【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 礼大祭の報告

公開日時: 2023年2月28日(火) 07:18
文字数:3,333

 大神殿での大祭が無事終わり、私達はアルケディウスに戻って来た。


 終わった後、『聖なる乙女』に面会したいという商会や大貴族からの依頼は引きも切らなかったのだけれどとりあえず最小限にしてもらった。

 とにかく疲れていたからね。私が出て関わったのは後夜祭の市長公邸舞踏会と、その翌日に入れたプラーミァ、エルディランド、アーヴェントルクの契約商会との挨拶と確認だけ。

 後は全部、ザーフトラク様が処理して下さった。

 ご飯も作って下さったし、今回はもう拝むしかできない。

 ありがたや、ありがたや。


 そうして地の曜日の朝には、かなり熱の籠った民衆と


「次にお戻り頂けるのは姫君の秋国視察の際でございましょうか?

 姫君のお帰りを心からお祈り申し上げております」


 と、いう大神殿の見送りを受けて私達は帰国の途に就いた。

 どうしてもあちらは私達を『大神殿』の所属にしたいらしいけれど無視だ。無視。


「無理はしなくて構いませんがなる早で帰りましょう。今週中にはアルケディウスに帰りたいですね」

 随員さん達にお願いして私達は帰りの足を速める。


 アルケディウスの神殿からは

『祭りの次週だけで構いません。礼拝に御参加ください。

 参加できなかった者達が姫君への挨拶を望んでることでしょうから』


 と強く言われていたし、何よりリオンの体調も心配だったから。


「気にしなくていい。もう十分に復調した。『精霊神』達と『星』の護りのおかげだな」


 そうリオンは笑うけれど、基本的に私は信用していない。

 私達を心配させないという点において、リオンの嘘つきは筋金入りだ。

 旅行中は人が多くて込み入った話はできないけれど、ちゃんとどういう状況だったかを確認したかった。


 幸い、帰りに魔性の襲撃などは無く私達は予定通り、風の日にはアルケディウスに帰国する事ができた。


 いつもの通り、最初に第三皇子家に帰る。

 お父様とお母様が笑顔で出迎えて下さった。


「おかえりなさい」「ご苦労だったな。無事に……いや、一人も欠けずに戻って来てくれて何よりだ」


 今回は戻り次第、王宮に上がり皇王陛下や皇王家の方々に挨拶をする。

『神』の本拠地での儀式。

 間違いなく心配をおかけしてしまっただろうから。

 お父様とお母様に連れられて、私は王宮に直行すると既に準備が整えられていた。


「皇女 マリカ。

 大聖都の礼大祭より只今戻りました」


 謁見の間。

 皇族とその側近だけではあるけれど、正式な帰還の挨拶において


「うむ、よくやった。

 こうして、其方が無事に戻ってきてくれたことが何よりである」


 皇王陛下が褒めて下さる。

 国の父、お祖父様に認めて頂けるのは素直に嬉しい。

 まあ、その後すぐ


「其方の舞の噂は流れてきているがな。

 何故、大人しく言われた通りのことができぬ?」

「失礼な。今回は私、余計な事は何もしていませんよ」


 怒られるのは解っていたけれど、今回の件については私のせいではないので反論しておく。


「舞舞台が比類なき輝きを宿し、力を放った。

 七色の光が舞い、祭りを輝きで包んだ、と聞くが?」

「凄い情報網、早いですね。どうやって……って通信鏡ですか?」

「他にも色々な。で、何がどうしてそうなった?」

「さっきも言った通り、余計な事は何もしていませんから。

 ただ真摯に踊ったらそうなっただけです」


 本当に、言われた通りに踊っただけ。

 そしたら勝手に吸い取りモードが発動しただけだ。


「多分、あの広場と祭壇そのものに仕掛けがあるのだと思います。

 儀式は『神』に力を送るもの、ですから、去年だって似たようなことはあった筈です。

 今年は人が代わったので、多少は派手になったのかもしれませんけど」


 『星』とリオンが力を貸してくれたから、多分『神』の所に吸収限界の最大値が行ったのだろうとか。

 それでちょっと力が余ったので返したとかは言わない。

 確証があることでもないし。


「まあ、そうだな。

 新年の祈りの時も似たような感じではあった。

『聖なる乙女』が舞うと我々王の力が吸い取られ、いずこかに飛んでいったからな。

 あれが大量人数で派手に行われた、ということか」


 皇王陛下は納得したように頷くけど、私は『新年の祈り』という儀式そのものが解らないのでピンとは来ない。


「……新年の参賀の時も、舞で力を集め『神』に送る儀式なんですか?」

「私が知る限りはな。後は純粋に舞を捧げる儀式もあると聞くが、詳しい事は知らぬ」

「新年にも儀式があって、潔斎が行われるから来るようにと言われていますが……、話を聞くにそれに参加すると私は『聖なる乙女』である限り新年、アルケディウスにいられなくなるような……」

「その辺については、間近になったら問い合わせ、確認するとしよう。

 とにかく、マリカ。皆もご苦労だった」


 この辺、本気で検討すると長くなりそうなので、詳しくは後日と決まって話はとりあえず一端閉めることに皇王陛下はして下さった。


「皆も疲れているだろう。明日の空の日、休みを与える。

 マリカには神殿から夜の日に礼拝へ、という要請が来ているからな。一日だけであるがゆっくりと身体を休めるがいい」

「ありがとうございます」

「四カ国目の訪問も控えているし、無理はするでないぞ」

「はい」


 ご挨拶が終わり、私が謁見の間を出ると本当の側近以外は解散。

 ザーフトラク様とクレスト君はそのまま主の元に戻ることになった。


「できれば、リオンのことはまだ内緒にしていて下さいね。他の事は報告して構いませんから」

「かしこまりました」


 クレスト君は静かにそう頷いてくれた。

 次のフリュッスカイトへの遠征も多分同行する事になる。

 今後彼をどう扱っていくかも後で話し合った方がいいだろう。


「お前達、今日は向こうに行き、ゆっくりと休め。俺も行く」

「お父様?」


 館に戻った後、お父様は私達にそうおっしゃった。

 ミリアソリスとミュールズさんには魔王城の存在は話していない。

 話していないけれども、お父様が私達を預けた孤児たちの教育施設があり、そこに私達が帰って身体を休めているのだ、とは伝えている。

 カマラ、ノアールは今回、魔王城には行かず純粋に休養するそうだ。

 セリーナは帰る。ファミーちゃんが待っているし。


「お父様もご一緒に?」

「ああ、久しぶりに向こうの管理人とも話をしておきたいし、今後について相談したい事もある。大神殿から連れて来た娘も、向こうに預けるといいだろう。いいな?」

「お父様とお母様がよろしいのならそれで」

「私は明日の昼間、顔を出せたら顔を出します。とりあえず、今夜は向こうで羽を伸ばしなさい」

「ありがとうございます」


 そう言う訳で、私達は久しぶりに魔王城に戻った。

 二匹の精霊獣も一緒に。


「おかえりなさい!!」


 笑顔で迎えてくれた子ども達と一緒に遊んで、食事をして。

 大きなお風呂に一緒に入って、自分の部屋でぐっすりと眠る。

 それは本当に私にとって何よりのバカンスだった。


 お父様一人、城下町に泊ることになって寂しくないのかなと思ったけれど


「俺の事は気にしなくていい。明日にでも詳しく話をしよう」


 とあっさり行ってしまった。

 うん、明日の朝になったらお母様も来ると言っていたし朝ごはんを持って行って詳しく話をしよう。


 と私は思っていた。


◇◇◇


 それは、城下の者達が寝静まった深夜。

 時計上の時間が切り替わった深夜の魔王城前。

 会話する二人の男がいる。


「……来たな。アルフィリーガ」

「やっぱり、気付いていたんだな。ライオ」

「ああ。まだ、マリカに話したくない事なら聞かせなくていい。

 でも、俺には話せ。嘘は許さん」


 どちらの眼にも相手を疑う色は無い。

 今までとは明らかに変化した力に、互いに戸惑い悩んでいるだけ。


「その『力』はなんだ?

 お前は俺の親友だということは解っているし信じている。

 だからこそ問う。

 お前は『誰だ』?」


 問い詰める一人に、一人は一度だけ深呼吸。

 覚悟を決めた様に顔を上げて告げる。

 親友に。

 自分を親友と読んでくれる相手に寂しげに微笑んで。


「ずっと前から、感じていた。

 でも、今度の事ではっきりと『理解させられた』。

 俺とマリカを引き離し、俺の中のアイツを目覚めさせる。

 それが、奴らの今回一番の目的だったんだろう」


 決して告げたくない。


「ああ、俺は『神の端末』アルフィリーガ。

 かつてヴァン・デ・ドゥルーフと呼ばれた、魔性達の『マリク』だ」


 でも、偽りの無い真実を。


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