【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

夜国 精霊の家族

公開日時: 2025年2月24日(月) 08:44
文字数:3,871

 各国に招待された、大祭における私の仕事は基本的に祭りの開会を告げる舞を舞う事だけだ。


 今までは神殿の奥の間で精霊神様達だけに捧げていた舞だけれど、プラーミァの大祭、外の仮設舞台で舞を舞って大好評。(暗殺者も出たけれど)結果、他の国でも私は外で舞うことになった。


「大祭の日って雨にならないんですね~。

 それに空の月なのに半袖の舞衣装でも全然寒くない、暖かい日でした」


 話題に困ったら天気の話。それは古今東西の人間関係の基本だけれども。


「降らないようにしているのだ。祭りに文字通り水を差してしまうからな」


 神様にも一応通じるっぽい。

 少し照れた様子で私の前に浮かぶアーヴェントルクの精霊神、ナハトクルム様は鼻を擦りながらそう教えてくれた。


「ありがとうございます。おかげでこの国でも気持ち良く舞えました。

「こちらこそ。やはり、マリカが送ってくれる『気力』の味は格別だ。

 舞も年々上達してきているようだな。間もなくアドラクィーレを超すだろう」

「それは、まだ難しい気もしますけれど」

「技術的にはな。だがお前の舞には心が籠っている。それが一番重要なのだ。

 新しい乙女達も、お前の舞の心を継いでくれるといいのだが……」


 大祭の後、私は神殿の精霊石の間にやってきている。


 精霊神様のお呼び出し。


 ステラ様からもご挨拶するようにと言われているからね。大祭の舞が終わった後、お願いして精霊石の間に入れて頂いた。

 リオンも最初は一緒に来るはずだったのだけれど


「お前にはたっぷり話があると言っただろう?」

「リオン!」

「心配しなくていい。ちょっと叱られてくる。神殿の中でお前に害する奴はもういない筈だから」


 ってヴェートリッヒ皇子が連れて行ってしまった。きっと今頃神殿長の部屋で積もる話をしてるのかな?

 まあ、私としては一人になると人生指折りの命の危機が、この精霊石の間で起きたことを思い出してしまうのだけれど、流石に今はもう無い筈。無いよね。


 そんな気持ちを察してか、ピュールも一緒に来てくれたし、早々に精霊神様は私をこの仮想空間に入れてくれたし。


「基本的に、気候はステラが管理しているからな。雨や雪は作物を育てる為と、各国の精霊神の好みだ」

「地形も、大陸ができた後、皆で力を合わせて故郷に近い形に作った。

 最初から在った海底火山の噴火口がプラーミァの南の海にあるから、元々南の方が気温が高く、北の方が気温は低い。だから、それぞれ相談して国の場所を決めたんだ。

 なるべく差が出ないようにしつつ、故郷の特色を出せるように」


「お前はその中でも随分こだわっていたな。アルプスの山嶺を再現したい、と」


「我儘だったのは解っているが。そのせいで耕地が少なくて子ども達には苦労をかけた」

「でも、美しい風景はアーヴェントルクの誇りだって、ヴェートリッヒ皇子、言ってましたよ」

「ああ、奴は美しい自然を愛した私や、乙女の気持ちを一番受け継ぎ、理解している。

 良い王になるだろう」


 精霊達の内緒話。

 精霊獣の形を取っていたアーレリオス様も、ここでは人間の容に戻ってナハト様と気楽な会話を楽しむ様子だ。

 兄弟同士、って感じでいいなあ。



「それで? あの後、レルギディオスはどうした? 今後の方針はどうする?」

「はい。その件につきましては……」


 私はナハト様に、魔王城でのレルギディオス様とステラ様の夫婦喧嘩の顛末を報告した。

 今後の事についても。

 その気になればネットワークで即時通信できる筈なのに、本当にラス様がおっしゃる通り、私達の顔を立てて下さっているのがありがたい。


「そうか。ならば『神』の子ども達はステラの島で様子を見て貰えるとありがたいな。

 この国は急激な人口増加に対応するのが難しい」


 アーヴェントルクは元々、山岳地帯が国の多くを占める為。さっきも精霊神様達がおっしゃったとおり、耕地が少ない。

 だから、穀物の生産量は国民全てにギリギリ行き渡るか行き渡らないか。


 その分、鉱山資源や乳製品、皮革などを隣国であるヒンメルヴェルエクトやアルケディウスに輸出して穀物を輸入している。主に穀物関係はヒンメルヴェルエクトから。ヒンメルヴェルエクトはアーヴェントルクから輸入した鉱物資源で、農作業に必要な道具を作っている。


 アルケディウスも北の地だから穀物の生産に適している、ってわけではないのだけれど国を守るのが緑の精霊神様だから、地球のロシアなどに比べるとまだ育つ方らしい。


「その代わり、技術的な供与に関しては力になろう。具体的には通信鏡の携帯電話化とかだな」

「できるんですか?」

「小型通信鏡開発の時に、フェイに外付けによる送受信の指向機能について話をしてある。

 奴がその為の機構を空けてあれば大丈夫の筈だ」

「その為の機構……?」

「向こうの言葉で言うなら、小さなスロットル、差込口が空けてあるか?」

「あった……と思います。充電の必要も無いのに不思議だな、って思ってたんですけど」

 私はポケットを探りかけて、自分が舞衣装である事に気付いた。普通のドレスにはポケットがつけてあるので持ち歩いているけど、流石に舞の時には持ってきてない。


「地球の電話のように固定番号を振って、知らない相手とも受送信できるようにするにはまだ十数年かかるだろう。だが同じ番号を組み込んだカードを両方で分け合い、それに差し込むことで新しい通信鏡と繋ぐことは可能ではないかと思う」

「それはいいですね」


 受信先、送信先が決まっている糸なし糸電話はなのは変わらないけれど、小さなカードを差し込むことで新しい相手と同じ機種で双方向通信ができる。というのであればかなり便利になる。


「最終的にはそのカードを改良して番号を振り、番号に向けて発信するようにできればと考えている」

「今まで作った通信鏡に番号を振って電話番号でかけられるようになった、大革命ですよ!」


「その為にはマイクロチップ並みの細かい作業と技術が必要だからまだ先の話になるだろうが。

 とりあえず、アーヴェントルクの技術者にも通信鏡を作らせるのだろう?

 案を紙に書いておいてやるから、アルケディウスからの提案として提出しろ。

 新年までに試作品を形にできるよう促してみる」

「よろしくお願いします。あ、でも精霊神様、外で話したり教えたりして大丈夫なんです?」

「無論、ヴェートリッヒ経由だが。

 まったく、こればっかりは人間だった頃が恋しいな。職人達の作業を見るたび、自分の指と目が欲しくなる」


 少し、寂しげに微笑んだナハト様。そういえば、時計職人していたって聞いた気がする。


「ナハト様は、そういう精密作業がお好きだったんですか?」

「私の父は腕のいい時計職人だった。メーカーに寄らない独立技師だったがそのオリジナルの時計にファンが少なからずいて、一つの機械式時計を数百万で買ってくれる者もいた」

「独立時計職人……。ホントにいたんですね。マンガのはなしとかじゃなくって」

「遠い日本の一般人にはあまり縁のない話だろう」


 なんだか、初めてな気がする。

 精霊神様が、向こうの世界の自分の話を本格的にして下さるのは。

 アーレリオス様お父さんがちらーっと、話してくれたことはあったけれど。

 もしかしたら精霊神様も、ずっとずっと、胸の中に抱きしめていたものを吐き出したかったのかもしれない。


「学校や外に馴染めなかった私を、父は黙って受け入れてくれた。

 そして、持つ技術や技を仕込んでくれた。

 私自身、父の作る時計の世界に憧れて職人の道を目指したから、外の世界に興味などなかった。自分の好きな世界でずっと生きていられれば幸せだと思っていた。

 そんな私がたった一人生き残って、子ども達を導く『神』になるなど皮肉な話だが……」

「止めろ、ナハト。そんな愚痴をマリカに聞かせるな」


 ナハト様の思い出話をアーレリオス様はムッとした表情で遮るけど。


「こいつは直ぐに人の想いや苦しみも抱えてしまう」

「いいんです。お父さん。私、そういう話も聞きたいと思います」

「マリカ……」


 私は首を振った。ナハト様が謝る前に。


「他の人には、子孫の王族の方にだって言えませんよね。そういう愚痴。

 だから、私にはよかったら吐き出してくれていいですよ」


 こんな話が聞けるのは、私が精霊側になったからだろう。

 普段『神』として決して弱みを見せられない方達の仲間として、本当の姿が見られるようになったのはちょっと嬉しくもある。


「何ができるわけではないですけど、辛い事、寂しい事って言葉にして吐き出すと、少し軽くなりますよね。だから、気軽に愚痴って下さい。

 お父さんにとって皆さんが兄弟だとしたら、私にとっては家族と同じですから」


 お兄さんとか、叔父さんとか。うん、そんな感じ。

 守らなければならない、魔王城の弟妹や、甘えてしまうお父様やお母様とは違う、助けられ、助ける対等の家族だ。今は、私の方が圧倒的に守って頂いているけれど、いつかは対等になる。

 その日が来る。




「あ、お父さんのお話も大歓迎ですよ。お母さんとのコイバナとか、お父さんが藩主の息子としてブイブイ言わせてた頃の話とかも聞きたいなあ~」

「ブイブイって……。お前は時々解らない事をいうな」

「知識やポキャブラが二十一世紀の日本基準なもので……」




 私の話を聞いて、プッとお二人が吹き出したのが解った。

 優しい笑顔が咲く。




「……本当に、お前には叶わないな。先生にそっくりだ」

「私と真理香の娘だからな」


 顔を見合わせ合い、笑うお二人を見ていると、本当にこの人達は『神様』なんて向いて無いないって思う。

 だから、せめて私の前では笑い合えたらいいな。

 堅苦しい神様の猫を脱いで、家族として、人間として。

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