【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

大聖都 魔王からの連絡

公開日時: 2024年9月11日(水) 09:30
文字数:2,432

「ただ、何ですか? クラージュさん」

「私が『神』であったら、まずマリカ様の手を封じる手段をとるかと思うのです」

「私を、封じる?」

「ええ、例えば……」


 そんな会話を遮るように通信鏡が着信を告げた。

 テーブルに並べてあるのはアルケディウス。お父様、お母様直通のものと、ヒンメルヴェルエクトに預けたものと、ゲシュマック商会に繋がるもの。


「これは……ゲシュマック商会のものか?」

「うん、そう。何か、あったのかな?」


 私は心配になりながらも、受信した。


「マリカです。何か、あったんですか?」

『ガルフです。今、アルの通信鏡から連絡がありました』

「え? 本当ですか? 発信者は誰です? まさか、アル本人?」

『いえ……それが魔王ノアールなのです』

「「「「!!」」」」


 私達は皆で絶句した。

 ノアールが、何故?


『マリカ様と話がしたい、とのことだったのですが、この通信鏡からは繋げられないと伝えるとならば、明日、もう一度かけるから。と。

 場合によってはアル救出の為、ひいては今後の為の情報を提供できる。と』

「何故、ですか? そもそも何故、アルの通信鏡をノアールが持っているのですか?」

『それに関しては、アルが今、魔王城。……我々の知る魔王城ではなく、今魔王エリクスの、ですが、にいるから、だそうです』

「魔王城に?」


 魔王城というと私達の家を思い出すけれど、今、言われているのはエリクスとノアールが暮らしている真正の魔王城の方だろう。

 もしかしたら、前魔王『マリク』も暮らしていた場所。

『神』に繋がる何かがあるのかも。


『アルは今、『神』の手の内に在る。

 死んだ訳ではないけれど、自分の意志で戻れる状況にはない。

 衣服や持ち物は処分するように言われて預かっている。とのことでした』


 つまり、現在、アルは最悪な事に『神』の手に落ちている。

 誘拐実行犯がオルクスさん達ヒンメルヴェルエクトの『神の子ども』達だとしても追い詰め自白させることはできないということだ。


『明日の朝、一の火の刻。改めて連絡をする。

 アルの身柄を動かせる立場にはないが、今後の為に自分達と交渉するつもりがあるのなら、マリカ様に繋げ。とのことです』

「交渉……ですか」


 正直、気は進まない。

 この間、リオンを取り戻す時に彼らの提案に乗った結果、リオンは大けがをして危うく死にかけたのだ。結果としてリオンを取り戻すことはできたけれど。

 でも……。


「解りました。ガルフ。神殿には話を通しておきますから、朝一で通信鏡をこちらに持ってきて貰えませんか?」

『かしこまりました』

「とりあえず、アルの居場所が判明したのです。ガルフも無理しないで下さいね」

『ありがとうございます。では……』


 通話を切った後、私は会話の内容を皆に報告する。


「魔王ノアールが? アルが彼らの城にいるというのですか?」

「『神』の本拠地は魔王城、……エリクスとノアールの、ですが……なのでしょう。

 そこで、アルは『神』に何かをされているのだと思います」

「魔王城がどこにあるのか解りませんし、魔王達がアルを助けてくれるとも思えませんし。

……悔しいですね」

「『神』がアルを殺さないであろうことだけが救い。

 だから、私はノアールと話をしてみようと思います」

「マリカ?」「マリカ様?」「本気ですか?」

「だって、他にてがかりはありませんから。『神』側の情報を何か得られるかも」


 今回は面会ではなく、通信鏡同士の連絡だから、この間のように直接会って捕らえる、捕らえられるリスクもない。危険性はかなり少ない筈だ。


「ですが、交渉、ということならば相手はこちらに何かを要求してくる可能性が高いですよ。結果、この間のリオンのようにこちらがダメージを受ける事も考えられます」

「でも、最終的に彼らは約束を守ってくれました。彼らの行動は苛烈に過ぎましたが、それでも、そのおかげでリオンが戻ってきたのも事実ですから」


 私とてノアールとエリクスを無条件で味方だと信じているわけでは無い。

 だが、彼らは『魔王』という今の地位を失いたくないのだと思う。

 全世界から認められ、恐れられ、必要とされる。今の『特別』な居場所を。


「多分、『神』が目的を果たして、この地から去ってしまえばお役御免なのでしょう。

 だから、それを引き延ばすか阻止したいのではないかと推察します。

 話し合って利害関係が一致するようなら、交渉に乗るのもアリかと考えています」


 元々、魔王という存在は『神』が用意した都合の良い悪役。

 より強大な敵がいれば人間は、人間同士争い合うことが少なくなる。

 きっとその為に忠臣に憎まれ役を命じたのだ。


「私一存で決められる話では無いですが、もし、今後『神』によって不老不死を奪われて混乱する世界になったら『魔王』の存在は、逆にその混乱を収める救い主になるかもしれませんから」

「そう言う所は、流石マリカ様、ですね。感情と合理、効率を冷静に計算し判断できるあたり、流石為政者の魂を持つ者だと思います」

「別に計算してやっているわけでは無いですよ。

現状がどうかを把握し、どうすれば、今、そしてこれからに一番良い結果を出せるか、色々な方面から考えているだけで。

 保育士ってそういう職業でしたでしょう?」


 子どもというのは日ごと、秒ごとに成長変化していく生き物だ。

 それに対処し、適切に関わって行く為には目の前のことだけではなく、原因や要因を把握してそれの解決方法などを常に何種類も考えて、場に応じた対応をしなくてはならない。

 少なくとも私はそう教えられてきたし、未熟なりにそうやってきた。


「そうですね。そう言う意味で考えると我々が保育士に転生させられた、いえ、その知識や考え方を託されたのは意味があったことなのかも」


 微苦笑といった肩を竦めたクラージュさん、海斗先生から目を反らし、私はフェイとリオンにも告げた。


「とにかく、明後日のマルガレーテ様との会談の前に、できる限り情報が欲しいので、ノアールと交渉してみます。その上で協力関係を作るかどうかは後で考えますが」


 魔王との交渉開始を。


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