやさんに!

 この速い足で、みんなの役にたつんだ!」


「うん。なら、いいよ」


 ぼくのはなしをきいて、うなづいてくれたマリカ姉は、


「クリス、これあげる」 


 小さな小さな、短剣をくれた。

 とっても、とってもかるい。もってないみたいにかるい。


「それはね。

 リオン兄が魔王城の宝物蔵から選んでくれた、クリスの為の短剣。

 ゆうびんやさんも、かんたんじゃないよ。荷物を運ぶ間は一人だし、助けてくれる人は、だれもいない。

 だから、自分の身は自分で守らなきゃいけない。わかる?」

「うん」

「だから、今まで通りアーサーと一緒にリオン兄に戦い方とか、ナイフの使い方を教えて貰って。

 そして、必ず、自分の命を守る。命と荷物だったら、命を守る。約束して」

「うん」

「クリスは、きっと、みんなの大切なものを守って運ぶ。郵便屋さんになれるよ。がんばって!」

「うん!!!」



 ぼくは、アーサー兄のようにはならない。

 アーサー兄より、もっと役に立つんだ。

 ぼくの、ぼくだけのギフトで。



 見てろ!

 ごはんもいっぱいたべていっぱいれんしゅうして、大きくなってアーサー兄なんか、すぐに追いこしてやる!


 


クリス視点 宿題の答え

悩んだ、悩んだ思いと答えは、クリスにしか解らないと思ったので。


次話はマリカ視点の『宿題の答え』

クリスのギフトに思う、みんなの考えと行動。


1章終了まで、あと20話くらいの感じがします。

飛んでも長くなっていますが、どうかよろしくお願いします。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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