今迄、何回も旅をしてきた。
不老不死社会で、罪を犯すとかなり罰が厳しい為か。
それとも王族、皇族に剣を向けると罪が重くなる為か。
馬車が多い時では十台近い、私達の一団を襲ってくる盗賊などはいなかったけれど。
「右側から、飛行魔性が近づいている!
フェイ! ヴァルやゼファードと一緒に迎撃を!
マリカの馬車に近づけるな!」
「解りました」
「ウルクス! ピオ。獣型は足や動きが早いものが多い。
焦らず確実に仕留めていけ」
「「了解!」」
「アーサー、クリス、クレストは後詰めで馬車の警護を。
魔性達が精霊の力を狙って来ているのなら、目標はマリカか、食料品だろうからな」
「僕も、前線に出ます。邪魔にならない位の力はある筈です」
「絶対服従」
「あ、うっ……」
「後方担当を甘く見るな。マリカに、女性陣、食料品に国の重鎮もいる。
彼らを護るのは大事な仕事だぞ」
「……解りました」
今回はやけに魔性の襲撃に合う。
アルケディウスを出発してから、二泊三日で既に襲撃の回数は片手を超えてしまった。
「魔性を放置すると、アルケディウスの農地を襲い、人間を傷つけ精霊を喰らうかもしれません。
見つけたら、可能な限り速やかなせん滅をお願いします」
と、私が最初にお願いしていたこともあり、私達の襲撃四回、農地の精霊を襲っていた敵を二回。
私の護衛士達は蹴散らしてくれたのだ。
ただの魔性であるのなら、私の護衛士達の敵ではない。
その辺は信頼している。
私が信じる通り、程なく、外の喧騒は薄れ
「敵の排除に成功しました。出発します」
そんな頼もしい声が響く。
「解りました。ご苦労様。引き続きお願いします」
程なく止まっていた馬車はまた滑るように動き出した。
「今回は魔性がよく出没しますね」
「魔性は精霊の力を望んで喰らう、でしたか?
であれば二国の精霊の力を受け継ぐ『聖なる乙女』を狙っても不思議はないのでしょうけれど」
馬車の中で心配そうにつぶやくミュールズさんやカマラを私は宥める。
「ええ。でも何事も良く考えましょう。
こちらに来ることで、対処が難しい一般市民の働く畑や、普通の人達の参賀の列に魔性が行かなくて済む、と思えば」
私達には頼もしい護衛が付いているから心配はいらない。
特にリオンは魔性退治のエキスパートだから、襲ってくる敵の性質や能力を的確に把握して配下に伝えて倒してくれる。
安心して任せておけばいい。
「ただ、戻ったらお父様との相談は必要かもしれませんね。
実りが豊かな南部領地程、魔性が出現する可能性が高いようですから」
これから麦や作物の収穫シーズンが始まる。
作業に従事する人たちに危険が及ばない様に、騎士団の派遣とか考えておいた方がいい。
絶対。
その日の宿への到着は予定よりかなり遅くなったので、夕食は簡単な切り分けピザにした。
アーヴェントルクのチーズを使う事で、今までよりかなり美味しくなったと思う。
シンプルなエナソースとベーコン、チーズだけでもビックリするくらい美味しかったし、喜んでもらえた。
ピザはお手軽だし、乗せる具材でいくらでもバリエーションをつけることができる。
蜂蜜のピザとか、生ピアンとチーズのピザは、驚かれながらも好評だったっけ。
「ちゃんと食べていますか?
クレスト君」
食事時、私はまた、クレスト君にそんな声をかけてみた。
「あ、はい。
大丈夫です。美味しくいただいております。
姫君の御手ずから作られた料理を頂けるなど、本当に光栄です」
昨日の見るからに落ち込んでいた様子から比べると色々と吹っ切れた様子ではある。
「自分の未熟が良く理解できました。
実戦を経験できたのは本当に良い機会です。
この機会を逃さず少年騎士の実力に迫れるように、真摯に学んでいきたいと思います」
「そうして下さい。
子どもの地位向上は貴方達のような方にかかっています。
後に続く子の為にも、恵まれた貴方達に頑張ってほしいと思います」
「勿体ないお言葉。その信頼に応えられるように全力で勤めます」
聞けばリオンとカマラに誠実に謝罪して、今日は一緒に訓練に参加していた様だ。
素直に貴族を笠に着ず、自分の過ちを認められる分、きっと偽『勇者』エリクスより伸びしろはある。
ダルピエーザ様のスパイなのはしょうがないけれど、それ以外の点は同じアルケディウスの仲間なのだ。
頼りにしている。
特に大貴族名代であるクレスト君には、リオンを支えて欲しいもの……あ、そうだ。
「皆さん、聞いて下さい」
随員達の前に立って、私は皆の顔を見る。
ここは食堂だから台なんかない、と思っていたらリオンが踏み台を見つけて用意してくれた。
視線が全て、私の方を向く。
「明日から『大神殿』での祭事に入ります。
私は、ちょっとどういう流れになるかまでは解りませんが、挨拶を終えた後、潔斎がある、とかで奥に籠ることになると思います。
四日間、皆さんと顔を合わせる事はできないですが、リオンやザーフトラク様の指示に従って、待っていて下さい。
そして……」
大きく深呼吸。
はっきりと言っておく。
「もし、万が一、私が『大神殿』に残る。とか、アルケディウスに戻らない、とか言うようなことを言ったとしたら、それは操られて言っているということ。
本心じゃありません。
アルケディウスと連絡をとって、私を助けて下さい」
頼んでおく。
『神』『神殿』のやっかいなところは、私の中に変なモノを入れて、操るとかを平気でしてくるところ。
操られるような事になったら、私一人での事態解決は不可能だ。
「私は必ず帰ってきます。
戻ってきたら、また美味しいものを作りますから、こうしてパーティをしましょう。
どうか、宜しくお願いします」
最初の諸国訪問の時にも、皆に同じことを頼んだ。
あの時と同じように、随員達は全員。
一人残らず。
ザーフトラク様やミュールズさんまで例外なく、膝をつき頷いて下さっていた。
「我々の、全身全霊をかけて、姫君のお帰りを待ち、帰る場所を守っております。
ですから、どうか、憂いなく役目に専念なさって下さい」
今回の代表として言ってくれたのはリオンだ。
リオンと離れるのが一番怖いけれど……これは自分がやると決めた事だから、逃げられない。
ううん、逃げない。
「ええ、待っていて下さい。
必ず、帰りますから」
言葉に出す事で自分に誓う。
『神』や大神殿なんかに負けない。
必ず帰るのだ、と。
頼もしい『精霊の獣』とみんなに賭けて。
そうして、私は翌日、大神殿に到着。
ルペア・カディナに立った。
「お帰りなさいませ。『聖なる乙女』」
跪く神官長 フェデリクス・アルディクスの前に。
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